土砂災害の解消を目指して

山口博續(Hirotsugu Yamaguchi、福島県西会津町長)

「砂防と治水169号」(2006年2月発行)より

1.西会津町の概要
 本町は福島県の北西部に位置し新潟県と県境を接し,人口8,838人(平成17年4月1日現在)の町であります。町の中央を一級河川阿賀川が東西に横断し,海抜150〜200mの平坦地が河川に沿って盆地状に広がり,地質は緑色凝灰岩を主とした火山性岩類と深成岩類の花崗岩が広く分布しています。また,阿賀川沿いは礫質の段丘堆積物からなっています。
 気象は,日本海型に属しており,夏季は高温多湿,冬季は降雪量が多く平均降雪日数は53日,平均最深積雪量は93cmで,特別豪雪地帯の指定を受けております。

2.町づくりの基本理念
 「対話と思いやりの行政」「住民総参加のまちづくり」「ふるさと愛」を町政の基調として,住民福祉の向上と町勢の進展を図るため「すべてにやさしい健康のまち にしあいづ」を基本理念に掲げ,自立と協働のまちづくりを進めております。
<町づくりの重点事項>
(1)トータルケアの町づくり
 「百歳への挑戦」のスローガンのもと,保健・医療・福祉の連携を進め,自立した健康,寿命延伸を図る。
(2)ミネラル野菜による町づくり
 「健康な体は健康な食べ物から・健康な食べ物はミネラル分を十分に含んだ健康な土から」という考えに基づき,健康な土づくりとミネラル栽培による高付加価値農業を推進し,農家所得の向上と地域経済の活性化を図る。
(3)ICTの町づくり
 ケーブルテレビの情報整備を基盤として,ICTの町づくりを進め,就業の機会や雇用を図る。更に,SOHO(個人事業者)の育成やテレワークセンターの整備を推進し,地域の活性化や新たな産業の創出を図る。

高齢者との交流

3.西会津町の土砂災害の歴史
(1)昭和31年発生の集中豪雨災害
 本町では,過去に集中豪雨による土砂災害で家屋の倒壊や流失,そして,人の命まで奪われた大きな災害が幾たびか発生しております。その中でも,昭和31年7月16日から17日にかけて発生した,黒沢地区の大水害は想像を絶する悲惨な出来事として,人びとの記憶に残されております。
 16日夜半から降り続いた雨により,土石流が発生し冠水した田畑は約623ha,家屋の倒壊や流失は145戸,死者・行方不明者10名,負傷者7名,その他,道路の決壊190カ所,橋の流失が83カ所等など,本町にとっては過去に体験したことがない甚大な被災状況となった豪雨災害でありました。
 この被災により,住居を失った方や田畑の流失で生きる糧を失った黒沢地区の住民のうち9家族が,再起をかけて新天地ブラジルに集団移住したことは,記憶に残る出来事であり,移住された皆さんが現在も元気で過ごされていることは,黒沢地区の住民はもとより西会津町民すべての喜びであります。
(2)平成16年発生の集中豪雨災害
 活発化した梅雨前線が長期間停滞したため,本町にも記録的な雨量をもたらしました。
 7月12日夜半から降り続いた雨は,3日間の総降水量が210.5ミリを観測し,本町の主要な交通機関であるJR磐越西線の運休や磐越自動車道,国道49号,県道などの幹線道路の通行が出来なくなるなど,陸の孤島となってしまいました。一方,飯豊山系に集中的に降り続いた雨により,弥平四郎集落では,河川の増水で堰堤が決壊する恐れや土石流発生の危険が迫ったことから,地区住民が自主的に緊急避難場所へ集まり,災害から人命を守ったことは,災害に対する危機意識の高まりと,緊急時での適切な判断の結果であると考えます。

被災状況 砂防堰堤竣工

4.迅速な情報の収集と提供
 災害時には,正確な情報を収集し,住民の皆さんにリアルタイムで提供することが,悲惨な災害を未然に防ぐ最も重要な方法であると考えます。幸いにも,本町では町営のケーブルテレビを運営していることから,住民の皆さんへの情報の伝達手段として有効に活用し,一旦災害が発生しそうな状況の場合は,住民の皆さんの知りたい情報を正確により早く提供ができる条件整備は整っております。
 町内の各地区からのデータを収集し,雨量の情報や河川水量の状況などの情報を随時ケーブルテレビで情報提供することにより,住民の方の適切な対応が可能となりますし,一方,災害対策本部としても,住民の方の安全を第一に考え,避難勧告等の最良の行政指導が出来るものと考えております。

5.おわりに
 近年の災害の傾向としては,局地的に短時間で大量の雨が降り,土砂崩れや土石流等が発生し,それによって甚大な被害を受けるなどの被害状況が数多く発生しております。このような災害を未然に防ぐためには,正確な情報の伝達と災害に対する住民の方々の危機意識の高揚が必要不可欠ではないかと考えております。また,災害が発生した際の支援ボランティアの育成なども,今後検討していかなければならない課題であると思っております。
 町が策定した防災計画に基づき,地域住民の生命を守るということを基本として,災害に強い町づくりをしていかなければならないと考えております。