平成17年災害から見て,平成19年災害を考える

津隈一成(Kazunari Tuguma、宮崎県日之影町長)

「砂防と治水185号」(2008年10月発行)より

1.日之影町の概要
 
日之影町は,宮崎県県北西部に位置し,人口4,700人,277.68km2という広大な町土を有し,約92%が山林を占める,雄大な九州山脈に育まれた緑豊かなまちで,まちの中央部を五ヶ瀬川が西から東に貫流し,その支流の日之影川がまちの北部を東西二分して流れているほか,大小の谷川が周囲の深山から二つの川に流れこみ,深いV字を形成しています。このため川の両岸は,50mから100mの切り立った断崖となり,峻険な山岳と大小の河川が生み出した四季折々の景観は豊かな自然美を楽しませてくれます。
 しかし,このように大変厳しい地形でありますので,昭和57年8月の集中豪雨,平成5年の台風7号,そして平成17年台風14号で土砂災害が発生し,過去に幾度となく大きな災害に見舞われております。


2.台風5号による被災状況
 平成19年8月2日(木)から3日(金)にかけて,台風5号は県内全域を暴風雨に巻き込みながら日向灘を進み,2日午後6時前に宮崎県日向市付近に上陸,九州を北上しました。日之影町においても,強い風雨が襲い,特に集中豪雨となった見立地区,鹿川地区において,河川の氾濫,土石流が発生しました。
 見立地区では,1日午後10時の降り始めから,2日午後7時までの総雨量が426mmを記録し,日之影川が増水,主要地方道日之影宇目線で道路決壊が発生し,電気電話が不通,見立上川地区水道管が道路決壊のため断水,集落が孤立し3日(法適用日8月2日)6時30分日之影町に災害救助法が適用されました。鹿川地区は,大崩山の西斜面と鹿納山の南斜面を源流とする,日之影町と延岡市北方町の境を流れる五ヶ瀬川支流綱の瀬川上流で,山腹崩壊により土石流が発生し,河川の氾濫約2km以上にわたり,川幅が40mほどだったものが約3倍に拡大し,流域の水田が流失し,土石で埋まり,住家1棟も流失しました。

位置図
主要地方道(県道)日之影宇目線の決壊箇所 綱の瀬川の被災状況 綱の瀬川鹿川地区の土石流

3.復旧の取り組み
 現在,早期復旧を目指して,全力で取り組んでいるところであり,工事発注は全て完了いたしました。当時孤立した見立地区の主要地方道日之影宇目線道路決壊箇所の仮復旧工事は,県西臼杵支庁土木課において5日から始まり,盆休みの帰省や生活道の確保のため,12日までに完了しました。全18箇所の完成は平成20年11月末を予定しています。
 鹿川地区も,綱の瀬川流域における山腹崩壊箇所,河川災害,農地災害についても,全箇所工事発注が完了しているところです。災害復旧工事は順調に進んでいますが,河川災害復旧工事の工法については,景観を考慮した河川にある大転石を利用した石積工法で施工しています。現場で注意しなければならないことは,工事資材運搬路が,鹿川地区まで県道が1路線しかなく,沿線住民に生活面の通行に支障のないよう心がけることで,各省事業所管工事ごとに,「沿線における災害復旧事業等の連絡調整会」を立ち上げ,1日も早く災害復旧工事が完成するよう,施工業者,行政一体となって進めているところであります。


4.防災対策の取り組み
 災害対策としては,基盤整備事業の推進が一番でありますが,災害危険箇所は町内多数あり,さらに台風災害により箇所は増加している状況であります。このようなことから整備事業のみでなく,自主防災を推進することも重要だと考えます。町内には115の集落があり,消防団は19部328名で組織され,平成20年度,過疎化,少子化の影響による消防団の減少に対応するため,消防災害時の補完に各部の消防団の後方支援を行う,消防支援団を設置しました。災害非常時には,消防団と町職員で緊急に災害対策本部を設置し,町職員も地区の消防団団員として活動しています。
 日之影町は,消防団と毎年6月の梅雨時期前に,土砂災害危険箇所調査を実施し,危険箇所を把握するとともに,長雨や豪雨の際には,これらの箇所のパトロ−ルや監視を行っています。日之影町消防団は,平成17年の災害の際は,神影上地区で土石流が発生し,住宅11戸が流失するなど土砂災害が数多く発生しましたが,自主避難の呼びかけに対し住民が素直に従い,一人の犠牲者も出しませんでした。また,平成19年8月の台風5号の際は,消防車両や個別訪問を通じて,自主避難の呼びかけを行うなど,特に鹿川地区においては,大規模土石流により家屋が1戸流失するなどの甚大な被害が発生した際に,避難の呼びかけにより土石流が発生する前に住民を避難所へ無事に誘導し,一人の犠牲者も出しませんでした。
 また,見立地区では,町職員が車と徒歩で孤立地区へ現地に入り,床上浸水の被害に遭った泥だらけの家々の後かたづけを行い,町職員保健師2名は,高齢者宅を個別に訪問し,健康状態や病院の受診状況,薬が何日残っているか等確認し,県の防災ヘリで空輸された救援物資を運び出しました。このような,土砂災害防止並びに地域住民の生命及び身体の保護に大きく貢献したため,平成20年度「土砂災害防止推進の集い」全国大会おいて,土砂災害防止功労者表彰(国土交通省大臣表彰)を受賞いたしました。こうしたことは,日頃から消防団と住民と自主防災への意識が高く自主避難を心がけていたことが要因と思います。
土砂災害防止功労者受賞 道路を清掃する消防団員(見立地区) 救援物資を積み込む町職員

救援物資を下ろす防災ヘリ「あおぞら」



5.今後の取り組み
 
日之影町は,急峻ながけ地や渓流河川に面した集落が多く,昔から予防事業,復旧事業が積極的に行われてきました。今後も毎年行われる危険箇所調査で,地元住民が危険を感じている箇所を消防を通じて報告していただき,緊急性のある箇所を厳選し,関係機関と調査を行い,国県への防災事業として要望し,地元へはその都度予防と避難対応の必要性を示し,平成17年に作成した職員危機管理対策マニュアルを活用し,迅速に無駄なく諸対応に取り組んでまいります。平成17年災害,今回平成19年災害を考えますと,近年の集中豪雨や大地震等による記録的災害を思う時に,危機管理の必要性を再度認識したところでした。河川災害は,目で確かめて対応出来ますが,土石流災害はどこで発生するか,判断が極めて難しいことから,そうした危険地の住民の方々に危険意識の啓発と避難の必要性を繰り返してまいることが,行政の責務であると思っています。「空振り三振」は良いが,「見逃し三振」はしないようにしなければなりません。 最後に,今回の災害につきまして,国,県,関係機関のご尽力により只今復旧がなされ,その早期完成を願うと共に,安全安心で災害に強い町づくりに努めてまいります。