平成20年9月の記録的豪雨による災害について

石原正敬(Masataka Ishihara,三重県菰野町長)

「砂防と治水189号」(2009年6月発行)より

1.はじめに
 菰野町は,三重県の北勢地域にあり,名古屋市から約40キロ,四日市市から約15キロの鈴鹿山脈の麓に位置し,総面積約107平方キロのうち山林,農地が約7割を占める豊かな自然環境に恵まれた町であります。人口は本年4月1日時点で40,784人,世帯数は14,565であり,全国的に人口減少傾向にある中,現在も微増を続けております。
 鈴鹿国定公園に指定されている御在所岳をはじめとした山々に,歴史ある湯の山温泉や御在所ロープウェイ,また,山間地には多くのキャンプ場等の観光施設を有し,紅葉が見ごろとなる行楽シーズンなどは全国からの観光客で賑わう観光の町でもあります。
 今後,当町の中心部に,新名神高速道路の菰野IC(仮称)が設置されることから,中部圏のみならず,関西圏域や北陸方面からの交通アクセスが飛躍的に向上し,さらなる観光商工産業の振興に期待を寄せており,I.Cの整備効果を最大限活用した“まちづくり”やアクセス道路の整備促進を図っています。
位置図
2.記録的豪雨
 昨年の9月2日から3日にかけて三重県北部の鈴鹿山系を局地的に襲った記録的豪雨は,当町をはじめ,県北部山間地を中心に大きな被害をもたらしました。
 その日は,平野部の役場庁舎付近では降雨はほとんどありませんでしたが,山間部で局地的な豪雨となり,朝明キャンプ場の観測データが午後1時からの時間雨量126ミリを記録しました。また,八風キャンプ場,湯の山温泉の両観測地点においても夕方にかけて時間雨量が100ミリを超える猛烈な雨となりました。午後1時22分に三重県北部に大雨洪水警報が発令され,情報収集や巡視活動を行うため直ちに災害対策本部を設置しました。

 ちょうど災害対策本部を設置した頃から各キャンプ場や湯の山地区の宿泊施設などから豪雨の状況や河川の増水の情報が寄せられ,主要河川が警戒水位を超えた危険な状態であることや迂回路の無いキャンプ場などが孤立する可能性があることなど,人的な被害なども心配される状況になりました。
 午後2時頃には鈴鹿山脈の峠を越え三重県と滋賀県を結ぶ国道477号,朝明キャンプ場へ通じる唯一の道路である県道朝明渓谷線が雨量規制による通行止めとなり,午後3時には累積雨量も200ミリを超えてきたことから,孤立の危険性が高いキャンプ場などに対して避難指示,避難勧告を発令し,既に開設をしていた避難所への誘導を行いました。
 午後5時頃には,引き続き警戒巡視を継続していた消防団や自治会,町職員などから,土砂崩れによる道路の通行止めや河川の増水,氾濫,土石流による被害報告が次々に入りました。
 被災状況については,道路では国道477号が10箇所近くのがけ崩れにより壊滅状態となったのを始め,湯の山温泉街を含む地区への唯一の県道が崩落土砂や流失などにより通行不能となり,観光客などの避難のため緊急迂回路を確保すべく,懸命な応急活動などが実施されました。県道朝明渓谷線においても道路が流失・寸断され,定住世帯も多数ある朝明キャンプ場一帯は孤立状態となりました。また,山間地の集落や八風キャンプ場へ向かう主要町道においても巡視に向かっていた職員の目の前で道路が崩壊・流失するなど人命の危険が隣り合わせでありました。
 また,河川においては,増水・氾濫により堤防が損壊し,2軒の住宅までせまりました。堤防も決壊寸前のところまできており,洪水等による甚大な被害につながるところでした。住宅等の被害はその他にも湯の山地区の宿泊施設,山の家,釣堀施設などに多量の土砂や立木が流入し,施設全体が壊滅的な被害を受け,いまだ復旧の目途が立っていない施設もあります。

朝明観測所雨量グラフ


3.被災状況
 町内での復旧事業としましては,三重県による土木施設災が28箇所,本町によるものが河川災5箇所,道路災3箇所,橋梁災1箇所の計9箇所となっています。工事費は県,町を合わせて15億円を超える額となっており,さらに,災害関連緊急砂防事業や治山事業による渓流河川等の堰堤を復旧,新設する事業も実施されています。しかしながら,大規模な土石流の発生により,既存施設である渓流堰堤は満砂状態,河道も埋塞状態となっており,今後の出水期に向けて,危機的状況にあると言えます。
 また,今回の災害により御在所岳の登山道や鈴鹿国定公園の東海自然歩道など多くの観光施設を失ったことや,被災後の道路通行規制による観光地への集客がままならなかったことなど秋のトップシーズンにあたり,観光地は大きな痛手を受けました。
 こうした観光地における名所旧跡,自然歩道のような自然公園施設の復興や支援を緊急的に行うための施策を関係機関に検討いただき,公共土木施設災害の復旧事業と併せて遊歩道等の整備が可能となることなど地域の特性,ニーズに対応した災害復旧事業における制約を緩和することや制度の拡充が必要ではないかと考えています。

被災状況(北谷川) 被災状況(二級河川田光川) 被災状況(町道八風線)

4.災害を振り返って
 地球温暖化の影響であるのか昨今のゲリラ的な豪雨は予想をはるかに上回る規模で発生し,それによる災害リスクが増大する傾向にあります。国においては水害や土砂災害に対する調査・分析・研究に傾注され,対応策の情報発信をしていただきたいと存じます。
 また,今回の災害に直面して,陣頭指揮を務め,その場の的確な状況判断と迅速な指示が重要であると痛感しました。そのためには豊富な経験と対応ノウハウを持つ専門家や関係諸機関が可能な限り,早い段階から市町村の災害対策本部,もしくは,災害現場に入り,綿密な連携を図ることが重要であると考えます。そのための情報共有の強化とリエゾン派遣の充実は欠くことのできない対策であると考えられます。
 今回これだけの施設災害があったにもかかわらず死者・行方不明者が皆無であったことは,町内各地の自治会関係者や消防関係者など地域の方々の連帯・連携に起因していると感じています。災害に備えて私ども地方の役目は,地縁関係を活かし,地域コミュニティを活性化していくことであると再認識しました。
 しかしながら,地域の人づくりだけではやはり限界があります。地域の人々が安全で安心な生活を続けていくためには基盤整備が必要であり,特に災害時におきましては,緊急輸送路や代替路線の整備といった道路ネットワークの確立が不可欠であります。
 最後に,災害に強いまちづくりを推進するため,治水対策,土砂災害対策はもとより,道路整備を含めた防災対策の推進につきまして,今後とも関係各位の一層のご指導,ご支援を切にお願い申し上げますとともに,住民皆様のご理解・ご協力を得るために力を尽くして参りたいと存じます。