雫石町西根葛根田地熱発電所付近での土砂崩落とその対応について | |||||||||||
中屋敷十(Tateo Nakayashiki,岩手県雫石町長) |
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「砂防と治水186号」(2008年12月発行)より | |||||||||||
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○はじめに 雫石町は北東北岩手県の拠点都市である県都盛岡市の西方約16kmに位置し,東は,滝沢村,盛岡市に連接し,西は奥羽山系の山々を境に仙北市(秋田県)に接し,南は矢巾町,紫波町,西和賀町及び花巻市とそれぞれ連山を境界に,北は岩手山鬼ケ城稜線を境として八幡平市に接している人口約19,000人の町です。 その広がりはおよそ東西24km,南北40qで総面積609.01km2と広大であり,奥羽山系の山脈に囲まれたやや扇状の盆地をかたどる農山村地域であります。 地勢は,秀峰岩手山をはじめ1,000m以上の山が連なり,これら山岳や高原が総面積の大部分を占めており,標高300m以上が総面積の約80%に達しています。 また,山麓部には広大な傾斜地が開かれ,天然林,牧野,田畑がのどかな田園風景をつくりだし,田,畑の耕地は葛根田川,雫石川,南川の三河川流域に展開しています。 ○土砂崩落の概要 平成20年4月20日18時45分頃,集中豪雨により雫石町西根高倉山国有林内で土砂崩落が発生しました。 土砂崩落は長さ約200m,幅約100mの規模で推定6万m3もの大量の土砂が流れ込み2次災害の発生も懸念されました。 この箇所は昭和62年3月と平成2年7月にも土砂崩落が発生しており,昭和62年の崩落に伴い,土砂の移動を防ぐ「土留工」を設置したにもかかわらず,この20年余りで3回も土砂崩れが起きたことになり,復旧はより慎重な対応が求められました。 被害状況は県道西山生保内線の供用区間の終点部約30mが崩落土砂により埋塞,一級河川・葛根田川が崩落土砂により半分程度閉塞,葛根田地熱発電所の蒸気配管と熱水配管の損壊等により,蒸気供給がストップしました。 このことにより,冬期通行止めを解除したばかりの県道西山生保内線が現場から約7km手前のゲートで全面通行止めに切り替えられました。 また,近くに秘湯,滝の上温泉があり,3軒の旅館が予定していた4月25日からの営業ができなくなりました。 |
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土砂崩落状況 |
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○国・県・町の対応 土砂崩落現場は国土交通省の八幡平山系直轄火山砂防事業区域であることから国土交通省岩手河川国道事務所と国有林の関係から林野庁盛岡森林管理署が共同で現地調査を行い,応急措置(斜面の崩落防止のため,シートを敷いたり,土砂が県道,川に流れないように土嚢を積んだ)を5月2日までに完了し,警戒しながら24時間体制で監視,観測を行っていただきました。 両省庁では,5月19日に復旧工事を実施する災害対策事業が採択されました。 国土交通省の「直轄砂防災害関連緊急事業」が2億6300万円で砂防堰堤工や土留擁壁,互換工で再度の崩壊による河道閉塞の防止,道路の安全を実施する事業であります。 また,土砂が崩壊した斜面を再生する林野庁の「国有林野内直轄治山災害関連緊急事業」が11億300万円で地すべり頭部の土砂の撤去,水抜きボーリング,アンカー工,鋼製枠土留工などで斜面を安定化する事業であります。 岩手県(盛岡地方振興局)では県道西山生保内線を現場から約7q手前のゲートで全面通行止めにしました。 町としては,岩手河川国道事務所ほか関係機関と合同により現地確認作業を実施し,当災害区域には県道,一級河川・葛根田川,地熱発電所,温泉旅館等がある地域であることから,地域住民の生活を守り,国土保全,国土開発の基盤を築く根幹的な事業である砂防事業で,早急な復旧事業と恒久的な安全対策を講じて下さるよう岩手県とともに国土交通省河川局及び国土交通省東北地方整備局等に要望を行ったところであります。 |
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○おわりに 現在,災害復旧事業は着実に進み,河道内の土砂撤去を完了し,国土交通省岩手河川国道事務所では恒久対策として擁壁工,道路堆積土砂撤去,護岸復旧工を実施し,林野庁盛岡森林管理署では地すべりを抑止するためのアンカー工や吹き付け枠工を実施するとのことであります。 被災地の早期復旧のため対応をしていただきました国土交通省岩手河川国道事務所及び林野庁盛岡森林管理署をはじめ岩手県並びに関係機関の皆様にあらためて厚く御礼を申し上げます。 近年,大きな地震の発生や台風,豪雨の被害は毎年のように全国各地で発生し,深刻な社会問題になっていますが,住民の生命・財産を確実に守るためには,ハード面とソフト面両方の整備が必要不可欠です。 国・地方公共団体ともに財政が逼迫している実情でありますが,連携しながら万全な防災対策を進めて参りたいと考えております。 雫石町では自然災害から住民の生命,財産を守り,被害を最小限におさえるため,地域コミュニティづくりを推進し,住民の防災意識の徹底を図り,行政と住民が一体となって災害に強い町づくりを計画的に進めて参ります。 今後ともご指導をよろしくお願いいたします。 |