ピンポイント時間雨量103o
経験したことのない災害を振り返って

田中満雄(Mitsuo Tanaka、鳥取県琴浦町長)

「砂防と治水185号」(2008年10月発行)より

1.琴浦町の概要
 琴浦町は,平成16年9月1日に東伯町,赤碕町が合併した鳥取県のほぼ中央にある農業,漁業,商業の盛んな人口2万人余りの元気な町です。
 本町は,東西15.2km,南北18.5km,総面積139.88km2で,その地勢は,総じて南は大山山麓大地と急峻な山地,北に向かうにしたがって穏やかとなり,町内を南北に流れる加勢蛇川及び勝田川の流域を中心に平野が開けています。日本海側は商工業地帯として,中央部は県下有数の生産・販売を誇る農業地帯となっています。
 南側は日本の滝百選に選ばれた「大山滝」日本一に選定された「伯耆の大シイ」室町時代の南北朝の動乱を描いた太平記の舞台となった「船上山」などで知られる風光明媚な中山間地で観光客が訪れる地域となっています。
  特産品も,後醍醐天皇とゆかりの深い清泉「天皇水」などの大山を源とするおいしい伏流水の恵みを受け,地酒のほか,かまぼこ,お菓子,牛乳,乳製品,二十世紀梨,全国でも高い評価を受けた牛肉など多くあります。


2.ピンポイントによる昨年9月4日の集中豪雨の災害状況
(1)雨量
 琴浦町西部地域の約3×4kmの範囲(中村・尾張の谷を中心)で,103mmの時間雨量を記録,鳥取県の時間雨量の93mmを更新するピンポイント豪雨で災害が発生しました。降り始めは夕方6時頃からで時間雨量7mm,7時からの時間雨量は15mm,8時からの時間雨量103mm,9時からの時間雨量39mm,4時間で164mm降ったことになります,10時以降の降雨記録はありませんでした。琴浦町の過去4年間の9月の月間雨量は,少なくて150mm,多くて320mmでありますので,4時間で1カ月分もしくは半月分が降ったことになります。
(2)被害の状況
 住宅全壊1棟,寺院全壊1棟,床上浸水8戸,床下浸水55戸,道路交通止め6箇所(県道1箇所,町道3箇所,林道2箇所),土砂災害200箇所以上の被害が発生しました。幸い死者はありませんでしたが,太一垣集落で20代の男性が土石流により倒壊家屋に残され,胸まで土砂に埋まっている状態でした。2次災害が心配される中,消防隊員の懸命な救出作業により一命を取り留めることができました。
 また,通行止め箇所についてバリケード等の措置を24時頃までに対応,土石流によって通行止めとなっていた上中村集落は,土木業者の協力により翌日2時頃には通行可能としました。
(3)気象の状況
 ・20時22分 大雨洪水警報(倉吉地区)発表
 ・20時25分 記録的短時間大雨情報1号(琴浦町付近で約110mm)発表
 ・21時52分 記録的短時間大雨情報2号(琴浦町付近で約120mm)発表,琴浦町八幡103mm観測
 ・23時52分 大雨洪水警報解除・注意報に切替
 ・4時57分 大雨洪水注意報解除
 このように短時間で情報が変わる状況でした。
(4)町の対応
 ・20時30分 災害対策本部設置(第1配備)
 ・20時45分 赤碕地区消防団の出動
 ・21時00分 東伯地区消防団の出動
         幹部職員・建設課職員の招集(第2配備)
 ・22時20分 防災危機管理課・県民局に応援要請
 ・1時10分 総務課・建設課以外待機解除
 ・3時00分 建設課待機解除
 ・7時30分 総務課待機解除
(5)被害額
 琴浦町関係の被害額は,公共土木施設災害・町道・河川等計24件,2億6百万円,農林水産施設等,農道,水路外計37件,8千1百万円,農作物被害額(米・トマト・ブロッコリー)6百50万円
でした。
 鳥取県関係の被害額は,砂防被害5億5千5百万円,治山被害5億2千5百万円,公共土木施設災害・河川・道路被害2億1千2百万円となり,琴浦町・鳥取県の被害総額は15億8千5百50万円となり,4時間の降雨では最大の被害額となりました。




被害状況(太一垣地区):がけ崩れにより人家に土砂が流入(重傷者1名)


