平成18年7月豪雨災害〜地域のつながりが大きな力を発揮〜

山田勝文(Katsufumi Yamada、長野県諏訪市長)

「砂防と治水176号」(2007年4月発行)より

はじめに
 諏訪市は,本州及び長野県のほぼ中央,諏訪盆地の中心に位置し標高761.45m, 面積109.91km2, 人口約53,000人,地形の特徴としては,北西に諏訪湖,北東には八ヶ岳中信高原国定公園に指定されている霧ケ峰高原,南東に八ヶ岳連峰を望み,豊かな湧出量を持つ温泉に恵まれたまちです。
 私の部屋のすぐ隣に高島城が見え,天気がよく見晴らしのよい時には南の方角に富士山を望めます。
 本年は,武田信玄の軍師山本勘助の生涯を描いたNHK大河ドラマ「風林火山」も放映されています。「由布姫」所縁の諏訪大社,桑原城跡などを訪ねながら,温泉浴にと諏訪へお越しください。

被害の状況
 活発な梅雨前線の影響により7月15日から降り続いた雨は,19日午後までに391mmに達しました。この間,市内は一級河川や中小河川の溢水や,沢筋からの異常出水がみられ多数の土砂崩落と1箇所で土石流が発生し,時間が経つにしたがい各河川から諏訪湖へ流れ込む水が,天竜川への流出水量を大幅に上回り,諏訪湖からのバックウォーターにより,湖畔の市街地を中心に約2,000世帯の家屋が浸水被害をうけました。
 これは,昭和58年「台風10号」による宮川,角間川などの堤防決壊,溢水などによる浸水3,200世帯と山腹崩落による死者2名の被害以来23年ぶりの大災害となりました。しかしながら,災害対策本部で指揮をとる中で,7月豪雨災害による人的被害が無かったことがなによりの幸いでありました。

中の沢川 仏法寺上

それは大雨,雷,洪水注意報で始まった
 7月17日(月)午前6時14分,大雨,雷,洪水注意報が発令され,本年4月1日からの組織改正により新たに設立された,危機管理室職員が庁舎に集合しました。内水排除ポンプ,中小河川の状況などの把握を建設課に要請する中で,午前8時頃より新川などの冠水情報が入り始め,消防団に出動要請を行うとともに,企画部を中心とする担当課長で構成する配備検討会を開催して,本部員(理事者・部長)を召集して本部員会議を開催し,災害警戒本部を午前10時30分に設置いたしました。
 その後,私も市内の浸水箇所,危険箇所等を担当職員と現地視察を行い,警戒本部に戻りました。
 その日は午後8時頃溢水していた新川等で土のう積みなどの消防団の作業が終了しましたので,地元消防団は自宅待機としました。
 しかしながら,降り続く雨のため翌日の朝方から警戒本部には,市内各地からの溢水や崩落危険通報,道路では湖周線通行止め情報,また消防団からは土のう確保の要請など,警戒本部の20本の電話がひっきりなしに鳴り始めました。

上諏訪駅諏訪湖口前 鶴遊館プラザ交差点 片羽保育園

災害対策本部へ移行
 7月18日(火)午後6時,災害対策本部を設置して係長以上の職員を職場に待機する第1次配備とし,その他の職員は自宅待機としました。
 災害対策本部のレイアウトは情報交換がし易いように,防災研修会の際の助言を取り入れ,担当部ごとの「島」をつくり,土砂災害情報相互通報システムによる雨量情報,土砂災害警戒情報等の活用や,各担当部長,県派遣職員からの状況報告を受け,対応を指示するなどの本部員会議を随時開催いたしました。
 災害対応として一番先に考えたことは,市民への正確な情報提供であります。同報系防災行政無線による放送,市ホームページを災害優先画面にしての情報掲載,ケーブルテレビ専用行政(かりん)チャンネルでの放映など,専任の本部情報広報班が情報提供を行いました。特に重要な事項については,私も同報系防災行政無線により市民の皆様に直接周知いたしました。
 その後も雨は降り止まず,主要路線や中央自動車道の通行止め等も発生し始め,終日対策本部に詰めて対応に追われました。

