滝沢地すべりについて

松野輝洋(Teruhiro Matsuno、静岡県藤枝市長)

「砂防と治水171号」(2006年6月発行)より

◎藤枝市の概要
 藤枝市は,県都静岡市の西約20kmに位置し,南アルプスを望み,中央を流れる清流“瀬戸川”を中心として,南北に細長い形をしたまちで,北は赤石山系の森林地帯から,南は大井川下流の左岸まで,豊かな自然に恵まれた人口約13万人の中核都市であります。
 奈良・平安時代には,2つの郡役所(志太郡衙,益津郡衙)が置かれ,志太平野の政治・経済の中心として栄え,さらに,江戸時代には東海道五十三次の品川宿から数えて22番目の宿場町,田中藩の城下町として,東海道の交通の要衝・教育の中心として発展しました。そして,平成16年には市制施行50周年を迎えました。
 現在でも,JR 東海道本線,国道1号・国道1号バイパス・東名高速道路が東西に走り,さらに第二東名自動車道が建設されるなど交通の要衝となっています。歴史や風土に育まれてきた藤枝の文化を継承しつつ,誰もが「住んでよかった」「住み続けたい」と実感できるまちを目指し,「ひと・まち自然が美しく 夢と活力あふれる文化都市」を将来の都市像として,まちづくりを行っています。

◎地すべりの概要
 本市の滝沢地区は,JR 東海道本線藤枝駅より北方約15kmの山間地に位置し,平成17年7月9日の梅雨前線豪雨(173mm)により椿山(標高約484m)上部の東側斜面で地すべりが,幅約100m,長さ約160m,深さ約15mで約15万m3の規模と推定される地すべりブロックが確認されました。この地すべりブロックより約150m下には,県道伊久美藤枝線,並行して2級河川滝沢川が流れており,南側下流500m付近に上滝沢地区の集落(約70世帯)があります。
 7月11日の現地調査では,地すべりブロック頭部の市道で80cm程度の段差が確認され,7月26日の台風7号(連続雨量215mm)では,現地に設置された伸縮計が,時間最大変動量22mm/時,日変動量324mm/日を観測し,約1ヵ月後の8月25日の台風11号(連続雨量134mm)では,時間最大変動量3.7mm/時,日変動量59.5mm/日を観測しております。また,10月15〜18日の秋雨前線(連続雨量127mm)では,日変動量199.2mm/日を観測するなど,7月に観測を開始してから10月末の総移動量は2,200mmを越えております。その後,11月初旬から1月下旬にかけては晴天に恵まれ,日移動量1mm以下に落ち着きましたが,これまでの傾向から降雨に鋭敏に反応して地すべりが進行することが予測されました。

滝沢地区の地すべり状況

 このことから,当対策事業を完了するまでの間は地すべりの挙動を監視し,住民の生活の安全を確保することが急務となり,監視・観測機器を設置している県島田土木事務所の協力を得て避難体制を整えました。
 これにより,7月から10月まで雨の多い時期に,地すべり活動を監視・観察した情報を関係機関が共有し,県・市・地元町内会役員との協力で住民の早期避難に活用する体制を確立しております。
 一方で,各種機器が現地設置されるまでの間に,滝沢地区住民に早期避難の徹底を呼びかける説明会などを何度と開催し,地域中の連絡網を作成していただくと共に警戒態勢,避難所の運営等を内容とする「上滝沢地すべり対応マニュアル」を作成しております。
 平成17年7月26日には台風7号の接近により早朝から,静岡県中部に大雨・洪水・暴風警報も発令されたため,市は災害対策本部を設置して,上滝沢地区の約70世帯280人に対して避難勧告を発令し,35世帯109人が避難しております。また,8月25日の台風11号の接近した際には,上滝沢地区では7世帯13人が自主避難され,9月5日の台風14号の接近の際は,3世帯4人が自主避難をされております。
 現在は対策事業として,静岡県より申請された「平成17年度 滝沢災害関連緊急地すべり(渓流関連)事業」が国土交通省から採択され,県島田土木事務所により対策工事が進められております。これにより,主要な対策工事が8月末に完了する予定となり,地域の方々が安心して暮らせる状況になってきております。

対策工事を終え整備された滝沢地区
〔対策工事概要〕
・応急横ボーリング n=4本(100m/本)
・応急排土工 V=8,000m3
・吹付法枠工 A=1,200m2
・横ボーリング工 5箇所 (45本)
・鋼管杭工 59本(φ550mm,t=38mm)


監視・観測機器一覧表

◎おわりに
 梅雨前線や台風時の集中豪雨・地震等の自然災害を未然に防止し,災害に強いまちづくりを形成するためには治水・砂防などの対策が必要不可欠であると思っております。平成17年7月11日に滝沢町内会役員の立会いのもとに椿山の現地調査を県島田土木事務所と実施した際には,このように大きな地すべりであるとは思いもよりませんでした。地すべり発生後に三度の台風が発生したにも関わらず,これといった被害を受けずに済んだことは,県砂防室と島田土木事務所の早い対応と国・県及び関係機関の多大なる協力によるものと深く感謝しております。この場を借りてお礼申し上げます。