秋雨前線(9月16日)及び台風13号による集中豪雨を受けて

塚部芳和(Yoshikazu Tsukabe、佐賀県伊万里市長)

「砂防と治水177号」(2007年6月発行)より

1.伊万里市の概要
 
伊万里市は佐賀県の西北部にあって,東松浦半島と長崎県北松浦半島の接合部に位置し,伊万里湾が深く入り込んだ天然の良港を擁しており,江戸時代には,肥前陶磁器の積出港として栄え,「イマリ」の名が世界に広まりました。
 今日,重要港湾「伊万里港」としてアジア諸国とのゲートウェイをめざし,港湾整備や工業団地の整備,ポートセールスが進められています。
 また,伊万里焼をはじめ伊万里梨・伊万里牛などの特産品の生産や,IC関連産業,造船・自動車部品等の産業など,伝統産業と先端技術が融和した「安心,活力,発展の伊万里市づくり」を進めております。
 市の人口58,841人,面積254.99km2を有し,東部地域には一級河川・松浦川,徳須恵川及び市街地中央部を流れる二級河川・伊万里川,西部地域の二級河川・有田川等を主流に多くの急河川が流れ込む地形・地勢を有し,加えて伊万里湾沿岸については低平地で排水不良地域となっております。


2.秋雨前線及び台風13号による被害状況
 
平成18年9月16日(土)の早朝,九州北部に停滞する秋雨前線が,接近する台風13号の影響を受け活発化し,佐賀県西北部地区を中心に局地的な集中豪雨に見舞われ,がけ崩れや土石流等の発生により佐賀県全域で甚大な被害を受けました。
 また,隣接する唐津市相知町及び厳木町におきましても,がけ崩れや土石流など近年まれにみる大災害となりました。
 本市では,同日7時30分に災害対策連絡室設置,同日9時には災害対策本部を設置し,第1配備により職員100名を動員し,被害調査,聴取並びに現地においては地元消防団や建設業協会の協力のもと被害の拡大防止等市民の安全を図るべく対応に努めたところです。
 今回の集中豪雨は,黒川町,南波多町及び大川町など市の北部から東部を結ぶ縦断的な局所豪雨となり,降り始めの16日7〜8時の時間最大雨量は黒川町畑川内観測所で110mm(総雨量:291mm),同日9〜10時の時間最大雨量では大川町大川野観測所で103mm(総雨量:366mm)を記録するなど過去に類のない記録的な豪雨となりました。
 この大雨のなか,黒川町清水地区の市道を走行中の軽自動車が,同日8時25分ごろ鉄砲水に巻き込まれ,行方不明となり,その後,現場から約1km離れた沢で父娘二人の遺体が発見されました。
 また,同日午後12時ごろ南波多町水留(つづみ)地区の一級河川・徳須恵川では増水した川に流され,1名の方が遺体で発見されたほか,市管内の国道202号,204号,498号などその他,県道12カ所で冠水,土砂崩れなどによる通行止めや通行規制が行われました。

黒川町清水地区の鉄砲水発生個所 一級河川・徳須恵川増水状況

 この中でも南波多町府招地区の一般国道202号では幅約100m,法長約170mに亘り山側法面の大規模地すべりが発生し,全面通行止めとなりました。
 この国道は,福岡・唐津・伊万里・佐世保を結ぶ主要道路で,地域のなかでも必要不可欠な幹線道路であることから,同日夕方には佐賀国道事務所による迂回路工事の着手及び佐賀県と併せた地すべり警報機の設置が行われました。
 被災地区の住民の皆さんには,迂回路の開放前に警報発令や避難に対する危機管理体制等の説明会を実施し,災害に対する不安の解消,二次災害防止に努めたところです。
 この秋雨前線及び台風13号による被害は,死亡者3名,避難者71世帯・195名,住家・非住家の全壊,半壊及び一部損壊合わせて11棟,床上,床下浸水合わせて445棟,し尿汲み取り件数325件,消毒液,石灰配布数それぞれ199件,上水道の破裂による断水など人命,家屋及びライフラインの被害は甚大でありました。また,公共土木施設では河川・道路合わせて438カ所で20億6千万円,農地・農業施設,林地・林道及び農畜産物では被害額29億6千万円に及ぶ大災害となりました。
 このようななかで,9月21日には国土交通省砂防部保全課,九州地方整備局地域河川課合同による現地視察,9月22日は古川佐賀県知事の被害状況調査,9月27日の自由民主党本部大雨・台風災害対策本部並びに自由民主党佐賀県議会議員団による災害現地調査が実施され,被災状況を説明し早期復旧に係る予算について要望を行いました。

