平成18年9月16日秋雨前線による集中豪雨を受けて

坂井俊之(Toshiyuki Sakai、佐賀県唐津市長)

「砂防と治水175号」(2007年2月発行)より

1.唐津市の概要
 唐津市は佐賀県の西北部に位置し,平成17年1月1日に8市町村が合併,さらに平成18年1月1日に1村が加わり,人口134,000人,面積487.45km2の新「唐津市」として誕生しました。海・山・川の響きあいが新市の魅力を輝かせ,新しい活力を創る「響創(きょうそう)のまちづくり」を基本理念にかかげ新市として出発しました。
 市の中央を武雄市の青螺山(せいらざん)を源とし南北に縦断して唐津湾に注ぐ1級河川・松浦川が流れ,この松浦川に厳木川,徳須恵川をはじめ多くの支流が流れ込む地形を形成しております。風光明媚な自然,歴史と伝統にはぐくまれた豊かな文化などたくさんの地域の宝を有しております。


2.台風13号による秋雨前線豪雨災害
 平成18年9月16日(土)の早朝,九州北部に停滞する秋雨前線が接近する台風13号の影響を受け活発化し,佐賀県西北部地区を中心に局地的な集中豪雨に見舞われ,発生したがけ崩れや土石流等で佐賀県全域で甚大な被害を受けました。隣接する伊万里市では発生した鉄砲水に流され親子二人を含む3名の方が死亡するという痛ましい災害となりました。
 本市でも市の東部に位置する旧相知町,旧厳木町を中心にがけ崩れや土石流など近年まれにみる大災害となりました。

 局地的な豪雨となった相知町では降り始めの16日未明から17日にかけ416.5mmを記録し,特に16日の午前7時から午前11時の4時間に304mmを記録するなど過去に類のない記録的な豪雨となりました。このため湯屋地区,田頭地区の2箇所でほぼ同時刻の午前10時43分と午前10時50分に山腹崩壊による土石流が発生し,4戸の家屋が全半壊して避難途中の親子3人が倒れた家具に挟まれるなどして負傷されるという災害が発生しました。幸いにも軽傷で大事に至らず一安心したところです。また,湯屋地区で発生した土石流により全壊した家屋の確認のため出動した地元消防団員が帰還する途中,田頭地区上流で発生した土石流に気づき間一髪で難を逃れたということもありました。
 この土石流により市道橋を含む6橋が流失したり県道,市道,農道,水田などが流木や土石流で埋没するなどの被害となりました。とくに水田のほとんどが稲刈りを2,3週間後に控えた時期でしたので農家の落胆は大変大きなものがありました。
 また,ライフラインである電気,通信,上水道などが被災し停電,不通,断水など発生しましたが,関係機関の深夜に及ぶ復旧作業により完全ではありませんでしたが一部を除き上水道は翌日,電気は翌々日には復旧することが出来ました。県道は流出した立木でふさがれ被災現場に近寄ることができず復旧作業に支障を来たしました。この立木のほとんどが樹齢30〜50年の杉,桧の大木であり重機での排除がはかどらず,切断,積み込みに苦労しましたが,関係者の懸命な復旧作業のおかげで9月26日午後5時全面開通することが出来ました。
 この秋雨前線及び台風13号による被害は市全域で発生し,災害箇所は道路,河川,農地,農業用道水路,溜池,頭首工,上下水道など合わせて2,900箇所,被害総額にして40億5千万円に及ぶ大災害となりました。


土石流により倒壊した家屋(湯屋地区)

流失した市道橋(田頭地区)

埋没した水田(田頭地区) 県道を塞いだ立木(湯屋地区)

3.被害後の取り組み
 特に雨のひどかった相知支所では16日午前6時41分に唐津地区に大雨洪水警報,雷,波浪注意報が発令されたのを受け,午前7時00分に災害情報連絡室を設置し,午前7時45分に有線テレビで気象に関する情報を流し注意を促しました。午前8時に支所全職員に登庁要請。連絡の取れた職員から登庁し,被害の連絡調整に忙殺されました。支所に通じる国道,県道も一部で冠水し,連絡は取れても支所まで相当な時間を費やして登庁した職員も少なからずおりましたが,午前10時ごろまでにはほぼ支所全職員が登庁し対応にあたりました。午前9時23分にIP 告知放送及び有線テレビで,住民への警報発令周知及び土砂災害等への注意を促しました。午前10時40分唐津市災害警戒本部(相知支部)設置。午後4時50分唐津市災害対策本部(相知支部)を設置しました。この間,消防本部,地域消防団幹部及び市の幹部職員により今後の災害対策,避難者への対応など協議しました。
 その後,午後5時00分に土石流が発生した旧相知町の湯屋地区,田頭及び長部田地区の一部に避難勧告を発令し,避難した住民は自主避難と合わせると16日の災害当日,相知交流文化センターなど4箇所の公共施設に91世帯185人が避難する事態となりました。とくに避難勧告が出された湯屋地区及び田頭地区の避難者は着の身着のままでの避難となりました。
 まず,避難者の確認及び炊き出し,寝具の手配など協議し,炊き出しについては当面支所の女性職員で対応し,その後,職員を含む地域婦人会や食生活改善推進協議会の方々で朝,昼,夕の食事のお世話を避難所を閉鎖する9月30日までしていただきました。早朝より献身的なお世話をいただき避難生活者から感謝の気持ちが多く寄せられました。
 家屋が全半壊した6世帯の被災者の方については,市営住宅の空き部屋や民間の空き家屋等を紹介し転居いただきました。中には困ったときはお互い様だから家賃は無料でとの心温まる申し出もありました。また,被災家屋の土砂等の除去や使えなくなった家具等の片付けに多くのボランティアや地域消防団員が,厳しい残暑の中で作業に従事していただき早期にある程度の片付けを終えることができ,被災者の方からの感謝の言葉をいただきました。

4.今後の取り組み
 今回の災害を教訓として,今後,災害予防に重点を置いた対策が必要であることを強く感じました。避難のための的確な情報伝達や避難所への安全な誘導,停電及び夜間の対応など事細かなことについてもマニュアル化が急務と思われます。情報をリアルタイムで受信できる反面,停電時の対応などまだ課題はあります。日頃の訓練や住民の防災に対する意識の高揚など行政と住民が一体となって防災意識の共有を図る必要があります。また,地域防災の要となる地域消防団の重要性,必要性を改めて感じました。今後,さらなる連携強化に努めたいと思います。
 今回の山腹崩壊による土石流災害を経験し,森林の持つ多面的な特性を生かすための日頃からの森林管理の必要性など多くを学びました。
 不幸にして災害が発生した場合を考慮し建設業をはじめとする各企業等との災害時における支援協定など,まだまだ拡充しなければならない課題は多くあると思いますが,行政と住民が防災に対する意識を一つにしてこれからも「安全・安心のまちづくり」に取り組む所存です。
 また,今回の災害について各方面より多くの義援金や心温まる見舞い品等いただきありがとうございました。
 結びに,国,県をはじめ多くの関係機関や関係者の迅速な対応をいただき,災害関連緊急砂防事業や災害関連緊急急傾斜地崩壊対策事業などに採択いただき災害復旧が着実に進んでいることにつきまして心より厚くお礼申し上げます。一日も早い復興を目指し職員と一丸となって取り組む所存です。今後ともご指導,ご鞭撻をお願いします。