平成19年「台風9号」災害の教訓を活かす | |||||||||||||||||||
石木戸道也(Michiya Ishikido,埼玉県皆野町長) |
|||||||||||||||||||
「砂防と治水187号」(2009年2月発行)より | |||||||||||||||||||
|
|||||||||||||||||||
1.はじめに 皆野町は,埼玉県の西北,秩父郡の東北に位置し,東は東秩父村に,北は長瀞町と本庄市に,南と西は秩父市にそれぞれ接する人口約11,300人,面積63.61km2の町で,東西に羽を開いた「チョウ」のような形状をしており,その大部分は林野で占められています。中央部分にある約25%の平坦地が町の中心を形成 し,城峰山,登谷山,破風山等の500〜1,000m余の山々に囲まれ,南に独立峰の蓑山があります。町の中央を東に流れる一級河川荒川に,支流の赤平川,日野沢川,三沢川が注ぎ,町の北端には利根川支流の小山川が北へ流下しています。 都心から80km圏域に位置する四季折々の風景が楽しめる「山紫水明」で緑に囲まれた自然豊かな町です。 町の歴史は非常に古く,古代人の集落跡や豪族の古墳なども町内各地に散在し,遠い時代から先住民や豪族が居住していたことがうかがえます。 観光面では,春から初夏にかけては,関東の吉野山と称される美の山の「桜」「ヤマツツジ」「アジサイ」,秩父高原牧場の「天空を彩るポピー」畑などに大勢の花見客が訪れます。恵まれた自然と歴史のこの町から,関東三大民謡の一つである「秩父音頭」が生まれ,毎年8月14日には,秩父音頭まつり(合歓の盆)が行われます。その「流し踊りコンクール」には,県内からも多数の参加をいただいております。また,秩父観音霊場三十四番,日本百番(西国・坂東・秩父)の結願寺である水潜寺,秩父華厳の滝,自然を活かしたハイキングコース,日帰り温泉施設など四季を通して観光客に親しまれています。 2.台風9号に伴う町の災害とその対応 (1)雨量及び被災の一原因 台風9号は強い勢力を保ったまま,平成19年9月6日から7日にかけて秩父地方を直撃しました。皆野町においても,9月5日17時から7日6時までに470mmの連続雨量を記録しました。9月6日9時25分に秩父地方に大雨洪水警報が発令され,17時頃より風雨が強くなり,最大時間雨量は,同日21時から22時にかけて41mmを記録しました。特に山間部の南側に面した地区には南から強い風が吹き付け,雨量も集中的であったため,各地区の小河川が氾濫,町道及び林道が川と化す異例の状況となりました。山間部の森林の「間伐材」が小河川に流失し,道路横断箇所に詰ったことによる河川の氾濫が主原因でした。 (2)町の対応 町では,9月6日出勤と共に,総務課及び建設課において台風に備える体制をとり,土のう,バリケードなどの準備や危険箇所のパトロールを開始いたしました。同日5時頃までは被災通報もほとんどありませんでしたが,同時刻を過ぎた頃より暴風雨が激しくなり,状況は一変しました。総務課・建設課職員及び同日午後3時に召集された消防団により被災通報の処理対応をしておりましたが,台風の接近に伴い同日午後8時に皆野町災害対策本部(非常体制第1号配備)を設置,「通報電話対応班(1班)」,「情報管理班(1班)」,「災害現場対応班(5班)」を組織し,台風9号に備える体制を整えました。その後,風雨が強まり,時間と共に,町内各地区からの被災通報電話が鳴り響き,災害現場対応班への指示伝達用のホワイトボードは見る間に埋まるという状況でした。町の中心部を流れる一級河川荒川では,一部護岸天端を超える水位となり,橋まであと数メートルという状況で,町内各地区より土砂崩れ,道路が通行不能であるなどの通報が寄せられました。その通報数は,9月6日から7日までに180件(総通報数229件)にのぼりました。