一般国道202号地すべり発生状況

3.復旧への取り組み
 特に雨のひどかった一般国道202号を巻き込んだ府招地区地すべり対策については,県が事務局となり,技術検討委員会(委員長:岩尾雄四郎佐賀大学教授,7人)が設置され,本市からも9月20日(第1回),11月22日(第2回),翌年2月8日(第3回)に亘って開催された委員会に,地元関係者の被災現状報告や連絡・調整を円滑に行う必要から委員として参加したところです。
 この委員会では,地盤伸縮計やボーリング調査などによる地すべりの原因究明,対策工法などが検討されるとともに,近接民家,住民及び通行者に対する二次災害の発生を防止するための監視・警報システムの設置や避難基準も示され,国,県,市,地元が一体となった危機管理体制が実行できるよう検証も行われました。
 第3回技術検討委員会(最終)では,復旧工法や全体工事スケジュール計画が示され,県では災害関連緊急地すべり対策事業として早期復旧に向け本工事に着手されたところです。
 また,一級河川・徳須恵川についても国土交通省武雄河川事務所や県において,災害関連事業として事業認可を受け,平成20年度完了をめざし,用地買収に着手されました。
 本市の取り組みについては,公共土木施設災害を所管する建設課と土木管理課,下水道課,都市開発課の4課で災害担当を地区割し,災害査定まで残り3カ月と限られた期間のなかで建設部技術職員全員と一部地区を測量・設計コンサルタントに委託して査定測量に着手しました。
 河川災害では被災延長が長く,護岸崩壊・決壊をはじめ上流域での土砂崩壊や河床洗掘等による河道埋そく,また,道路災害においては山側の急斜面の崩壊や道路の欠壊など被害状況について原形判定が不可能な個所が多く現地測量に相当の手間と時間を費やすことが多くありました。
 昼間は測量や他省所管施設との調整会議,夜間は設計・積算を行いながらどうにか査定に望むことができました。その結果,決定額で1,654百万円,個所では336個所(河川177個所,道路159個所)の査定となりました。
 このあとの実施につきましては,被災個所も多く単年度での復旧は困難であるため,地元関係者の協力を得ながら18年度内施工,19年度への繰り越し,19年度早期発注などの方法により,一日も早く被災前の効用・効果が発揮できるよう早期復旧に努めたいと思います。


道路法面崩壊状況 路体欠壊状況

4.今後の課題
 今回の災害を教訓として,今後,市民一人ひとりの防災意識の高揚を図りながら,防災パトロールの実施や災害情報の円滑な収集伝達,また,避難のための的確な情報伝達や避難所への安全な誘導など防災対策の充実に努めるとともに,日頃の訓練や行政と住民が一体となって防災意識の共有を図る必要があります。
 また,地域防災の要となる地域消防団の重要性,必要性を改めて感じるともに,今後さらなる連携強化に努め,不幸にして災害が発生した場合を考慮し建設業をはじめとする各企業等との災害時における支援協定など,まだまだ拡充しなければならない課題は多くあると思います。
 今回の局所的集中豪雨により発生した山側からの予期せぬ鉄砲水や短時間降雨による河川の急激な増水により尊い人命が失われ,改めて自然災害のこわさを認識いたしました。今後,二度とおこらないよう行政と住民が防災に対する意識を一つにして,これからも災害のない「安心・安全のまちづくり」に取り組む所存です。
 結びに,国土交通省保全課,防災課災害査定官,各地方整備局災害検査官及び財務省立会官並びに佐賀県をはじめ多くの関係機関や関係者の迅速な対応をいただき,府招地区の災害関連緊急地すべり対策事業をはじめ,一級河川・徳須恵川河川等関連事業及び公共土木施設災害復旧事業などのご採択をいただき,災害復旧が着実に進んでいることにつきまして心より厚くお礼申し上げます。
 一日も早い復興を目指し,職員と一丸となって取り組む所存であります。今後ともご指導,ご鞭撻のほどよろしくお願いします。