災害を予防して,安全で安心なまちづくり

土野守(Mamoru Tsuchino、岐阜県高山市長)

「砂防と治水170号」(2006年4月発行)より

1.高山市の概要
 高山市は,岐阜県の北部,飛騨地方の中央に位置し,東側で長野県,富山県と接し,西側で福井県,石川県と接するなど,合わせて4県10市町村に隣接する市であります。
 平成17年2月1日,近隣9町村と合併し,新高山市としてスタートしました。
 人口は約9万7千人,市域は,東西に約81km,南北に約55kmに広がり,総面積は東京都とほぼ等しい2,177平方キロメートルという日本一広大な都市となりました。面積の92.5%を森林が占め,中部山岳国立公園の乗鞍岳などの雄大な北アルプスをはじめ,ブナ等の原生林,ミズバショウの群生地,巨樹巨木,滝,川の源流域や奥飛騨温泉郷をはじめとする温泉資源など,四季の変化に富んだ豊かな自然環境にも恵まれています。
 さらには,国宝の安国寺経蔵をはじめとする数多くの重要文化財も加わり,伝統文化,民俗芸能,食文化など,魅力的な個性溢れる地域資源を豊富に保有する都市となりました。
 春秋の高山祭りは「動く陽明門」とうたわれる絢爛豪華な祭り屋台の曳きまわしや「からくり」などで知られ,日本三大美祭のひとつといわれています。観光地としての飛騨高山は,年間の観光客が420万人を超える都市として発展してきています。
 本年は,市制施行70周年を迎え,これまでの先人たちの業績を称えるとともに,さらなる飛躍を目指して,「やさしさと活力にあふれる飛騨高山」の実現に向けて取り組んでいます。

位置図

2.台風23号・土砂災害状況
 平成16年10月13日,マリアナ諸島付近で発生した台風23号は,20日21時頃に岐阜市付近を通過,県内各所に被害をもたらしました。高山市では20日の昼過ぎから雨が強く降り始め,19〜20時の1時間に56.5mmの降雨を記録,20〜21日までの24時間雨量も256.5mm と, ともに高山測候所(気象庁)観測史上最大を記録し,19日朝から21日未明までの総雨量は276mmに達しました。
 市の南西を流れている川上川をはじめとする宮川左支川流域での降雨量が多く,流域内各地で河川の氾濫,土砂崩れが多発し,中でも高山市西之一色町の八幡洞や国府町の水上洞で土石流が,下岡本町では崖崩れが発生しました。市内で発生した土石流は,地先で小規模ではありましたが,大量の流木が流出して被害を大きくしました。
 この豪雨により,西之一色町で2名,国府町で1名の死者,河川の氾濫により行方不明1名,負傷者11名の犠牲者を出したほか,全壊3棟,半壊12棟,床上浸水329棟を含むおよそ1,620棟の建物被害,河川の決壊,道路,橋梁などに大きな被害をもたらす結果となり,被害額は総額で約240億円に及びました。



高山市国府町地内水上洞被災状況:土石流とともに流木が流出し,被害を大きくしました 高山市西之一色町地内八幡洞被災状況:土石流が人家を直撃し,2名の尊い命を奪いました

3.豪雨への対応
 市は,20日11時15分,大雨洪水警報と暴風雨警報を受け,警戒体制に入り,15時30分に災害対策本部を設置しました。その後も雨が続き20時,苔川沿いの堤防道路が冠水しているとの報告を受け,苔川沿いの住民1,100世帯(約2,800人)に対し避難勧告を発令,順次各地区の学校や公民館に避難所を開設し避難者を受け入れ,各地の避難所には一時約1,800人が避難しました。
 対策本部においては被災地の状況を調査し,全庁あげて市民の安全を守るための対応に努めるとともに,20時50分,人命救助のため自衛隊に出動要請をしました。21日午前3時30分,自衛隊88名が到着し,県警67名,消防団員が出動し,西之一色町(八幡洞),国府町(水上洞)の土石流発生現場での懸命な救助活動が行われました。


4.地域住民の結束力とボランティア支援
 今回の豪雨災害を通して地域住民の結束力,ボランティアの応援は災害対策の大きな力となりました。市から避難勧告が発令されると,町内会長や民生児童委員,消防団などがいち早く地域住民に避難を呼びかけ救助活動を行うなど町内ぐるみの素早い対応がなされ,住民が一致団結して災害に立ち向かい困難を乗り切ることが出来ました。
 また,一日も早い復興のためには,ボランティアの力が不可欠であると判断し,災害から一夜明けた21日には市,市社会福祉協議会,NPO法人による災害ボランティアセンターを開設しました。市内をはじめ,近隣町村や県外からも延べ5千人を超えるボランティアが集まり,土砂の撤去やごみの搬出作業など心強い応援を得ることが出来ました。


