災害に強いまちづくりを目指して

江守光起(Mitsuoki Emori、京都府舞鶴市長)

「砂防と治水168号」(2005年12月発行)より

市の沿革
 舞鶴市は京都府の北東部に位置する人口9万3千人,総面積342km2のまちです。
 若狭湾に湾口を開いた舞鶴湾は,波静かな天然の良港を形成し,また海岸線一帯は,入江と岬が美しく交差したリアス式海岸で,若狭湾国定公園に指定されております。市内ほぼ中央に位置する五老岳からの眺望は,「近畿百景」の第1位にも選ばれております。
 古くから田辺城の城下町として発展してきた「西地区」には,城下町特有の古いまちなみと風情が残り,一方,「東地区」は,明治34年の舞鶴鎮守府開設以来,軍港のまちとして発展し,「赤れんが建造物」等の近代化遺産が数多く残っています。
 第二次世界大戦後,舞鶴湾は中国やロシアからの引揚港として,66万人余の引揚者と1万6000柱の御霊を迎え入れ,祖国での新たな出発を支え,現在は,環日本海・北東アジア地域との経済・文化交流の日本海側の交流拠点として,中核的国際貿易港を目指しています。

台風23号襲来
 昨年は,早くから日本列島に多くの台風が上陸しました。中でも台風23号はそれまでの台風と違い,強大な勢力を保ったまま上陸して,猛威を振るい,本市では河川氾濫や山崩れで6人の方が亡くなられたほか,全壊9棟・床上浸水691棟を含む3,400棟の建物被害,35haの田畑等の農林水産業被害など,被害総額28億4千万円にのぼる惨憺たる爪あとを残しました。
 特に,本市西側に位置する加佐地区では,普段穏やかな水面を宿す一級河川由良川が氾濫し,37人を乗せた観光バスをはじめ多くの車が水没しました。幸いにも,自衛隊,海上保安庁,警察,消防等の迅速な救助活動や,京都府による適切なダム放水量の調節により,多くの命が救われました。

緊急対応
 被災直後は,由良川沿いの上水道ポンプ施設が水没し,市全体の8割に及ぶ23,000世帯で断水し,4,500世帯で停電・電話不通となったほか,各地で道路が寸断され,多くの集落が孤立しました。
 こうした状況下で,自衛隊等や多くの自治体からの応援,関西電力・NTT 等の素早い対応をいただく中,最優先で水道,電気,電話等のライフラインの確保に努めました。道路が寸断され,孤立した集落へも京都縦貫自動車道を開放いただき,食料等の物資を届けることができました。建設業者の皆さんも,徹夜での道路崩土取り除き作業など,孤立集落の解消に奮闘いただきました。
 ごみ・土砂等の処理・収集,家屋の消毒やし尿処理,住宅支援,災害見舞金配布等の生活支援活動も災害の翌日より開始できました。
 給水,ゴミ収集などの業務にご支援・ご配慮いただいた各自治体や自衛隊,京都府産業廃棄物協会等関係機関の皆様に,誌面をお借りし,改めて厚くお礼申し上げます。



航空写真(写真提供:国土交通省)

復旧に向けて
 被災翌月の11月上旬には,一日も早い災害復旧と地域基盤の整備を目指して,庁内に農林と土木部門で構成する災害復旧プロジェクトチームを結成し,道路の応急復旧工事をはじめ,二次災害防止のための河川護岸工事,大量の土砂・倒木等の撤去を行いました。
 さらに本年1月には,3週間連続の災害査定を受け,一日も早い復旧に向け全力で取り組んでまいりました。既に,公共土木災害の査定箇所の全箇所について工事発注を完了し,現在市内各地で工事を施工中であります。
 また,国では,この度の甚大な被害を踏まえて,「由良川水系河川整備計画」を前倒しした「由良川下流部緊急水防災対策」を打ち出され,向こう10年間に500億円を投じ,「輪中堤」の整備や,水位や雨量など情報提供のシステム整備に取り組まれることになりました。市といたしましても,この対策により由良川流域の治水安全度が飛躍的に向上するものと確信しており,今後とも国・京都府等と一体となり,早期完成を促進してまいりたいと考えております。

長谷線(被災直後) 長谷線(復旧後)

今後の災害に備えて
 今回の災害を教訓として,今後の災害予防の取り組みも進めております。
 被害の大きかった由良川沿川地域では,住民の皆様の自主的な被害軽減活動に役立ててもらうため,早速,浸水想定区域・避難場所・避難経路を明示した「由良川洪水ハザードマップ」を作成し,全戸に配布しました。今後は由良川以外の二級河川についても,順次計画的にハザードマップの作成を予定しています。
 また,猛烈な風雨のため防災行政無線の音声が掻き消され,情報伝達に支障をきたしたことを踏まえ,加佐地区の区長宅や避難所等に「防災行政無線戸別受信機」を設置するとともに,救助活動や防災活動に役立てるため,「救助舟」を14隻配備しました。
 現在は,防災計画や災害時の出動マニュアル等を見直し,災害時の出動体制の強化を進めております。

由良川洪水ハザードマップ 救助舟

災害に強いまちづくり
 防災・減災には,基盤整備,砂防・治水対策,道路ネットワーク等ハード整備が不可欠です。厳しい財政状況ではありますが,長期的視野にたって,更なる整備を着実に推進いただくよう,国や京都府にお願いいたしますほか,市としても可能な整備を積極的に推進してまいりたいと考えています。
 また,ハード整備でカバーしきれない部分を補完するため,ソフト対策を工夫することが大切であり,自主防災など,普段から自助・共助・公助による協力・協調関係を構築しておくことが大変重要です。今回の災害に際しても,市内外からの多くの人々の協力が大きな力となりました。被災直後は,あまりにも甚大な被害のため,復旧を断念し地区を離れることが話し合われた集落もありましたが,幸い,現在はいずれの集落でも,「昔のような清流を取り戻し,この地区に住み続けたい」と,力強く復旧に取り組まれています。これには,一生懸命に復旧作業を手伝い,励ましの声をかけた多くのボランティアの方々が,被災し疲弊した人々を元気づけ,大きな力を与えたのだと考えております。
 このたびの災害は私たちに多くの教訓を残しました。一日も早く復旧を完了することはもちろん,今回の経験を活かして,災害に強い安全で安心なまちづくりを進め,魅力的で住みやすく,訪れる人にもやさしい「住民満足度日本一のふるさと舞鶴」を目指し,全市民一丸となって取り組んでまいりたいと考えております。
 後になりましたが,この誌面をお借りし,災害復旧にお力添えをいただいた多くの皆様に,衷心より厚くお礼申し上げます。

ボランティア活動