平成21年7月1日の惣津地区地すべり災害について

松浦 正敬(Masataka Matsuura、島根県松江市長)

「砂防と治水195号」(2010年6月発行)より

1.松江市美保関町の位置・概要
 松江市は島根県の東部,山陰地方の中央部に位置し,北部は日本海に面した島根半島部の景観美しいリアス式海岸で,中央部には中海・宍道湖があり,水と緑に囲まれた自然豊かな地域です。
 美保関町は松江市の東端にあり,南・北・東の三方を海に囲まれた半島地形です。
 町の中央には島根半島の急峻な尾根が走っており,山と海に囲まれたわずかな土地に22の集落が点在しています。その中でも美保関は,古くは「国引き神話」や「国譲り神話」の舞台として知られ,また,昔から海上交通の要所として北前船が寄港するなど重要な位置を占め,民謡「正調関乃五本松節」の発祥の地でもあります。

2.惣津地区地すべり発生時の状況
 地すべりが発生した惣津地区は町域の中央付近に位置し,日本海に面する小集落で,半島の尾根から伸びたすり鉢状の谷地形に住居65戸が密集しています。
 平成21年7月1日(水)8:20ごろ 住民から松江市美保関町支所へ,主要地方道松江鹿島美保関線の路面に陥没やひび割れがあるとの通報があり,県・市の関係者が現地へ直行し被害状況を確認しました。
 現地では,舗装面と側溝に4cmの段差や,舗装面にクラックが発生していましたが,幸いにも人家等には大きな被害はありませんでした。
 地すべり発生までの降雨量は,6月29日─31mm/日,30日─23.5mm/日でありましたが,梅雨期に入り降雨が続いており,今後の降雨による被害の拡大が懸念されました。

3.緊急対応
 被害の拡大を防止するため,県により被災箇所の緊急対応が行われました。
@7月1日,路面に発生したクラックへアスファルトピッチの注入,陥没箇所はビニールシートで覆う等,被害の拡大防止対策を実施。
A7月1〜2日,監視員を24時間配置し地盤移動の定点観測による地すべり状況の監視を行い,続いて伸縮計を2カ所に設置。
B7月2日,地すべり規模や地下水位等を確認するため,2カ所で緊急に調査ボーリングを実施。
C7月4〜6日,地すべり箇所上部に県道があるため,夜を徹して大型照明が照らすなか,押さえ盛土として大型土のうを施工。

7月1日現地調査 7月2日被災状況 大型土のう設置状況

4.地元住民避難への対応
 県と松江市では,災害発生直後から,惣津自治会長と地元住民に対し,現地対応の状況を適宜報告するなど,不安解消に努めました。
 特に7月1日地すべり発生当日は,夜に向かい地区住民の不安が大きくなるおそれがあり,また,夜間に地すべりが拡大した場合に,緊急避難の必要があるため,被害想定区域世帯に対し,地すべりの被害状況,緊急対策,安全対策等について説明会を行いました。
[説明事項]
@現地調査の結果,現状では急速に被害が拡大する危険性は低いが,緊急避難の準備が必要。
A夜間の監視体制は24時間監視員を配置し,1時間ごとに地盤変位を観測する。
B7月1日から伸縮計を設置し,7月2日には地すべり調査ボーリングによる地下水観測をする。
C今後,被害区域で状況が変化すれば,その都度住民へ説明を行う。
 説明会により,現在の被害状況や今後の対応について理解が得られ,夜間は自主的に親戚宅等へ避難する等,冷静に対応していただきました。
 美保関町内には平成20年度に各自治会単位で自治会自主防災隊組織が設置されており,惣津地区においても,豪雨時の地区内巡視など,防災活動に取り組まれており,この度の災害に対する住民避難支援の体制作りにあたっても,自治会長を中心に,地元消防団員と連携した自主防災隊の積極的な協力・支援により,被災直後から被害警戒区域世帯へ,避難支援の対応をとることが出来ました。
 また,県から,今後の対策について,いち早く地すべり対策についての取り組み方針が示されたことや,対策工事の期間中についても継続的に避難体制を維持し,住民避難の支援等の安全確保を図っていくことにより,惣津地区住民は大きな安心感を得ることが出来たものと考えております。

5.災害関連緊急地すべり災害対策事業の採択
 7月1日の地すべり災害発生直後から,現地では緊急の安全対策と現地調査が行われ,7月3日には,県から国に対し災害関連緊急地すべり対策工事の採択に向けた下協議が行われ,その結果,7月21日(火)には,災害関連緊急地すべり対策事業が短期間で採択され,以後,平成21年10月から対策工事が施工されており,早期完成を願っております。

惣津地区 災害関連緊急地すべり対策工事 平面図

標準断面図

6.おわりに
 地すべり発生直後から,応急対策の実施や,緊急地すべり対策事業に着手していただき,さらに,平成22年度からは特定緊急地すべり対策事業の導入等,地域の安全度は格段に向上するものと喜んでおります。しかし,地すべりなどの土砂災害はいつどこで発生するか分かりません。災害時の緊急対応には地区に結成されている自主防災組織のさらなる充実と活用を図っていく必要があると考えています。
 最後に,惣津地区の地すべり対策に発生直後からご尽力いただいた国・県をはじめとする関係各位に本文面を借りて感謝申し上げます。