平成20年9月の局所的集中豪雨を振り返って

中川満也(Mitsuya Nakagawa,岐阜県垂井町長)

「砂防と治水191号」(2009年10月発行)より

1.垂井町の概要
 垂井町は岐阜県の南西部に位置し,東に大垣市,西に関ヶ原町,南に養老町,北に揖斐川町と池田町に接する町で,総面積57.14km2,現在人口は約29,200人となっています。
 また,北に池田山系,西に南宮山系を配して,町域の6割を山林が占め,南東に濃尾平野が広がる地勢で,町の中央には揖斐川水系の相川が流れるなど自然に恵まれています。
 町の中央を東西に,国道21号・JR 東海道本線そしてJR 東海道新幹線など中京圏と関西圏を結ぶ重要な幹線が通過する交通の要所となっており,積極的な企業誘致を行いながら農業と共存する田園工業都市を目指し,最近では交通の利便性から大規模な商店が進出するなど発展し続けています。
 また,町内には美濃地方の中心美濃国府跡,美濃国一の宮南宮大社,豊臣秀吉の名軍師・竹中半兵衛重治公の陣屋跡など多くの文化財をはじめ,祭りや踊りなど伝統文化や民俗芸能など個性あふれる地域資源を有し,町内を散策する観光客の姿も多く見られます。
 現在,先人たちの業績を称えるとともにさらなる発展を目指し,「やさしさと活気あふれる 快適環境都市」の実現に向けて取り組んでいます。


位置図
2.豪雨の経過
 平成20年9月2日から3日未明にかけて,垂井町では局所的に集中豪雨に見舞われました。当時,日本海中部と四国の南に低気圧があり,岐阜県には南からの暖かく湿った空気が入りやすく,大気の状態が不安定となっていました。これらの状況をふまえ岐阜県西濃地方に対し,12時50分に大雨・洪水注意報,13時30分に大雨・洪水警報が発表されるなか,東西幅約10〜20km,南北幅約90kmの帯状の雨雲が停滞し,18時13分には土砂災害警戒情報が発表されました。19時頃にかけて非常に激しい雨が降り,その後一時的に雨は弱まりましたが,2日23時頃から再び帯状の雨雲が発達し,3日1時頃にかけて猛烈な雨を降らすこととなりました。2時過ぎになってようやく西濃地方の大雨の峠は越え,垂井町では4時25分に土砂災害警戒情報が解除され,11時55分に大雨・洪水警報は解除され注意報となりました。
 この間,2日から3日にかけての総雨量は388mmに達し,特に2日15時から20時までの間は時間雨量23〜50mmが続き5時間で150mmを記録しました。その後,2日23時から3日1時の間にも時間雨量35〜70mmの降雨があり,3時間で140mmを記録しました。
梅谷川氾らん状況(府中地区)
3.被害の状況
 この集中豪雨により,町内各地区では河川災害をはじめ山間部では土石流や崖崩れなど土砂災害も発生しました。幸いにも人的被害には至らなかったものの,床上浸水11戸,床下浸水64戸など被災し,2世帯が自主避難しました。
 中でも町内北東部の梅谷地区において降雨が激しく,梅谷地区西谷では土石流が発生するとともに下流にあたる梅谷川中流部では河川が氾らんするなど,甚大な被害を引き起こすこととなりました。梅谷地区の土石流は土砂と共に流木の流出が見られ,西谷川の暗渠部を閉塞して家屋浸水等の被害を起こしましたが,幸いにも人命への被害,家屋倒壊など最悪の事態には至りませんでした。また,下流では土石流による土砂が流出して堆積し,河川が氾らんする原因ともなりました。
 なお,今回の集中豪雨による災害は北東に隣接する揖斐川町・池田町及び南西の大垣市上石津地区で発生し,同じ隣接する養老町や関ヶ原町では災害が見られず,また町内においても大きな被害が北東部の梅谷地区などに集中しており,典型的な局所的集中豪雨であったといえます。
西谷土石流による流出土砂(梅谷地区)
4.豪雨の対応
 9月2日,夕方より雨足が強くなり19時に警戒本部を設置。町内において側溝が溢水するなど道路冠水が見られたため,職員による町内巡回を強化するとともに,大雨により下流から逆流して浸水する南部栗原地区泥川の水位に特に注意を向けていました。
 夜になり降雨が小康状態となり,一部職員の待機を解除するなど体制を縮小するなか,2日23時頃より降雨が激しくなり,再度職員を招集し防災体制を整え,3日2時に災害対策本部を設置。町内巡回にいたっては,深夜で道路が冠水し危険なため満足に巡回することができず,被災の状況を十分把握できなかったのが現実で,地元より浸水・冠水など被害の情報が入るなか,北部山間部で崖崩れの発生や土砂の流出などの情報も届き,明け方からの復旧体制をとるのが精一杯でした。
 早朝より梅谷地区の土砂除去を中心とした緊急復旧作業や氾らんする梅谷川で孤立した家屋の救助作業などを開始するとともに,対策本部においては被災状況を調査し,町民の安全を確保するための対応に努めました。

