平成21年5月発生の「金山地区」地すべり対策について

渡辺政巳(Masami Watanabe、宮城県丸森町長)

「砂防と治水194号」(2010年4月発行)より

1.はじめに  丸森町の概要
 丸森町は,宮城県の南部に位置し福島県と接する面積273km2,人口1万6千人の自然豊かな町です。仙台市や福島市,また,海水浴場やスキー場も1時間のコンパスで描いた円内に入り,通勤通学,買い物,レジャーにも地理的に恵まれております。
 町には観光の拠点である「斎理屋敷」や「阿武隈ライン舟下り」「阿武隈渓谷県立自然公園」など見どころがいっぱいで,県の内外からそのほどよい田舎の魅力に惹かれたお客様が訪れ,年々交流人口が増加しております。最近は,町内の随所に町民自らが立ち上げた直売所がオープンし,新鮮な野菜や地場産品を求め,多くの皆様方においでを頂いております。

2.災害と丸森町
 本町は,水と緑に輝き,里山や渓谷といった自然環境に恵まれた半面,山間部特有の地形であるため,これまで多くの自然災害が発生しました。
 町を南北に流れる阿武隈川は,福島県から宮城県に入るとそれまでの平坦な景色から一変し,自然豊かな渓谷美に包まれますが,ひとたび洪水が発生すると家屋の2階まで浸水するという想像もつかない被害が度々おきておりました。これを受け平成15年から国による水防災事業が行われ,44戸の家屋が洪水被害から守られることになりました。
 また,町の面積の7割が山林でありますが,気候が温暖で,地形が緩やかなため町全域のほとんどに人家が張り付いており,そのいたる所に道路がはりめぐらされております。また,阿武隈川の支流も多く,台風など豪雨のたびに,山間部を中心に過去に何度も大きな被災を受け,その都度多くの先人が災害復旧に携わり,その結果,町民の災害に対する防災意識も高まり,少しずつ災害に強い町になってまいりました。

丸森町の位置

3.地すべりの経過と状況
 今回の地すべり箇所は,町の東部に位置する金山地区であり,平成21年5月に山林の所有者から「山に異常な亀裂があるのでみてほしい」との第一報を受け,すぐに町職員が現地に駆け付けました。現場には幅50mにわたって垂直に5mも滑落している崖が見つかり,その段差の大きさに職員は目を疑いました。その下方40mの場所には人家が張り付き,さらに主要地方道路である県道丸森柴田線が走り,また,この道路は100mほど離れた丸森東中学校,そして金山小学校の通学路ともなっており,人や車の往来が多く,もしこの地すべりが一気に移動していれば大惨事となるところでした。
 その後すぐに宮城県大河原土木事務所に連絡し速やかに現地調査を実施して頂き,さっそく地山の動きを捉える伸縮計の設置と大型土のうによる応急工事が行われ,県と町が連携して警戒にあたりました。

滑落個所の状況(全景) 滑落個所の状況

仮復旧工事の状況

 町では滑落箇所のすぐ下の家屋は危険であると判断し,自主的な避難をお願いし,空家となっていた町営住宅を急きょ修繕して仮住まいをして頂きました。また,避難される方が,人手が足りないとのことで,引っ越しには町の職員も応援し,無事安全な場所に移転することができました。
 その後の滑落箇所状況は,少々の降雨でも地すべり伸縮計の警報機が作動し,そのたびに大河原土木事務所の職員の皆様が交代で駆け付け,所長を筆頭に昼夜を問わず現地に常駐し1時間ごとに移動量を計測するなど,万全な監視体制を敷いていただきました。また,徹夜となったこともたびたびあり,24時間体制の熱心な対応に大変感謝をしているところであります。
 詳細な調査の結果,深さ7mほどの地層にすべり面があることが判明し,6月4日には国の災害関連緊急地すべり対策事業が採択となり,県による本格的な工事がすぐに実施されました。事業費は,9千6百万円ほどで,2,500m3の土砂の撤去工事と押え盛土,法尻には鋼製組立網工による土留めがなされ,さらに水抜き用の横ボーリングを実施して頂きました。
 その間,県道が通行止めとなり,小中学生は1.5kmほど遠回りする迂回路を通学することになりましたが,学校や父兄からは「もし可能であれば雪の降る前までに工事が終われば」との願いを受け,当初は3月までかかるであろうと予想されていた工事が関係者の懸命の努力の結果,12月にほぼ終了し,子供たちは危険な雪道を遠回りすることなく元の安全な通学路を利用することができました。

工事完成後(全景) 工事完成後

4.災害に対する今後の取り組み
 今回の被災箇所は,立木が覆い茂り,たまたま山菜採りに行った所有者が発見したものであり,真新しい地肌でありながら滑落がいつ起きたかは特定できませんでした。しかし,人家のすぐ裏山に5mもの滑落があったということで,もし誰も気付かずに台風や梅雨時の長雨で地すべりが加速し,人家や県道に被害がおきていたらと考えると鳥肌が立つ思いであります。この一帯の地すべり防止区域には,ほかにも対策が必要な箇所があり,今後の対応が望まれるところであります。
 近年の異常気象による集中豪雨は本町にも顕著にあらわれ,平成20年8月には時間雨量69mmを観測し役場周辺が冠水するなど,本町にとってこれまでにない記録的な豪雨となり,今後もそうしたことが予想されます。また,今後30年以内に99%の確率で発生するといわれている宮城県沖地震による災害も懸念されております。一昨年の岩手・宮城内陸地震では大規模な山腹の崩壊が発生し,多くの方々が犠牲となり,被災された方々の1日も早い復興を願うばかりです。これまで本町では,耐震基準を満たさない家屋の倒壊に対する地震対策を主眼としてきましたが,今後は地震による土砂災害に対する警戒も必要だと改めて痛感しているところであります。
 本町では平成21年度から地域防災計画の見直し作業を行い,課題に即した計画を策定しようとしておりますが,すでに住民配布している洪水ハザードマップ,防災マップ,地震ハザードマップをフルに活用し,豪雨や地震による土砂災害について,地域住民への周知をさらに徹底し,また,町の避難誘導体制も確立し,人的被害を未然に防ぐよう努めていきたいと考えております。
 県におかれましては,現在,本町における土砂災害危険区域の指定を鋭意進めて頂いておりますので,引き続き土砂災害の防止に向けハード,ソフト両面においてご支援を賜りたいと思っております。

5.おわりに
 今回の地すべりでは,国においてはスムーズな事業の採択をして頂き,短期間で事業が完了し,大変感謝いたしております。
 また,地すべり発生の初期段階から県,町,消防団等関係機関の連携がうまく機能したと実感しております。県においては,速やかに24時間の監視体制を敷いて頂くとともに,通学する小中学生に配慮した迂回路の整備,そして早期の事業着手から完成まで住民の視点に立ったきめ細かな対応をしていただきました。町としては避難誘導,仮住まいの確保,工事の影響を受ける学校等関係機関や地元の連絡調整を行ってまいりました。
 このように国,県,町とそれぞれの役割にそった迅速な対応により,工事の早期完成が図られ,人的,物的被害が未然に防止できたことに対して,関係者の皆様にあらためて感謝を申し上げるところでございます。
 国,県,町それぞれの行政の共通の目的は,「国民,県民,町民のしあわせ」だと考えております。これからも異常な気象変動により,災害はいつどこで起きるか分かりませんが,万一に備え,日ごろから町の行政を担う責任者として,町民の生命,財産を守るため精一杯努力してまいりますので,今後とも,国,県のご指導をお願いいたします。