中越大震災における土砂災害等防止対策の取り組み

佐藤恭一(Kyouiti Satou、長岡市復興推進室次長)
小玉誠(Makoto Kodama、長岡市土木部河川課課長補佐)

「砂防と治水167号」(2005年10月発行)より

1.はじめに
 長岡市は,新潟県のほぼ中央に位置し,東に山脈,西には丘陵が,中央部を南北に信濃川が貫流しています。その信濃川を挟むように中心部には,市街地が形成され,それを取り巻くように田園地帯が広がっています。
 平成16年10月23日17時56分頃,新潟県中越地方の深さ13kmでM6.8の地震が発生しました。長岡では,震度6弱,また,長岡市に近い川口町では,震度計による観測が始まって以来の震度7を観測しました。

2.被害状況と避難勧告
 その後も,18時3分M6.3,18時11分M6.0,18時34分M6.5と最大震度6強の強い地震のほか震度1以上の地震が絶え間なく発生。被害は,甚大なものへと拡大しました。

 市内では,一時ほぼ全域で電気,水道が使用不能となったほか,いたるところで土砂が崩落し,道路は隆起や陥没しました。また,多くの家屋が全半壊,大勢の死傷者が出ました。
 たび重なる地震の発生により,住民は恐怖と不安に陥れられると同時に,水道や電気などのライフラインの使用不能などから避難所への避難者数は,最高時で50,100人(10月25日)と市民の25%以上にも達しました。

図−1 地震回数の推移 図−2 避難勧告の発令・解除の推移

 市では,地震発生直後の18時30分に災害対策本部を設置し,国・県・自衛隊・全国の自治体・市消防団などの応援と協力得るなかで被害情報の収集や避難所の開設・運営,食料・水の確保,道路などのインフラ応急復旧,地震関連情報の発信などに全力を挙げてきたところです。
 この中越大震災と10年前に発生した阪神・淡路大震災とは直下型地震では同様な地震です。しかし,大きな違いは,阪神・淡路大震災では建物被害が主でありましたが,中越大震災は,建物被害とともに宅地,農地などの崩壊や地すべり,がけ崩れなど地盤そのものが破壊されて大きな災害を引き起こす,いわゆる「地盤災害」が主なものです。
 地盤災害によって引き起こされた災害が,その後の度重なる余震の発生や降雨による急傾斜地の再崩落,崖地の亀裂の拡大による崩壊など新たな災害の発生が生じる可能性があることから,被害の大きかった市域東山沿いの集落の周辺を消防団の協力を得て調査しました。その結果,危険箇所が多数見つかり10月25日以降,22町内1,286世帯4,129人に避難勧告の発令を行いました。
 その後,危険箇所の監視方法や危険度合いの判断方法など独立行政法人土木研究所雪崩・地すべり研究センターの指導を得ながら状況を注視していましたが,危険がないとして,12月23日までにその大部分1,124世帯3,643人の避難勧告解除を行いました。
 しかし,依然崩壊や崩落の危険の可能性があるとして,126世帯486人が避難勧告継続のまま越冬を行い,急傾斜地や崖地の対策工事の完了を待っている状態です。

表-1 被害状況(平成17年6月現在)

3.土砂災害等防止対策の取り組み
 前述したように,中越大震災の特徴は,
@震源の浅い直下型地震で揺れが非常に大きかったこと
A余震活動が非常に活発で長引いたこと
B全国でも有数の地すべり地帯である中山間地で発生したこと
が挙げられます。
 これらのことから,いたるところで地すべりや急傾斜地の崩壊などといった土砂災害や,住宅宅地の擁壁等の転倒・倒壊などの被害が多発し,拡大していったものであり,まさに中越大震災が「地盤災害」といえる所以です。
 このため,被災地における避難勧告の解除,そして被災地の復旧,復興に向けて,土砂災害の防止対策や擁壁等の崩壊対策が最重点事業に位置づけられています。現在,事業が行われている災害関連緊急事業の箇所数は表−2のとおりです。


表−2 災害関連緊急事業箇所数(平成17年8月現在)


 これらの事業は,新潟県長岡地域振興局災害復旧部(平成17年4月1日新設)で精力的に取り組んでいただいているとともに,長岡市も地域防災がけ崩れ対策事業に着手したところです。
 この中で,中越大震災により,住宅宅地の擁壁等が転倒・倒壊したり,クラックなどの被害が多数発生したことから,国土交通省より災害関連緊急急傾斜地崩壊対策事業及び災害関連地域防災がけ崩れ対策事業の特例(表−3,特例措置の概要)を設けていただいたことは,被災地の復旧,復興にとって非常に有難い措置であったと思います。


表−3 特例措置の概要


 ここでは,長岡市が災害関連地域防災がけ崩れ対策事業の特例措置により取り組んでいる,高町団地における擁壁等の崩壊対策をご紹介します。
 高町団地は,昭和50年代半ばころに民間により開発された戸数約520戸,人口約1,820人の団地です。団地造成図を見ると,開発以前は標高約90mの丘陵であったが,標高70m以上の頂上部分を切土して周辺部を盛土し,その外側に擁壁を設ける形で造成された団地です。この団地内には,南北に悠久山活断層が走っている状況であり,この地震により,外縁部の盛土による想定以上の地震時土圧が擁壁を押し出して崩壊等の被害が発生したものです(写真−1,2)。
 現在,高町団地では2箇所で擁壁等の崩壊対策を行っており,地質調査及び工法検討を行った結果,下部のブロック積擁壁と上部の盛土が崩壊した箇所はジオテキスタイル工による補強盛土工法(図−3,対策工標準横断図),盛土がモタレ式擁壁を押し出して擁壁が変位した箇所はグランドアンカーにより擁壁の転倒を防止する工法を実施する予定です。

写真−1 人家基礎地盤まで崩壊 写真−2 ブロック積擁壁が崩壊

図−3 対策工標準横断図

4.今後の課題
 このように,国土交通省の特例措置により,住宅宅地の擁壁等の崩壊対策も事業として取り組めることになりました。
 しかし,被災地の多くが中山間地に集中したことから,人家が点在するために事業の対象とならず,自力での再建も困難な,がけ崩れや擁壁等の崩壊箇所が数多く手付かずとなっています。
 それらの対策,復旧が,被災地全体の復興に向けて大きな課題となっています。このため,中山間地の地域特性を考慮した,新たな支援策が地域コミュニティ維持のために必要ではないかと思っています。

5.おわりに
 長岡市は,平成17年4月1日付けで旧山古志村を含む5町村と合併したところですが,今年度を復興元年と位置づけ,新市をあげて復旧,復興に取り組んでまいります。
 最後に,地震発生直後から,国土交通省,新潟県をはじめ全国の多くの自治体や関係機関の皆さまから多大なご支援をいただき,誌面をお借りして心から感謝を申し上げます。