平成17年の台風14号土砂災害について

松浦甚一(Jinichi Matsuura、愛媛県鬼北町長)

「砂防と治水173号」(2006年10月発行)より

1.はじめに
 鬼北町(きほくちょう)は愛媛県西南部に位置し,東部と南西部は高知県と接しています。平成17年1月1日に旧広見町・日吉村の2町村が合併して誕生した人口約12,800人の町で, 総面積241.87km2の8割を森林が占め,町内のほぼ中央を東西に日本最後の清流と言われる四万十川の最大級の支流である広見川が貫流しています。
 周囲は1,000m級の山地が連なる典型的な中山間地域で,気候は概ね温暖ですが,昼夜の大きな温度差と地形の影響により霧の発生が多く,冬季の季節風と夏季の高温多雨が特徴です。東部の冬季は地理的に南国に位置していますが,季節風で積雪が稀に1mを超えることがあります。
 道路網は町内を国道320号が横断し,町内北東部を抜けて愛媛県大洲市の松山自動車道と高知県須崎市の高知自動車道へ繋がる国道
197号と接続しています。また,町内中心地で国道320号と南北に交わる形で国道381号が南方面の高知県四万十市へ,国道441号が北方面の大洲市に伸びています。


2.台風14号・土砂災害状況
 大型で強い台風14号は,平成17年9月6日九州西岸を縦断。昼前には鬼北町を含む県の西部一帯が,そして昼すぎには県の中部が暴風域に入りました。
 激しく降り続く雨,不気味に吹き荒れる風。進行速度が遅く愛媛県においても家屋等の全半壊・浸水,がけ崩れ,土石流,道路等の損壊や農作物の被害に加え,負傷者が発生するなど甚大な被害をもたらしました。
 鬼北町の9月4日から6日までの降雨量は,期間降水量428mm,最大時間降雨量41mm,日最大雨量はこれまでの記録を更新する303mmの豪雨に見舞われました。
 このため町中心地から約10km北に位置する愛治地区,25km東に位置する下鍵山地区で,山腹崩壊に伴う土石流が発生し,人的被害は発生しなかったものの,家屋崩壊をはじめ国道・町道・家屋・農地への土砂流入など悲惨な状況を呈することとなりました。愛治地区の土石流は6日午後6時前に発生し,約500mにわたって土砂が流れ出て家屋・町道・農地に被害が発生することとなり,地域の住民が近くの集会所に自主避難を行いました。また,下鍵山地区では国道320号に土砂が流入し一時通行不能となりました。
 その他町内の県道・町道等公共施設の損壊,田畑の冠水,農作物の被害,河川の増水による道路の冠水で通行不能箇所が多発したため,一時孤立する集落が発生するなど緊急対応に追われました。


愛治地区土石流発生箇所 愛治地区土石流被災状況:幸い人的被害はありませんでした

3.災害復旧への取り組み
 災害発生箇所の早期復旧と地域基盤の再建を図るため,翌朝から被災地の応急復旧対策を行うとともに,被災状況を調査し災害復旧への取り組みをすすめました。
 町の災害復旧事業は,町道や普通河川・準用河川の公共土木施設災害25件,事業費70,208千円,農地・農業用施設災害37件,事業費51,194千円,林道災害2件,12,740千円が採択となり,平成18年度に復旧完了の予定となっています。
 また,今回の災害の中で最も被害が甚大であった土石流災害発生箇所は,愛媛県の災害復旧事業として災害関連緊急砂防事業の採択を受けて,平成18年度事業着工の運びとなりました。このことに対し,国,県をはじめ関係者のみなさまに厚くお礼申し上げます。
 このことにより災害関連事業として一体的に整備されれば,今後の被害を最小限度にとどめることができるものと考えております。

4.今後の防災対策
 平成16年度,平成17年度と2年連続の大きな災害に見舞われ,その対応や反省を踏まえて,自然災害や人的災害等に対応する初動体制及び危機管理体制の充実強化を図るとともに,全集落での自主防災組織の結成,迅速で確実な災害情報を伝達する防災行政無線システムの整備や地域防災安全対策の徹底と消防・防災意識の啓発に努めたいと思います。
 また,東南海・南海地震防災対策推進地域として指定を受けたことの重大性を認識し,地震による防災対策はもとより,各種の災害に強いまちづくり推進のため,防災対策の強化と充実に努めたいと思います。