浸水への対応,諏訪湖への最大流入量が733.05m3/sに
 19日(水),対策本部では,諏訪湖への河川からの全流入量,天竜川への全放水量,また,降雨量のデータをモニターし,流入量の増加に伴い,釜口水門からの放流量を300m3/sから400m3/sに増やすよう管理事務所に再三要望しましたが,午前2時30分には警戒水位1.7mを超え,諏訪湖からのバックウォーターによる浸水が始まり,危険状態が予測される事態となり午前4時,全職員に第2次配備を発令しました。まだ,周りは暗い状況でしたので,避難勧告発令に先立ち避難地区から文化センター等の広域避難所との間に参集した職員を配置し,避難する人を誘導するように指示しました。その上で午前5時45分,約1,600世帯に対して最初の避難勧告を発令しました。その後も状況を確認する中で,追加地区への避難勧告発令を行いました。

土砂災害への対応
 市内各地から土砂崩落危険箇所の報告が入って来ましたので,建設課・農林課職員,消防団員を現地に派遣し,区役員も同行した現地からの確認報告により,災害対策本部において危険度を,レベル1:危険監視・自主避難,レベル3:人災危険・避難勧告,レベル5:最大人災危険・避難指示に分類して壁に掲示し監視を行い,避難勧告を3地区,避難指示を1地区に発令しました。
 その中で,特に湖南中の沢川については,地元消防団等警戒を行っていましたが,19日(水)午前9時45分,小規模の土石流が発生し一部取り残された人があるとの通報があり,現地確認に職員を派遣するともに災害対策本部では,本年3月に土砂災害防止法に基づき指定した,土砂災害特別警戒区域の地図情報をスクリーンに映し,避難勧告地域をいち早く決定し,午前10時に避難勧告発令をいたしました。
 また,地域住民も川の水の濁り状況等により危険を感じた人々が近所に声をかけあって自主避難を始めており,勧告による避難終了後に下流まで土石流が到達する事態となりましたが,1人の怪我人もなく無事避難をすることができました。

復旧作業へ
 ホテルや旅館が立ち並ぶ諏訪湖畔の道路や,国道20号も2か所で浸水し通行止めになっており,一刻も早い排水対応のために国土交通省の排水ポンプ車6台の出動を要請し,19日深夜作業が始まりました。
 7月22日までには,浸水,土石流の避難勧告を全地区解除することができ,浸水等被災家庭の復旧が始まりましたが,全国からのボランティア延べ1,300人,県職員2,400人の応援をいただき,家屋の片付け,清掃,ごみ回収,消毒を近隣住民と共に地区ごとのローラー作戦で実施し,お蔭様で短期間に市民が日常生活に戻ることができ,この場をお借りして心より感謝申し上げます。
 また,防災担当大臣を始め,国,県の調査団の皆様には,早速,被害状況等の現地視察に来ていただきましたので,激甚災害の早期指定,天竜川の抜本的改修,釜口水門最大放流量の実現,治山被害箇所の早期復旧などをお願いしたところです。
 7月28日には災害対策本部から警戒本部に変更し,全職員の自宅待機を解除いたしました。

おわりに
 現在,激甚災害の指定をうけ,中ノ沢川災害関連緊急砂防事業により砂防えん堤整備や森林整備,また,諏訪湖周辺の浸水被害解消のため諏訪湖,天竜川激特事業及び天竜川助成事業が始められております。
 今回の7月豪雨災害と昭和58年の台風10号災害を比べて見ますと,浸水区域面積は非常に減少しています。これは,58災害の後,激特事業として市内の島崎川等の大規模河川改修が行われ,その地区での浸水被害がなかったためであります。
 また,その際,治山事業が行われた箇所も崩落危険の報告が少なかったと感じております。
 このことからも,災害を未然に防止するには,崩落危険箇所のえん堤等砂防事業,森林整備の施工や河川改修などのハード事業の整備が不可欠であり,今後も更なる事業促進を国,県にお願いするとともに,諏訪市としましても,土砂災害情報の伝達,自主防災組織の強化などソフト面の整備を行い,更に災害に強いまちづくりを目指して参りたいと考えております。