7.28豪雨災害の教訓

田中幹夫(Mikio Tanaka,富山県南砺市長)

「砂防と治水189号」(2009年6月発行)より

1.はじめに
 
南砺市は,その名称が示すとおり,富山県の南西端に位置し,北部は砺波市と小矢部市,東部は富山市,西部は医王山を介して石川県金沢市,南部は1,000〜1,700m級の山岳を連ね,岐阜県飛騨市,白川村と接しています。平成16年11月1日,城端町,平村,上平村,利賀村,井波町,井口村,福野町,福光町の8町村が合併して誕生しました。
 市の人口は5万6,683人(平成21年3月31日現在)。面積は,琵琶湖とほぼ同じ広さの668.86km2(東西約26km,南北約39km)で,そのうち約8割が白山国立公園等を含む森林であるほか,岐阜県境に連なる山々を源として庄川や小矢部川などの急流河川が北流するなど,豊かな自然に恵まれています。
 岐阜県に隣接する五箇山地域にある相倉・菅沼の両合掌造り集落は,世界文化遺産に登録されており,昨年7月5日には東海北陸自動車道が全通し,愛知・岐阜方面との交通アクセスが便利になったことで,観光客の数も飛躍的に増加しています。また,砺波市,小矢部市に隣接する旧町部の市街地周辺には,砺波平野特有の「カイニョ」と呼ばれる屋敷林に囲まれた住居が点在し,「散居村」と呼ばれる独特の景観が広がっています。
 南砺市は,山間部が特別豪雪地帯に指定されており,「平成18年豪雪」などの大雪被害に遭うことはありますが,穏やかな気候・風土が示すとおり,合併以前から大規模な災害とは無縁でした。



南砺市の位置図
2.7.28豪雨災害の発生
 
平成20年7月28日(月),未明から市内を襲った凄まじい豪雨は,まれにみる大災害となり,市民生活,企業活動,農地,森林など多面にわたり大きな損失を被りました。城端・平・上平地域では,1時間に120mmを超える猛烈な雨が降ったと推測され,大雨洪水警報,土砂災害警戒情報,城端・福野地域には避難勧告が相次いで発令されました。
 この「100年に一度」ともいわれる豪雨のため,城端・平・福光地域を中心に,住宅の全半壊や浸水被害,道路の陥没や土砂崩れ,田畑の冠水,停電・断水,通行止めによる集落の孤立状態など,市内各地に大きな被害が出ました。
 市では,7月28日(月)午後2時,福野庁舎で緊急災害対策会議を開催。翌29日(火)は,石井隆一県知事の現地視察の後,ただちに「災害救助法」の適用を受け,午後7時には,防災担当課である総務課に,市長を本部長とする「南砺市災害対策本部」を設置。連日豪雨災害対策会議を開催し,被災された市民のみなさんへの早急な支援と,迅速な被害状況の把握に努めました。
 この豪雨災害では,幸い人的被害は軽傷者2名と少なかったものの,河川・砂防を含む公共土木施設の被害は50億円以上,農林水産関係の被害も40億円を大幅に上回るなど,被害額も空前の規模となりました。

異常に増水した山田川
(福野地域田屋地区)
山田川の氾濫で流木に埋まる水田
(城端地域野口地区)
水に浸かる住宅街
(城端地域東神田地区)
太谷川の氾濫で流れ着いた流木と全壊した納屋(福光地域才川七地区)


3.課題と今後の対応
@土砂災害における課題
 今回の災害の特徴は,大きな河川はダムが洪水調整機能を果たし,破堤もなく目立った被害はありませんでしたが,小河川については短時間に降った雨が集中し,立木と土石を巻き込んで瞬時に土石流となり,下流の橋梁や河川の蛇行部に流木が引っかかって河川を閉塞させ,氾濫した泥水が農地や民家に流れ込んで大きな被害を出したことです。
 この被害を教訓とし,富山県では,流木捕捉効果の高いスリット型砂防堰堤の積極的な採用や,山間地での人工林の手入れと山林整備についても総合的に考慮し,流木防止対策を進めています。
 また,不透過型の治山堰堤と砂防堰堤を組み合わせて設置し,下流への流木被害を最小限に食い止めることと,堰堤の管理用道路の設置及び整備も重要と考えています。
A情報伝達における課題
 今回の豪雨災害では,広範囲にわたって短時間に集中して降ったため,地域住民に的確な避難情報を確実に伝達することができませんでした。人的被害は幸いにも軽傷者2名でしたが,これがもう少し遅れた場合,尊い犠牲を出す恐れが十分にありました。的確な情報の伝達は,住民の生命を守る上で,大変重要な役割を担っています。今後は,災害が発生した場合,被害を最小限に留める“減災を目指したソフト面”が重要になると考えています。
 市では,平成21年度に洪水ハザードマップの全戸配布を予定しており,マップの配布によって市民の皆様に防災意識が高まることを期待しています。

4.おわりに
 
今回の災害に対しては,全国各地の個人,団体企業の皆様などから5,465万1,306円の義援金を寄せていただき,被災者の皆様への支援及び被災地域等の応急復旧事業に要する経費などとして配分させていただきました。また,床上浸水住宅の復旧や各種災害復旧及び被害調査に際しては,多くの民間ボランティア,近隣自治体職員,県職員などの方々に応援していただきました。この場をお借りして心から感謝を申し上げます。
 この災害の教訓として,市民の皆様が,普段から地域にある災害危険地の状況等を熟知しておくことが減災に大きな効果を果たすと考えています。
 今後とも市民の皆様が,日々災害に対する備えを怠らないことを切に願っています。
 自らの命は自らが守る「自助」,地域でお互いを守る「共助」,国・県・市町村等が住民を守る「公助」の考えのもとに,意識改革を常に持ち,それぞれの責務や役割を認識するとともに,相互の信頼関係を醸成し,災害の予防対策,応急対策及び復旧・復興対策を市民協働で取り組んでまいります。