5.災害復旧への取り組み
 岐阜県と垂井町において被災状況が明らかになるにつれ,改めて災害の規模の大きさと局所的な集中豪雨であることがわかりました。
 また,被災後には直ちに,藤井孝男参議院議員をはじめ国土交通省河川局防災課,同保全課より現地を視察していただくとともに,古田肇県知事や国土交通省へ陳情に訪れ,災害復旧についての支援をお願いしました。
 それにより,梅谷地区西谷の緊急砂防事業や梅谷川の災害関連事業などの採択を受けて,災害復旧工事とは別に安心安全のため緊急に整備を要する事業を実施していただくこととなりました。
 垂井町内では,県と町における公共土木施設災害復旧及び農林施設災害復旧を合わせ,総事業費10億円を超える規模の災害となりました。
 平成21年9月現在,既に災害復旧事業は完了し,引き続き岐阜県施工の緊急砂防事業を今年度末,河川の災害関連事業を来年度末の完成を目指して施工していただいています。
西谷緊急砂防事業による砂防堰堤建設状況(梅谷地区)
6.町の災害に対する取り組み
 安心安全で災害のないまちづくりを推進するために,岐阜県と垂井町では次のようなことに取り組んできました。
a) ハザードマップの作成
 当町では平成20年度に浸水ハザードマップを作成する計画をしており,被災直後の10月に住民代表の方々を含めた「作成検討委員会」を立ち上げ,浸水と併せて土砂災害についても検討をしました。当マップには平成19年度に指定された「土砂災害警戒区域等」についても掲載することでまとまり,平野部は浸水対策に山間部は土砂災害対策として活用できるよう作成し,平成21年4月に町内全戸配布をしました。
b)避難勧告等の判断・伝達マニュアルの作成
 今回の集中豪雨で,垂井町では初めて土砂災害警戒情報が発表されましたが,避難による事故の発生を懸念し,住民への避難勧告は発令しませんでした。しかし,本来は避難勧告等を適切なタイミングで適当な対象地域に発令する必要責任があることや,住民への迅速確実な伝達が必要であることから,岐阜県や気象庁など関係機関の指導を受けながら土砂災害並びに水害にかかる「避難勧告等の判断・伝達マニュアル」を作成しました。
 今後,豪雨などによる各種防災情報(土砂災害警戒情報や河川水位レベル等)を有効利用し,避難勧告等の発令の際の判断基準や正確な情報により住民の自主避難の判断基準等に利用していきます。
c)流木止め堰堤の建設
 平成20年度の集中豪雨では,梅谷地区で土石流に伴う土砂の他に,大量の流木の流出が見られました。
 当地区では土石流が発生した渓流(西谷)には砂防堰堤がなく,今回の災害を機会に緊急砂防事業により砂防堰堤が建設されることとなりました。しかし,当地区の他の渓流には土砂止めの砂防堰堤はあるものの,流木止めの施設はなく今回のような被災を引き起こすこととなり,地元より流木にかかる対策の要望が提出され,岐阜県においては早速流木止め堰堤建設の事業化に着手していただきました。
 当梅谷地区で流木止め堰堤3箇所の建設を計画し,平成23年度完成を目指して現在,現地調査を実施しているところです。
 以上のように,今回と同じ災害を繰り返さないため,また住民の生命と財産を守るため,ハード・ソフト両面における整備に今後も取り組んでいきます。

「避難勧告等の判断・伝達マニュアル」 流木流出状況(梅谷地区)

7.災害を振り返って
 近年,各地で見られる局所的集中豪雨を初めて経験し,併せて深夜の災害でもあり,状況が満足に確認できず全体的な被害把握ができたのは明け方以降になり,改めて局所的集中豪雨と土砂災害の恐ろしさ,そして被害の大きさを目の当たりにしました。
 垂井町にとって土砂災害警戒情報は初めてのことであり,住民に対して屋外放送を流し注意を呼びかけたものの,避難勧告については発令する具体的な基準がないため判断できないまま,災害を受けることとなってしまいました。また,情報の収集が満足にできずリアルタイムで被害状況が把握できなかったことなど,今回の災害により多くの課題が浮き彫りとなり,特に情報収集や避難勧告など情報伝達の大切さを強く感じたところです。
 また,災害時の対応や復旧に際して,地元の自主防災隊,自治会,消防団,建設業会等のボランティア団体など,地域住民が結束して災害対策に立ち向かうことが大きな力となることを肌で感じました。
 このように今回の災害を通じて得た教訓を活かし,自然災害を未然に防止し安全で災害に強いまちづくりを目指し,今後も砂防・治水などのハード・ソフト両面の災害予防の取り組みを進めていきます。
 最後になりましたが,災害直後から国土交通省,岐阜県をはじめ関係機関の多くの皆さまに多大なるご支援やお力添えをいただき,災害復旧事業をはじめ緊急砂防事業や災害関連事業などの採択・着手に速やかに対応していただきましたことに誌面をお借りして心より感謝を申し上げます。この教訓を活かして,今後の防災対策に万全を尽くしたいと思います。