被害状況(上中村地区):土石流により人家に土砂が流入し一部損壊

3.被害対応
(1)道路の確保
 まず県道,町道,農道の確保を優先に行い,必要最小限の土砂撤去などを行い,道路確保は約1カ月後に終わり,本格的な災害査定の準備に入りました。
 災害査定準備も各災害現場の整理等を全職員が協力,スムースに測量等に入ることができました。
(2)復旧工事
 11月6日から9日までの4日間の査定を受け,町の公共土木施設災害・町道・河川等24件は年内に発注し,平成20年9月末現在80%の進捗を見ています。農林水産施設等,農道,水路外37件につきましても,95%の進捗率で,いずれも年度内の完成に向けて進めているところです。
 県事業については,事業量,事業費も多く9月末現在52.1%の進捗率で,平成22年度までの事業期間となっております。



災害復旧に向けて
4.今後の防災対策
(1)自主防災組織の育成
 今回のようなピンポイントの集中豪雨を体験して,自衛消防団は全町に組織されているものの,自主防災組織の育成が必要であるとつくづく感じました,平成18年10月に自主防災組織防災資機材整備費補助金制度を新設していますが,まだまだ組織化につながっていない現状を克服していきたいと思います。組織化が進むことにより災害対策本部との連携強化と,正確な災害情報入手と,住民への迅速な情報伝達ができるものと思っております。
(2)防災訓練の実施とマップの配布
 合併以来,職員の非常時参集訓練(H18年8月)・津波訓練(H19年3月)・土砂災害訓練(H19年6月)・津波土砂避難訓練(H19年9月)を実施してきましたが,更なる訓練の必要性を感じています。
 避難場所については主要な公共施設35箇所を指定,平成19年度に看板等を設置,また「我が家の防災マニュアル」を全戸配布しているところです。本年度「とっとりWeb マップ」を使用してハザードマップを作成し各家庭に配布する予定です。
 今回の災害を受けて,平成20年3月19日,琴浦町建設協議会と「災害時における応急復旧業務に関する協定書」を締結して今後の災害に対する協力体制をとっていくようにしています。
(3)ドクターカーの導入
 平成18年5月1日,赤碕診療所と協定を結び,心肺停止・心肺停止に近い状態・救命師が早急に医師の措置が必要とした時,救急車に赤碕診療所の医師が同乗し,病院まで措置しながら搬送するシステムをとっています,今回の生き埋めになった青年も救出後医師が同乗し病院に着くまでの間車内で措置を行い,一命を取り留めました。今後ともドクターカー制度を継続して住民の命を守って行きたいと思います。
(4)携帯電話圏外地域解消の取り組み
 今回集中して災害のあった,中村・尾張集落は携帯電話の圏外地区になっており,以前から各業者に働きかけはしていましたが,今回の災害に間に合わず,現地に入った職員から迅速な被害状況の連絡が入手できない状況であったため,町内の圏外地区の調査を行い,20年度内には圏外区域解消に向けて取り組んでいます。

5.県の対応
 災害翌日には鳥取県河川砂防課長が,また,鳥取県知事が数日後には現地に入って状況を見てもらいました。鳥取県として全面的なバックアップ体制をしていただくこととなり感謝しているところです。

6.災害を振り返って
 近年,温暖化による異常気象が原因とする災害が全国的に多くなってきていますが,今回の本町の局地的なピンポイント豪雨103mmの体験は初めてでありました。日没後の災害であり,道路の状況確認はできたものの,全体的な被害把握が翌日以降になり,改めて土砂災害の恐ろしさと被害の大きさを目の当たりにしました。
 自然災害とはいえ,短時間の豪雨でこのような甚大な被害を受けたことはありません。不幸中の幸いでしょうか,1名の方が被害を受けられましたが,今では元気に通学しておられることを聞き,何よりと思っています。
 このような被害を経験して,情報収集,情報伝達の大切さを感じたところです。携帯電話の圏外区域を解消し,町内の情報をリアルタイムに入手して的確な判断による人的配置など迅速にできるものと思っております。
 復旧作業は進んでいますが,住民の方が安心して暮らせるよう早期復旧に努めてまいりたいと思っています。
 最後になりましたが,災害関連緊急急傾斜地崩壊対策事業や各種復旧事業の採択・着手に速やかに対応していただきました,県を始め関係機関の皆様に厚くお礼申し上げます共に,この教訓を生かして,今後の防災対策に万全を尽くしたいと思います。