短時間に災害が集中発生し,過去に例のない被災件数で,「これは,重大な災害が発生した恐れがある」と災害対策本部にも緊張が走りました。 災害現場対応班の暴風雨で視界がきかない中,土のうの積み上げ,倒木処理などの夜を徹しての作業は,翌朝5時まで続き,9月7日は,被災箇所の処理対応及び町職員による再調査を実施し,同日午後5時15分,災害対策本部は解散となりました。 (3)被害の状況 台風9号は,道路や河川に予想を絶する被害をもたらしました。当町の西側,日野沢地区奈良尾地内では,林道の路体流出が4箇所(総延長=109m)で発生し,一晩で林道がなくなってしまったという状況でした。また,同地区の重木地内の町道では,地すべりが発生(地滑幅=37m)し,唯一の生活道である町道が崩落の危険にさらされていました。 町の中心部,皆野地区でも,一級河川荒川右岸で地すべりが発生し,近隣の住宅が危険な状況でした(現在,秩父県土整備事務所で対策工事施工中)。その他町内各地区で土砂崩れ,道路の流出(舗装含む),道路構造物(間知ブロック積等)の倒壊,小河川の氾濫,倒木など多数の被害が発生していました。 当町の被害額は,農林水産施設災害計17件(26,260千円),公共土木施設災害計58件(66,413千円),河川災害計8件(1,796千円),合計83件(94,469千円)と当町の年間の道路工事請負費に相当する被害であり,その他農産物被害額は1,200千円でした。 今回の台風9号の災害を目の当たりにし自然の力,その恐ろしさを痛感いたしました。床下浸水6棟,地すべりによる避難家屋1棟と住宅被害はありましたが,幸いにも町民への人的被害がなかったことに安堵しています。 |
|||||||||||||||||||
|
|||||||||||||||||||
3.おわりに 『災害は忘れた頃にやってくる』 台風9号による災害は本当にその言葉どおりでした。住民の生命・財産を守るための「防災」について,改めて考え,そしてその対策を実行する良い機会であったように思われます。この災害を契機に住民の防災に対する意識も以前より高まりました。災害発生時の情報伝達や初期対応のため各地区で組織している「皆野町自主防災組織」及び消防団のより一層の支援強化を図るとともに,現在計画中の防災無線の早期設置を目指したいと考えます。また,これを機に有事の際の住民の生命を守るため,ドクターヘリ用の「ヘリポート」を建設いたします。 『山は荒れている』 今回の被災原因として森林の荒廃が挙げられます。近年,生活様式の変化からか山に人が入る機会が少なくなったように感じられます。山には,枯れ枝,間伐材(1m位に切断したもの)などが散在しており,これらが小河川に流失し,道路横断箇所を塞ぎ水が溢れ被災原因となった箇所が相当数見受けられました。間伐材の撤去や森林を再生することが災害を防除する大きな課題であると考えます。 『台風災害の教訓を活かす』 人は宝,この災害を通じ強く感じたことであります。このような未曽有の災害時には,多くの住民の協力が不可欠であり,普段より地域防災力を高めることが大事だと思います。復旧の初期活動が地区住民・消防団など多数の人の協力により早急に行うことができ,町政には「人の結束・住民の力・相互扶助の精神」がなくてはならないと改めてマンパワーの必要性を再認識いたしました。 災害の初期対応においての情報収集・人的配置や的確な判断ができたかどうか反省すべき点も多々ありました。災害時に対応できる人材の育成も必要です。今回の教訓を今後の町の防災対策に活かしていかなければと強く決意するところであります。 また,当町は山間地域が多く,町道が唯一の生活道となっている地区が多く存在します。各地区を結ぶ連絡道(迂回路)の建設や河川整備など国・県と連携して計画的に進め,町民が安全で快適に生活できる「災害に強いまちづくり」を実行していきたいと考えます。 |