平成21年2月融雪出水による地すべり災害について

小林宏晨(Hiroaki Kobayashi、秋田県北秋田郡上小阿仁村長)

「砂防と治水194号」(2010年4月発行)より

1. 上小阿仁村の概要
 上小阿仁村は秋田県のほぼ中央,北秋田地区の西南部に位置する南北に長い山あいの村です。秋田市と接する太平山に源を発する小阿仁川は途中,五反沢川,仏社川などの支流と合流し北上しています。北部は平地が多く集落が点在していますが,南部は山林が多くなっています。村の総面積は256.82km2となっており,うち山林原野が92.7%を占め,このうちの75%が国有林となっています。
 不動羅地区の縄文遺跡などから,3500年以前にはすでに人間が住みついて生活していました。南北朝時代には,秋田氏の領地となり,可成三七が現在の小沢田地区に七倉城を築き,小阿仁川流域を治めました。徳川時代に入り,藩の方針として「秋田杉」を育成し,「阿仁鉱山」と近い位置であったことから,御用木(坑木)の産地として珍重されました。村の中心のひとつである沖田面地区は,秋田久保田(秋田市)と阿仁鉱山を往来する宿場として栄えました。
 現在の上小阿仁村は,明治22年,市町村制施行により,小沢田村,五反沢村,福館村,杉花村,堂川村,仏社村,沖田面村,大林村,南沢村が合併して現在に至っています。

位置図

2. 異常気象の経過
 平成21年2月13日は朝鮮半島付近にあった前線を伴った低気圧が東進し,低気圧に向かって暖かな南風が強く吹き込み,各地で春一番が観測され,太平洋側では7月上旬並みの夏日を観測したところもありました。低気圧は発達しながら翌14日には北海道地方に中心を移し,北日本では大荒れの天気となりました。
 この低気圧の影響で,13日のお昼過ぎから急激に気温が上昇し,14日午前4時には11.4℃を記録しました。2月の平均気温が−1.9℃であることを考慮すると異常な高温といえます。これに合わせるかのように13日夜遅くから降り始めた雨は14日午前3時からの1時間に6mmを記録し,急激な雪解けが進み村の中心を流れる小阿仁川は2月とは思えないほど増水しました。
 低気圧の通過後は冬型の気圧配置となり雨が次第に雪へと変わり,風が強く吹雪となって大荒れの天気となりました。

3. 被害の状況
 この異常な気象現象により,14日土曜日の早朝から職員が被害状況の調査を行いましたが,積雪のため進入できない道や,荒天による視界不良により全体の被害の把握は困難でした。
 幸いにも人的被害はなく,14日時点では村道1件の被害が確認されました。
 しかし,吹雪が収まり視界が良好になった17日になって,小阿仁川支流の一級河川五反沢川に立木が倒れているとの通報があり,村の職員が現地確認を行ったところ,右岸側の山地が地すべりにより末端部に設置されていた井桁ブロックごと川を塞ぐような形で押し出し,河川幅が極端に狭くなっており,左岸側の堤防をえぐり取って,かろうじて水位の下がった水を通水している状態が確認できました。
 すぐに,県の北秋田地域振興局に連絡し職員が現地到着すると現地踏査を行いました。
 その結果,このままの状態では次の融雪出水時はダムアップにより左岸側に越水する恐れがありました。左岸側は農地でしたが,その先には住家があって越水による浸水被害の恐れがあり,地元の自治会長を通じて,とりあえずの注意喚起をその日のうちに行いました。
 翌18日には,県が緊急に河川の付け替え工事を実施することが決定し,地権者の同意を得て早速付け替え工事を実施していただきました。こうした迅速な県の対応により当面の間は,危険な状態を回避することができました。
 しかし,依然として右岸側の地すべりが再度の滑動により被害の拡大が心配されたことから「地すべり警戒避難体制及び緊急連絡系統図」を作成し地元住民に配布するなどして,村,県,消防,地元等関係者が連携しながら対応する体制を構築しました。

小阿仁川出水状況(羽立地区) 現地確認の様子(H21.2.17)

地すべり警戒避難体制及び緊急連絡系統図

4. 本復旧への取り組み
 現場は,昭和35年1月に地すべり危険地域に指定され,昭和34年度〜昭和43年度,昭和59年度〜平成11年度の2度にわたり対策が施されていました。今回,被災を受けた場所には,集水井2基と護岸兼用の井桁ブロックが設置されておりました。
 改めて現地踏査を行ったところ,地すべりブロック末端部の井桁ブロックは地すべりにより河川内に押し出され壊れており,表面排水工のコルゲート管は崩落土砂と一緒にすべり落ちている状況でした。しかし,既設の集水井2基については変状等が認められませんでした。
 このような現場状況,地すべり調査の結果をふまえ,復旧工法を検討したところ次のとおりの対策を実施することとしました。
T 既設集水井2基を利用し,既設集水ボーリングの間に追加で集水ボーリングを実施する。
U 崩落後の地形については大きな変動が見られないが末端部は撤去せず,そのままの状態で押さえ盛土を実施する。
V 地すべり末端部は現況河川内となるため,河川の付け替えを実施する。
W 滑落崖については必要最小限の排土を行い,整形,植生法面とし表面排水工を実施する。
X 機構解析によると,5次すべりまで想定され,その安全率を1.200まで向上させるため新たに2基の集水井及び,集排水ボーリングを実施する。
 以上が復旧工事の概要です。
 平成22年3月現在,追加集水ボーリングと右岸側築堤・護岸工が完成しております。また,押さえ盛土工,左岸側護岸工については現在着工中であり約80%の進捗です。現在も地下水位,伸縮計による観測を実施しておりますが,地すべり性の変動は見られず,対策工事が効果を発揮していると考えられます。



抑え盛土工 施工中(H22.3.8)

5.終わりに
 被災直後から,国土交通省,秋田県をはじめ関係機関の多くの皆様から多大なるご支援やお力添えにより,災害関連緊急地すべり対策事業及び地すべり対策事業に採択いただき,迅速なる対応をいただきましたことに深く感謝申し上げるとともに,早期に対策工事が完了し,地域住民が安心して暮らせるよう望みます。