台風23号からの教訓

船坂勝美(Katsumi Funasaka、岐阜県飛騨市長)

「砂防と治水169号」(2006年2月発行)より

 飛騨市は,岐阜県の最北端に位置し,北に3,000m級の山々が連なる北アルプス連峰と東北に北ノ俣岳を頂き,遙か東南に雄大な御岳,東方に乗鞍岳を望み,北アルプスの支脈である1,000m余の山々に囲まれた地域にあります。
 この風光明媚の地において歴史に残る甚大な被害をもたらした平成16年10月20日の台風23号豪雨災害の復旧対策も,国,県,関係団体の格別の御尽力により可及的速やかに復旧工事に着手することができました。
 市内の各振興事務所を結ぶ国道,県道及び市道はいたる所で土砂流入,崩落,決壊をしましたが,1カ月後の12月には仮設道を含め安全な生活道路を確保することができました。また,JR高山本線も宮川本流に架かる3橋の落橋及び道床の流失等,甚大な被害を被りましたが,平成19年秋の全線復旧に向け工事が進められており,地域住民の明るい希望となっております(写真参照)。

宮川町岸奥地内(JR 鉄橋崩落) 宮川町岸奥地内(河川氾濫)

 今回の災害は,全く経験したことのない被害であっただけに,市としての対応,地域住民のとまどいも大きく今後に向けて反省すべき点が多々あり,発生から復旧までの経過をつぶさに点検,評価しながら今後の備えを図りたいと考えております。
 今回被災した施設の早期復旧のため,隣接の高山市を始め岐阜県,富山県及び富山市とも歩調を合わせ要望活動等を行ってきましたが,その一方では当市の問題として,努力しなければならない課題が浮き彫りになりました。その主なものは,「山林の荒廃」と「宮川本流への土砂流入による河床上昇」であります。
 山林は,貯水・保水機能を有し土砂流出等を食い止め,緑豊かな大地をかたちづくる「山紫水明」の源であり,山林の荒廃は憂慮すべき重要な問題であります。被災時に上空から視察し,山林の無秩序な伐採等による荒廃ぶりに目を覆いました。
 山肌は抉り削られ,その土砂は渓流へと流出し,国道,県道を大きく塞ぎ,或いは宮川本流へ流れ出ておりました。

古川町内山腹崩壊による土砂流失 古川町寺地地内(家屋の崩落)

 平成11年豪雨災害後,災害関連緊急砂防事業等によりスリット堰堤を設置していただいた渓流,及び,治山堰堤の設置された箇所は被害を最小限にくい止めておりましたが,堰堤の設置されていない山林においても山林伐採の手法に工夫を凝らせば土砂流出軽減が図れたのではないか。また,今回被害を増大させたのは山林から流出した流木ではないかと考えました。
 宮川本流に流入した流木は橋桁に詰まり,橋がダム化し行き場を失った水は両岸の地区に浸水被害をもたらしました。このことから山林の健全管理をおこなうために,間伐・枝打ちなどに市がある程度の関与を行い,災害に強い健康な山づくりに努めたいと考え,森林の健全保全のため「飛騨市ふるさとを守る森林環境の整備に関する規則」を平成17年4月に施行しました。
 もう一つが,山林の長期に渡る荒廃により宮川本流に流入し堆積した土砂が河床を上昇させ,治水安全度を低下させていくことであります。この問題解決が根本的な安心,安全な地域づくりには必要であります。
 現在,岐阜県では宮川水系災害復旧助成事業の採択を受け,宮川の流下能力向上のため,河積拡大と法線是正を実施していただいておりますし,宮川下流地域にある四つの発電ダム湛水区域内の堆砂除去を,関係電力会社に計画的に進めていただいております。
 近年の異常気象に対応するため危機管理体制を確立し,日頃より災害に強い地域づくりが求められております。今回の災害では治水,治山施設の重要性,必要性を改めて認識することとなり,災害に強いまちづくりを推進するためには更に健全な山林管理が不可欠なものであると考えます。
 当市の治水・治山事業につきましては,国・県及び関係機関皆様の多大なるご尽力をいただいておりますことに感謝申し上げるとともに,今後とも砂防関係事業の更なる推進をお願い致します。