福岡県西方沖地震から1年〜玄界島の被害と復興への取り組み〜

山崎広太郎(Hirotarou Yamasaki、福岡県福岡市長)

「砂防と治水171号」(2006年6月発行)より

1.はじめに
 玄界島は,博多湾の入り口に浮かぶ円錐形の島で,一本釣りや延縄漁業などの漁船漁業等を中心とした漁業の島です。集落は,島の南側斜面を中心に形成されています。
 南側斜面を中心とした地区は,昨年の「福岡県西方沖地震」により,壊滅的な被害を受け,現在も二次災害のおそれがあることから,災害対策基本法に基づき「警戒区域」を設定し,立入の制限を行っております。
 島民の皆様は,現在も仮設住宅での不自由な暮らしが続いておりますが,島民一丸となって玄界島の復興にがんばって取り組んでおられます。
 このたび,震災以来,復興に向けて取り組んできました島民・関係機関及び本市の活動内容を紹介させていただきます。

2.玄界島の現状
〈概要〉
○位置:福岡市西区(博多港から18km)
○人口:700人(男:339人,女:361人)
※H17.2.28住民基本台帳による
○面積等:面積1.14km2,周囲4.4km
○世帯数:232世帯 ※H17.2.28住民基本台帳による
○学生数:小学生34名,中学生18名,高校生37名 ※H17.3.22現在
○就業者数:301人(うち漁業就業者154人) ※H12国勢調査による
○インフラ:道路総延長3.1km,水道普及率97.3%(井戸2.7%),汚水処理…漁業集落環境整備,医療機関…診療所1カ所,歯科診療所1カ所
○交通機関:市営渡船「ニユーげんかい」(所要時間約30分,7往復/日)
玄界島の位置 集落部の航空写真

3.玄界島の被害状況
(a)地震の概要
 平成17年3月20日の10時53分,福岡県沖の玄界灘を中心とする「福岡県西方沖地震」が発生し,市内最大震度6弱(マグニチュード7.0)の強い地震が北部九州を襲いました。島のほとんどの家屋が一部損壊以上の甚大な被害を受け,重軽傷者
あわせて10名の人的被害も発生しております。また,道路の沈下や擁壁の崩壊,地割れなど集落全体にも壊滅的な被害を受けました。
〈被害状況〉
○人的・物的被害:負傷者13人,住家被害214戸(H17.8.30現在)
○避難状況:H17.3.20現在 避難者数433人,H17.4.19現在 避難者数418人
○島滞在住民:364人(H17.5.1現在)
○被害認定状況:全壊107件,半壊46件,一部損壊61件(全214件中)(H17.5.6現在) (内閣府基準に基づく被害度認定調査結果)
○公共施設等(下表)


宅地地盤の崩壊 漁港施設の被災状況 道路施設の被災状況

(b)島民の避難生活
 地震発生直後より余震が断続的に続いたことから,島民の皆様は,その日のうちに,福岡市中央区の九電記念体育館等の避難所へ自主避難されております。その後,関係機関の協力により,地震発生から約1カ月後に,かもめ広場(博多漁港)と玄界島に各100戸ずつの仮設住宅が完成しました。
 博多側にあるかもめ広場には,玄界島の小・中学校と保育園が閉鎖されたことから,子どものいる世帯などが中心に入居し,玄界島の仮設住宅には,漁業関係者が中心に入居し漁の再開に備えました。結果,島内外の仮設住宅に家族が分離することとなった世帯もありましたが,子ども達はかもめ広場周辺にある他の小・中学校に通い,漁業者は漁を再開し,一定の生活の落ち着きを見せました。