5.災害復旧への取り組み
 災害の早期復旧と地域基盤の再建を図るため,災害直後から応急復旧対策を進めるとともに,被災地の状況を調査し,全庁をあげて市民の安全を守るために努めました。
 市では,合併後の市域全体の災害復旧を総合的に担当する「災害復旧対策室」を設置し,土木施設災など621箇所の早期復旧を目指し本格的な工事を開始しました。市内の主な災害復旧事業としては,宮川水系災害復旧助成事業,災害関連緊急事業,土木施設・林道施設・農地等災害復旧事業に取り組んでおり,全事業箇所914箇所,総事業費33,354百万円となっています。
 宮川水系災害復旧助成事業は,岐阜県が実施する事業で,今回大きな被害を受けた宮川本川他4河川を宮川水系全体として一体的に整備することで,再度,同様な降雨に見舞われても,洪水を安全に流下させるとともに,浸水被害を最小限にとどめることができます。
 事業年度は平成16年度から20年度までの5年間で,全体事業費は約152億円の見込みとなっています。
 また,災害関連緊急事業についても緊急砂防事業6箇所,緊急急傾斜地崩壊対策事業2箇所と緊急治山事業14箇所の合計22箇所で実施しており,待ちに待った砂防堰堤等が17年度中に完成し,市民が安心して暮らすことができる環境となりました。

災害復旧に取り組むボランティア 高山市西之一色町地内八幡洞復旧状況:待望の砂防堰堤が完成!

6.今後の防災対策
 今回の災害を通して得た教訓を生かし,自然災害を未然に防止し,安全で災害に強いまちづくりを目指し災害予防の取り組みを進めています。
 土砂災害を完全に防止することは困難であることから,被害をより少なくするための災害予防対策として,先ずは,老人ホーム等の災害時要援護者施設や避難場所・避難路等を優先的に整備する目標を定めた「新・高山市 危険個所対策計画」を策定しました。
 今後は,この計画を基に国や県と連携をとりハード面の整備に努めていくとともに,ソフト対策として,危機管理体制を強化し被害を最小限度に抑える必要があると思います。
 今回の災害時に豪雨により防災無線の音声が聞き取り難いことがあったなど,改めて「情報伝達」の重要性を痛感しました。現在,合併に伴う防災行政無線のデジタル統合化など市内の防災情報の共有化に向けた見直しを行うとともに,通信手段の複数化として衛星携帯電話の整備を行いました。
 また,危機管理体制を確立するために,周辺自治体及び国,県との防災情報の共有化を進めているところです。
 昨年の総合防災訓練では,的確な情報把握と情報伝達の重要性を再認識し,情報伝達に重点を置いた実践的な防災訓練を実施しました。
 総合的な防災体制が,災害時有効に機能するためにも,防災訓練(図上訓練,実施訓練)を通じて災害に関する理解を図るとともに,地域防災力向上のための講習会や出前学習会などの活動を継続して取り組むことが必要であると思います。
 市民に対しては,土砂災害危険箇所をあらかじめ知ってもらうためのハザードマップや焼岳・御岳山の噴火時に想定される災害予想区域などをまとめた火山防災マップの配布,インターネットによる情報発信,防災ラジオの配布等を行いました。緊急時,確実に防災情報が得られるよう普段から心がけてもらい,「自らの命は自ら守る」「みんなの地域はみんなで守る」という防災意識の高揚に努め,避難誘導体制の整備や地域の自主防災組織における災害時要援護者の把握や避難体制の確保など防災体制の充実に向けた取り組みを進めているところです。
 今後は更にハード・ソフト両面の総合的な防災力を高め,市民が安全に安心して暮らせる災害に強いまちづくりを形成するための治水・砂防などの対策を推進し,一日も早く新高山市が復旧するように,努力してまいりたいと思います。
 最後になりましたが,災害直後から国土交通省,岐阜県をはじめ全国の多くの自治体や住民の皆様から多大なるご支援・心強い応援,お力添えをいただきましたことに誌面をお借りして心から感謝いたします。