自立を目指すまちの防災体制

矢田治美(Harumi Yada、鳥取県日南町長)

「砂防と治水175号」(2007年2月発行)より

1.はじめに
 鳥取県日南町は,中国山地のほぼ中央に位置し,北西部は島根,南は岡山,南西部は広島と3県に接し,山陰・山陽を結ぶJR伯備線の要路となっています。
 沿革としては,昭和34年に新市町村建設促進法による総理大臣勧告に基づいて5町村の合併が実現し,現在の日南町が誕生しています。今回の平成の市町村再編では合併の道を選択せず,単独自立のまちづくりを進めています。
 町域は,東西に25km,南北に23kmという広がりを持ち,総面積は340.87km2。裏日本型気候区の中国山地型気候で,平均気温は標高490mの地区で約11度,降水量は年約2,000mmで,冷涼多雨な気候です。降雪期間は12月から3月で,多い地区で1.0〜1.5mの積雪があります。南部には中国山地の背梁線である1,000m級の山がそびえ,北部はなだらかな準平野台地が広がっています。県3大河川のひとつ日野川は,本町に源流を発し町の中央部を流れ,谷間から大小の河川がこれに合流しています。これらの河川の流域を中心に田園が広がり,標高280mから600mの間に大部分の集落と耕地が集まっています。

2.平成18年7月梅雨前線豪雨災害
 平成18年7月18日,朝方から降り始めた梅雨前線に伴う雨は夕刻には豪雨に変わり,時間雨量45mmを越える時間帯もあり(日雨量は200mm超),19日午前0時30分には,災害対策本部を設置しました(21日午前9時解散)。町内各地では,土石流の発生などで11世帯23人が自主避難を行い,日南町から下流の米子市を結ぶ国道180号線の途絶や県町道も寸断され,町営バス,JR の運休など交通機関も麻痺しました。夏季休業の中学校を除き,町内小学校と保育園の臨時休業などの連絡を行い,夜明けを迎えました。
 夜明けとともに,職員総動員体制で現地調査,災害報告を行いましたが,道路関係(以下,国県町合計)71箇所,河川砂防104箇所,治山17箇所,農地施設等244箇所など,まさに町土全体が満身創痍の状況でありました。


被災状況

3.自治防災組織の活躍と復旧への取り組み
 このように災害が多発したのにも関わらず人的被害はゼロでしたが,この背景には,自治防災組織の活躍があります。日南町では平成17年から旧村単位に自治会組織の上に「まちづくり協議会」を立ち上げています。協議会は,平成18年1月の豪雪などを契機に自主防災体制の強化に努め,いくつかの協議会では,町が災害対策本部を設けると同時に,協議会でも本部を立ち上げ,自主避難者への応援,自衛消防団等の見回り,町への災害報告を行いました。町でもこれらの活動を支援するため,専任の「防災監」や補助対象にならない災害の単独補助制度の予算化を図りました。
 最終的には,町関連で242箇所,県関連で84箇所,町単独で93箇所の事業規模となりました。このことに対し,国,県をはじめ関係各位に厚くお礼申し上げます。

4.おわりに
 振り返ってみると,平成12年10月の鳥取県西部地震から毎年のように,異常気象から災害が発生しています。地球温暖化の中で“異常”が恒常化してきていると感じています。日南町では,防災専門部署(自治振興課)と専任担当者(防災監)を設けて,建設農林災害を対応する部署(建設農林課)と一体的な対応にあたっています。また,各戸への防災行政無線,ケーブルテレビの接続,公共施設間のIP 電話や住民カードを利用した安否確認システムなども整備しました。
 幸いにも自然災害での人的被害は発生していませんが,今後とも町単独の防災訓練などを通じて,小さい町の自立した災害対策を進めて参ります。