玄界島の仮設住宅

4.玄界島復興に向けた体制づくり
(a)地元の組織づくり
 5月7日には,島の復興に向けて島民で組織する「玄界島復興対策検討委員会(委員13名)」(以下,復興委員会)が発足しました。また,5月21日に行われた島民全体会議(約200名出席)で下部組織として島の各種団体から「復興協議委員会(協議委員14名)」が選出されております。
 復興委員及び協議委員が島民の代表として,福岡市とともに復興に向けて協議を行っています。
(b)福岡市における取り組み
@関係局間の連携
 地震発生の翌日から福岡市に「災害復興情報連絡会議」を設置し,関係部署のインフラ応急復旧や仮設住宅建設について連絡調整を行いました。後に「玄界島復興推進会議」として,本格復興等についても連絡調整を行っております。
A「玄界島復興プロジェクト」の発足(福岡市地震災害復旧・復興本部の設置)
 応急対策が収束に向かった4月12日に,市民生活の回復・安定及び都市施設等の復旧・復興をさらに迅速・的確・かつ重点的に推進するため,「福岡市地震災害復旧・復興本部」を設置しました。それに伴い,玄界島復興計画の策定を目的とした「玄界島復興プロジェクト」が副市長をトップとして発足しました。
B「玄界島復興事務所」の開設
 「玄界島復興プロジェクト」の発足と併せて,島の本格復興に向けた検討や島民との協議調整等を行うための組織として「玄界島復興事務所」を設置しました。4月20日に仮設事務所を開設し,7月14日には,島民の意見・相談の場となる本格的な事務所を開設しました。島民との共働による復興を推進しています。
(c)福岡県等関係機関との連携
@福岡県との連携
 島のインフラ復旧・復興のため,「玄界島災害復旧対策連絡会議」を設置し,担当部局間の連絡調整を行っております。
A研究機関との連携
 既存集落のある南側斜面における再建の可能性を判断するため,地盤工学会等の助言を得ながら,福岡県及び福岡市が,共同でボーリング調査を行いました。6月には,地盤工学会が,調査結果に基づき地元組織の「玄界島復興対策検討委員会」に報告を行っております。
 また,引き続き行われた斜面地のモニタリングや土質試験などの調査試験結果を踏まえ,復興に向けた斜面地対策検討の基本方針などの専門的かつ高度な意見や指導を得るため,学識経験者,福岡県,福岡市及び研究機関のメンバーから構成される「玄界島斜面対策委員会」を設置し議論を頂きました。
 10月24日には,「玄界島斜面対策委員会」よりの提言を受け,現在,斜面地の復興に向け,福岡県と福岡市が協力しながら「安全・安心なしまづくり」に向け,復興事業に取り組んでおります。


5.これまでの経緯−地元との取り組み−
 平成17年5月7日の第1回の復興対策検討委員会以来,地元委員と福岡市で復興に向け,ほぼ,毎週のように協議を行っております。
 5月21日に開催された「第1回島民総会」では,島民約200名が参加し,島の復興に向けて活発な意見交換が行われました。その中で,被害が大きい斜面部分の復興にあたっては,自力での再建は不可能として,行政による一体的な面整備の実施を要望するという地元の意向が固まっております。そして,震災から僅か10カ月後の1月28日に開催された第5回島民総会で新しいまちづくり案を提示し,島民全体の承認を得ております。
1年間の主な動き




島民総会の様子

6.復興計画
 玄界島の集落部の復興は,不良住宅が密集している地区の住環境改善または災害防止を図るため,不良住宅の除却,改良住宅の建設,道路・公園等の公共基盤整備を実施することを目的とした「小規模住宅地区改良事業」により取り組んでいます。この事業手法は,震災により壊れた住宅を不良住宅として取り扱うという国の判断により実施可能となりました。
 当事業を採用する利点として,@早期の事業着手が可能である,A要綱事業であり法的位置付けは低いが,ほぼ全員の島民の同意が得られており,事業の確実性がある,B事業計画の柔軟性・迅速性に優れる,の以上の三点が挙げられます。
 復興計画の計画戸数は,意向調査の結果に基づき,賃貸集合住宅130戸(市営住宅80戸,県営住宅50戸),戸建住宅用地50戸分の合計180戸となっております。また,車の通れる道路がなかった斜面地の集落地域には,幅5mの外周道路と幅4mの集落内道路を配置し,「雁木段」と呼ばれる島独特の階段状路地を生活用道路として再整備し,震災前の面影を取り入れています。斜面地に二段に並ぶ市営住宅のエレベーターを利用し,連絡橋を設置することで,斜面部の昇降の負担軽減を図っております。島の玄関口にあたる広場には,集会所や老人憩いの家が隣接し,お年寄りから子どもまでが集い,来島者と交流する「にぎわいゾーン」を整備します。






7.今後の取り組み
 震災から1年を待たずして,家屋の除却に着手できました。玄界島の将来を考えた島民の団結と,島民を牽引してきた地元の「玄界島復興対策検討委員会」の行動力が,早期事業着手を可能とした大きな力であると考えられます。
 本格的な解体・造成が始まり,平成19年3月(予定)には,先行して県営住宅が完成する予定となっています。市営住宅や戸建住宅が建設され,復興事業が完了するのは,平成20年3月の予定です。
 今後も,一日も早く,島民の皆様が玄界島での暮らしが取り戻せるように取り組んでまいりたいと考えております。
 最後になりましたが,震災直後から国土交通省をはじめとした関係機関や全国の皆様の多大なるご支援・ご協力を頂きましたことに,誌面をお借りして心からお礼申し上げます。