岩手・宮城内陸地震
土砂災害による行方不明者再捜索と栗原市震災復興計画

佐藤勇(Isamu Sato、宮城県栗原市長)

「砂防と治水193号」(2010年2月発行)より

○はじめに
 平成20年6月14日発生の岩手宮城内陸地震より、早いもので1年半が過ぎました。発災直後から内閣府はじめ国土交通省、農林水産省、林野庁など国の関係機関や宮城県、自衛隊、宮城県警察本部、県内外の消防本部、更には多くの自治体や医療機関、電力・通信等の民間会社、ボランティアなど、全国各地から心のこもった御支援、御協力をいただきながら、復旧・復興に取り組んでまいりました。非常に厳しい状況の中、幾多の困難にも遭遇しましたが、お陰様でこの難局を乗り越えることができました。誌面をお借りしてあらためて御礼申し上げます。
 さて、岩手・宮城内陸地震の被害については、第185号「砂防と治水」で詳細に報告したところでありますが、再び寄稿の機会を賜りましたので、今回は、震災の土砂災害による人命捜索活動の事例と栗原市震災復興計画について紹介いたします。地震による行方不明者は現在4名と、懸命の捜索にもかかわらず残念な結果となっており、あらためて胸の痛むものであり、遺族関係者に対し哀悼の誠を捧げるものであります。

○駒ノ湯温泉の行方不明者捜索開始
1.発災直後の対応

 栗原市栗駒耕英地区にあった駒ノ湯温泉は岩手宮城内陸地震で発生した土石流により、従業員と宿泊客9名が旅館もろとも巻き込まれ、2名が自力で脱出しましたが、7名が生き埋めとなりました。
 被災直後から自衛隊、警察、消防などによる懸命な捜索活動が行われ、発災から10日後までに5名が遺体で発見されました。
 捜索現場は高含水比の土砂が旅館を巻き込んで堆積しているため、人力による捜索活動を阻む状態。耕英地区へ通じる道路はすべて寸断しており、自衛隊ヘリに建設機械の空輸を要請し、輸送可能限界である小型バックホウと、プラスチック製敷板を利用しながら残り2名の捜索を行いましたが、状態を改善できず、平成20年7月16日に捜索活動の中断が決定されました。

被災箇所拡大

2.捜索再開
 その後、平成20年12月末には耕英地区へ通じる道路が復旧途中であるものの通行可能となり、雪解けを待って平成21年5月21日に捜索活動を再開しました。
 駒の湯温泉は現地の地盤状況に合わせ建築されたため、各棟の建築地盤高が違い、一番高い位置に建築されていた本館であっても、H=4mもの土砂が堆積している状態でした。
 被災直後に捜索の妨げとなった堆積土砂の高含水比状態は、県の砂防工事に先駆けて行われた仮排水路工事でいくらか軽減されましたが、最低でH=4mの掘削高さを計画している今回の捜索では、超湿地バックホウでも現場の走行が不可能であることから、水上での作業可能な「泥上掘削機」を導入し作業を行いました。
 捜索範囲として本館付近のA区域、地震直後に遺体が発見されたC区域、大広間付近のB区域、客室付近のD区域の発見の可能性が高い順に行うことが決定され、掘削請負業者の他、現場には市職員と警察が常駐し、バケットや掘削箇所を監視しながら作業が進められました。通常の土工掘削とは違う、慣れない作業が続く中、A区域、C区域で何も発見されないまま捜索開始から1ヶ月以上経過し、関係者の疲労がピークとなっていたころ、B区域作業中の7月1日にお二人の遺体が発見されました。

被災前の駒ノ湯温泉 捜索現場平面図

現場立面図

A区域捜索状況(H21.5.22) A区域捜索終了(H21.5.27)

3.再捜索を振り返って
 地震による行方不明者の再捜索は、平成21年6月9日に迫川上流域花山白糸の滝吊り橋付近においてお二人の遺体発見、また、捜索再開から42日にあたる平成21年7月1日に、駒ノ湯温泉でお二人の遺体を発見いたしました。
 平成20年7月16日に捜索を断念して以来約1年ぶりの再開は、ご家族、ご遺族関係者の悲痛な思いを胸に受け止め、国・県関係者の特段の御理解と御支援をいただきながら、異例ともいえる捜索再開につながりました。
 災害救助法では、「捜索は発生から10日以内」となっておりますが、栗駒山の復興を考えるとき、捜索の再開は市の復興に向けた大きな力となるものと考え決断したものです。

駒ノ湯付近全景(H21.11.7)

○栗原市震災復興計画「水と緑、山の再生へ」
1.震災復興の理念
 栗原市の北西部にそびえる秀峰「栗駒山」は、雄大で伸びやかな山稜と四季折々に変化する美しい自然の宝庫として、市民など多くの皆様に愛されてきました。
 この「栗駒山」を源とする清流が、山麓を迫川、二迫川、三迫川に分かれて流れ、大河北上川と合流し太平洋に注ぎます。この清流は、栗原の大地を潤し、日常生活の飲料水、農業用水などに利用され人々の暮らしに大いなる恵みを与えてきました。
 今回の地震では、この美しく豊かな自然の象徴である「栗駒山」に大きな被害が生じましたが、市民一丸となり震災からの復興を成し遂げるため「水と緑、山の再生へ」をスローガンに掲げ、復興を推進します。

2.復興計画の目標
【基本目標1】市民生活の再生
 住宅の確保
 社会生活基盤の復旧
 保健・医療・福祉の充実
 地域コミュニティの再生
【基本目標2】産業・経済の再建
 観光の復興・情報発信
 生業・地域産業の再生・復興
 雇用機会の創出・失業者への対応
【基本目標3】防災のまちづくり
 災害時の情報伝達手段の確立と交通手段確保
 自助・共助・公助、関係機関などとの連携
 災害記録の有効活用

震災復興の理念図

3.復興計画の期間
▽復旧期 
平成22年度まで(震災から概ね3年間)
 生活や産業の再開に不可欠な住宅、生産基盤、インフラなどの復旧に加え、再生・発展に向けた準備を精力的に進める期間。
▽再生期 
平成25年度まで(震災から概ね6年間)
 復旧されたインフラと市民の力を基に、震災に見舞われる以前の活力を回復し、地域の価値を高めてゆく期間。
▽発展期 
平成26年度以降
 被災地が新たな魅力と活力ある地域として生まれ変わり、安定的に発展してゆく期間。



復興年度計画表

○おわりに
 震災の土砂災害などにより市内の温泉宿泊施設は壊滅的な被害を受けるなど、テレビ、新聞等で大きく報道されたところでありますが、これらの温泉施設のうち、市の第三セクター「花山温湯山荘」、「ハイルザーム栗駒」の各温泉は、平成21年秋に、1年半ぶりに営業を再開いたしました。
 是非、全国の皆様には、栗原市へおいでいただきますようお待ち申し上げております。