安全・安心の雲南市(まち)を目指して―平成18年7月豪雨災害を教訓として―

速水雄一(Yuichi Hayami、島根県雲南市長)

「砂防と治水174号」(2006年12月発行)より

1.雲南市の概要
 雲南市は,大東町,加茂町,木次町,三刀屋町,吉田町,掛合町の6つの地域からなり,島根県の東部に位置します。北部には,出雲平野が広がり,松江市,出雲市と接し,南部には中国山地が連なり広島県に接しています。市内には,1級河川の斐伊川と支流の赤川・三刀屋川・久野川,その支流である阿用川,吉田川などのほか,神戸川に注ぐ稗原川,波多川が流れています。このため,加茂町から大東町,木次町,三刀屋町にかけ,斐伊川と赤川,三刀屋川の合流地点を中心に平坦部が広がっていますが,南部は中国山地にいたる広範囲な山間部となっています。
 人口は44,000人,面積553.37km2で,島根県の総面積の8.3%を占め,その大半を林野が占めています。
 気象は,年間降水量が1,700〜2,000mmで,南部では冬季における寒気が厳しく,積雪の多い地域があります。
 市役所の組織は,本庁舎に加え,地域振興や窓口業務などを実施するために合併前の旧町村ごとに6つの総合センターを配置しています。



2.7月豪雨への対応について
 本年7月豪雨は,全国的に甚大な被害をもたらしましたが,本市においても,時間雨量67mmという経験したこともないほどの激しい雨が市内南部の吉田町,掛合町の地域を中心として降り続き,残念なことに1名の尊い人命が失われました。また,道路の寸断や家屋の損壊・浸水被害,水道の断水などが市内各所で発生し,大きな爪跡を残しました。
 家屋については,住家のみでも全壊1棟,床上浸水8棟,床下浸水45棟の被害であり,雲南市内での公共土木,農林業,文教施設等の被害額は約50億円にのぼりました。
 7月豪雨に際しての本市の対応は,7月17日早朝に大雨洪水警報が発令されたことに伴い,朝6時30分警戒本部を設置し,その後,時間雨量67mmという未曾有の豪雨を観測し,市内各所での土砂崩れ発生の情報を受けたことから,同日朝8時30分に県下で最初に災害対策本部体制へ移行しました。
 災害対策本部設置後は,市内全域へ土砂災害への警戒と,危険を感じたら自主避難を行っていただくよう, 告知放送やケーブルテレビの文字放送により,市民の皆様へ呼びかけを繰り返し行うとともに,自主避難をしていただくための避難場所の指定と住民の皆様へ周知を行い,また,避難場所への職員配置を行いました。
 雨は一時小康状態となっていたものの,7月18日夕方から翌19日未明にかけてまた強く降り続くようになり,一時は吉田町への幹線道路がすべて土砂崩れ等により不通となるなど,混乱した状態となりました。また,平坦部の三刀屋町においては,1級河川斐伊川の支流である三刀屋川の増水に伴い,雲南市になって初めての避難勧告を発令しました。
 7月豪雨に際して,避難勧告を含めて避難場所へ避難された住民の皆様は,避難所29箇所へ160世帯,409人となりました。

3.被害の状況と復旧の取り組み
 今回の7月豪雨では,特に,市内交通網の大動脈である国道54号並びに国道314号が土砂の崩落により一時通行止めとなるなど,市内での被害は,市道135箇所,市管理河川114箇所など公共土木関係が357件,農林土木関係が676件と非常に被災箇所が多く,市では早期復旧を目指して,現在全力で取り組んでいるところです。
 また,1名の犠牲者が発生した掛合町多根は,「災害関連緊急急傾斜地崩壊対策事業」の採択をいただき,今後島根県において工事が進められることとなっています。9月には激甚指定を受け,負担軽減が図られることとなりましたが,市としても,一日も早く災害復旧工事が完成するよう,施行業者,行政が一体となって進めてまいりたいと考えております。


7月豪雨災害被災状況

4.防災対策の取り組み
 災害対策としては,まず基盤整備事業の推進が一番であります。島根県におかれましても,危険箇所の解消に向けて,年次的に事業を実施していただいておりますが,すべての箇所を解消するためには,まだまだ長い歳月を要する見込みです。本市のように山間地に集落が点在する地域を多く有する自治体においては,ハード事業に加えて,ソフト事業として自主防災の取り組みを市内全域に広げていくことが重要だと考えます。
 本市では,総合計画の柱に「共働による自治」を掲げ,公民館,小学校区を単位として地域自主組織の結成を呼びかけております。来年度中には市内全ての地域において44の地域自主組織が結成される予定です。この地域自主組織の活動は,地域振興,福祉,防災・防犯などそれぞれの地域によって違いますが,市としましては自主防災の取り組みを盛り込んでもらえるよう今後呼びかけを行っていく予定です。既に,自主防災の取り組みをされ,地域独自の防災計画を作成された地域もあります。こうした事例を参考として,自主防災組織の立ち上げや防災学習のメニュー化を図り,市内全域での自主防災取り組みを支援していきたいと考えております。
 また,昨年から島根県砂防課のご協力をいただき,地域の土砂災害に対する防災学習を定期的に実施していただいており,今後も引き続きこの事業を実施していきたいと考えます。

5.7月豪雨の教訓から
 今回の7月豪雨は,合併後初めての大規模な災害であり,職員招集体制や情報収集・伝達等の応急体制について課題が多く残りました。しかしながら,一方では早い時期から自主避難の呼びかけを行うとともに,避難場所への職員配置を行うことができたことは一定の評価ができるものと考えております。また,雲南市消防団の皆様には,初期からの警戒活動,住民の皆様への自主避難の呼びかけなど,昼夜を分かたず活動にご尽力いただきましたことに深く感謝いたします。
 市では,この災害を教訓として,日頃からの備えとして毛布や防水シートなどの備蓄を各総合センターに計画的に行うこととしました。また,市内の危険箇所について住民の皆様へ周知徹底を図ることが急務であると考えております。来年度には土砂災害防止法に基づく「土砂災害警戒区域」の設定に向けた調査が島根県において行われることとなっております。この情報をいち早く住民の皆様へお伝えできるよう努めるとともに,今後とも危険箇所の周知徹底を図り,自らを守るためには「日頃からの備え」と「早期の自主避難」が重要であることを住民の皆様に再認識していただけるよう,地域における防災学習会の支援や講演会の開催など積極的に進めていく考えであります。併せて,危険箇所や避難場所の徹底等,地域自主組織を核としたきめ細やかな防災体制を市民の皆様と共に構築していかなければなりません。
 また,合併により広域化した市域において,的確に災害対応を実施するためには,迅速で的確に情報の収集・伝達ができる手段の整備・検討が必要です。市役所内部の体制の整備は当然として,合併前の旧町村ごとに方式が違っている告知放送の一元化や,災害時に有効な情報伝達手段としての防災行政無線の整備についての検討を急がなければならないと考えております。いつ起こるかわからない災害に対して,行政,住民が一体となって取り組み,「安全・安心の雲南市」の実現に向け邁進してまいりたいと思います。