平成20年6月14日岩手・宮城内陸地震を振り返って

伊藤康志(Yasushi Ito、宮城県大崎市長)

「砂防と治水193号」(2010年2月発行)より

1.大崎市の概要
 大崎市は,全国一の泉質を誇る鳴子温泉郷の鳴子町,江戸時代の学問所「有備館」を有する岩出山町,保健福祉の先進地三本木町,醸造文化と歴史のまち松山町,災害に強いまちづくりの鹿島台町,渡り鳥のオアシス「蕪栗沼」を有する田尻町,そして高速交通網で結ばれ,「ササニシキ・ひとめぼれ」誕生の地古川市が平成18年3月31日に,観光・歴史・文化と多様な個性ある市・町が合併した市です。
本市は,宮城県北西部に位置し,西は山形県,北は秋田県に接しており,東西に約80kmの距離に亘り,奥羽山脈から江合川と鳴瀬川の豊かな流れによって形成された広大で肥沃な平野「大崎耕土」を有し,四季折々の食材と天然資源など地域文化の宝庫であり,大崎20万都市への挑戦と「宝の都(くに)・大崎」を目指しています。

2.地震の経過
 平成20年6月14日午前8時43分、岩手県奥州市内陸部でM7.2本震(最大震度6強),同日9時20分、宮城県栗原市内陸部でM5.7最大余震(最大震度5弱)が発生したことにより,宮城では栗駒山麓の栗原市と本市の北西部に位置する鳴子温泉地域が大きく被災し,その後幾度となく余震が続き、被害調査も容易にできない状況が続きました。
 大規模な土砂災害と土石流により多くの尊い人命を失うこととなった栗原市の皆様には衷心よりご冥福をお祈りいたします。幸いにも大崎市においては大きな人的被害には至らなかったものの,栗駒山麓へ通じる市道の橋梁や川渡の黒崎地区が落石により被災しました。

3.被害の状況
 この地震により,大崎市内では道路75件・水路4件・公園3件・落石1件・住宅16件・下水道2件・民有地の落石7件のほか農業施設16件・林道11件・学校44件・学校以外24件・水道施設39件など数多くの施設が被災しました。
 中でも鳴子温泉地域の黒崎地区の落石は民家の裏山が大きく崩れ落ち落石の大きさはダンプトラック大の大きさの石が数個と1m大の石が無数に転げ落ちた状況から,その衝撃の凄さは想像を絶するものでした。今まで数多くの地震を経験しながらもこれほどの落石を経験することはなく,黒崎地区で3箇所の落石が発生したことは大変な衝撃でした。落石のあった裏山の地形はみな急峻で民家まで約100mと距離がなく,民家沿いに市道・JR陸羽東線が並行している箇所で,緊急の避難対策と応急仮設対策の必要に迫られました。

被災状況 落石した状況(ダンプトラック大)

 余震の続く中で,いち早く災害調査のため「TEC-FORCE」の出動や県当局の関係職員の派遣をいただき,被災状況の把握と対策を検討していただきました。
 落石は3箇所あり2箇所は裾野が緩く樹木も繁茂していることから直接民家への影響はないと判断され,残る1箇所について緊急の避難体制とその対策について検討を行うこととなりました。
 また,川渡上原地区では水源が濁ったために職員が交替で給水活動を約1ヶ月間行うなどライフラインの確保に努めました。当該地区は,軽種馬や酪農地域の関係から住民への給水はもちろんですが,家畜用の給水が大量に必要なためタンクへの補給に集乳用のタンクローリーの手配や近隣市町村の給水車の応援をいただきましたこと誠にありがとうございました。この場を借りて改めて御礼を申し上げます。

4.地震の対応
 鳴子温泉地域では,6月8日に防災訓練を開催し,約1週間後に地震が発生したということと幸いにも朝に地震が発生したということが初期活動を迅速に行わせ,現地対策本部の設置と3家族17名(黒崎地区は2家族14名)に対し避難勧告と誘導を手際よく行うことができました。
 ただ今回の落石は,今まで経験のないくらい大きな被災であり,余震の続く中で二次災害も予想され被災箇所の調査を順調に行うことができず,また応急対策も容易に出来ない状況でありました。余震がなくなるのを待ちながら再度落石があった場合への緊急避難用予知センサーの設置や防護用トンパックの設置など約1ヶ月を要する結果となり,7月25日に避難勧告を解除することができました。

仮設土のう積(1tパック) 仮設防護ネット

5.災害復旧への取り組み
 落石箇所は,TEC-FORCEや宮城県防災砂防課の皆様に現地調査をしていただき,緊急に整備をする必要性から災害関連緊急砂防事業と特定緊急砂防事業の採択を受け,安心・安全を確保するための切土工・覆式ロックネット工や待受け工を平成20年度から着手していただきました。
 しかし,平成21年度に入り切土法面に当初想定したより深い亀裂を発見されたことから現場吹付法枠工とロックボルト工を増工する対策が取られ,平成23年度完成を目指しております。

6.市の災害に対する取り組み
 市では,住民が自らを災害から守る「自助」,地域社会がお互いを守る「共助」,そして行政の施策としての「公助」が適切に役割分担されている防災協働社会の形成による減災の観点に立ち,防災対策を推進しております。
 過去の地震被害の把握と今後予想される宮城県沖地震を想定した地域防災計画を策定し,関係機関との連携や自主防災組織の設置,ボランティアの支援活動など災害対策本部の設置フローチャートを作成,また,ハザードマップや避難勧告等の判断・伝達マニュアルの作成を行い,有事において自主防災組織を中心に避難・誘導を行えるよう定期的に防災訓練を実施しております。

7.災害を振り返って
 近年,各地で見られる局所的な集中豪雨をはじめ,地震による土砂災害等多岐に亘る災害が発生しており,特に夜間や深夜の災害を新聞や報道により知ることができますが,その恐ろしさは想像を絶するものがあります。
 幸い本市における地震は朝に発生したことから,その対応が早く,適切に行動ができたものの夜間や深夜に発生したと考えると恐ろしいばかりです。今回の地震では避難勧告を発令したものの余震は続き,本格的な調査に入ることも難しい状況から避難勧告解除まで約40日間を要しました。
 避難勧告解除までに応急対策が取れなければ解除できないもどかしさと,避難された市民の皆様には長期間の避難で大変ご迷惑とご負担をかけることとなりましたことは今後の課題であり,早急な対策を講じる必要があります。
 今回の地震災害を通じて得た教訓を活かし,本市は東西に約80kmあり,上流はカルデラ地形の火山地帯で地震や集中豪雨による土砂災害が想定され,下流部はその増水による堤防の決壊や低地の冠水等,時間差で連鎖反応的に災害の発生が予想され,自然災害の恐ろしさを認識しながらも未然に防止する対策と災害に強いまちづくりを目指し,砂防・治水のハード・ソフト両面で災害予防の取り組みを進めていきます。
 最後に,災害直後から国土交通省,宮城県をはじめ関係機関の皆様に多大なるご支援をいただき,災害復旧事業・災害関連緊急砂防事業や特定緊急砂防事業の採択並びに事業着手に速やかに対応していただきましたことに心より感謝を申し上げます。