7.21豪雨による災害について

渡辺 純忠(Sumitada Watanabe、山口県山口市長)

「砂防と治水195号」(2010年6月発行)より

1.はじめに
 山口市は,山口県のほぼ中央部に位置する人口約20万人の県庁所在地です。平成17年10月に,山口市,小郡町,秋穂町,阿知須町及び徳地町の1市4町が合併し,さらに,平成22年1月に阿東町と合併したことにより,南は瀬戸内海を臨み,北は中国山地で島根県と接する,約1,023平方キロメートルの県内最大の面積を有する自然豊かな市域となっています。
 また,本市の中心部は,中世室町時代に,時の守護大名である大内氏が居館を構えたところであり,京都を模してまちづくりを行ったことから「西の京」とも呼ばれ,雪舟や宗祇など多くの文人墨客が訪れ,大いに文化の華を咲かせた地でもあります。今も往時をしのぶ史跡や街割が残っており,歴史と文化の香り豊かなまちでもあります。


2.豪雨による災害の発生
 昨年の豪雨は,7月21日から22日にかけて24時間雨量が277mmを記録し,中でも21日午前8時4分までには時間雨量77mmが観測されました。満潮と重なったこともあり,市の南部を中心に河川が増水し,まず南若川流域の増水により鋳銭司地区に避難勧告を発令し,続いて四十八瀬川周辺,椹野川周辺,問田川周辺に避難勧告を発令しました。
 市街では側溝や下水路の水があふれ,道路の浸水による交通渋滞を引き起こすとともに,住宅地が浸水し,床上浸水418棟,床下浸水1,561棟の被害が発生しました。また,椹野川の増水により大歳地区の朝田浄水場が浸水したことや,大内長野地区の土砂崩れによる水道送配水管の漏水もあり,市内35,377世帯が断水となり,市民生活に多大な影響が生じました。
 さらに豪雨は,小鯖地区を中心とした土砂災害をもたらし,市内の多くの地域に避難勧告・指示を発令しました。特に小鯖稔畑地区では,県道・市道の被災により集落が孤立したため,防災ヘリコプターを要請し,広島市,福岡市及び愛媛県の防災ヘリコプターの応援を得て,延べ78人を避難場所に搬送して頂きました。
 7月24日には再度大雨警報が発令され,地盤が緩くなった山地にさらなる災害が予想されたため,避難指示を拡大し,合計では6,543世帯16,675人を対象に避難を促す事態となりました。避難所の開設は市内の公的施設32箇所に及び,ピーク時は697人の方々が避難されました。
 幸いなことに死者及び行方不明者などの人的被害はありませんでしたが,大雨警報の発表は7月27日まで,断水は29日まで継続し,住民の不安と疲労は頂点に達しました。避難や断水で多くの市民の日常生活に支障が生じたところですが,関係機関やボランティアの協力を頂きながら,避難所の運営,断水地域への給水活動,入浴施設の開放などを行うとともに,被災家屋等の応急復旧に努めたところであります。


位置図



表1 雨量と本部体制の立ち上げ

小鯖の土砂災害 国道435号崩落


避難所での状況説明 朝田の浄水場浸水

3.土砂災害の対応と課題
 今回の災害を受けて山口県が設置した土石流災害対策検討委員会の報告では,「防府市と山口市の間にまたがる花崗岩類が広く分布した山地に,観測史上最大の雨量が集中して降ることにより,風化して堆積した真砂土に水分が溜まっていくことで土石流が多数発生した」といわれています。防府市との境にある小鯖地区では,土砂崩れの恐れのある12箇所に避難勧告等を発令しました。
 表2の発令要因別一覧表のとおり,避難勧告等の約8割は河川の増水によるものであり,2日間で解除しています。一方,土砂崩れの恐れによるものは,人口の少ない山間部への発令であり,長期間危険な状態が続いたことが判ります(8月10日に最後の地区の避難勧告を解除しました)。
 気象台と山口県とが共同で発表している土砂災害警戒情報は,山口市のほぼ全域に発表され,危険を知らせる手段としては有効でありましたが,対象となる範囲が広いため,平素から土質にも着目して避難基準等を定めておく必要があると思われます。しかしながら,土砂災害は予測し難い災害であり,現場に近い住民が自主的に避難できるかどうかが,今後の課題となります。
 また,避難勧告等を発令したものの,市民の皆様に充分に伝達できなかったことなども反省点です。特に広報車による呼びかけは,近年防音性の高い住居が多いこともあり,聞き取りにくいという意見がありました。学生や高齢者に伝達する手段を確保すべく,平成22年度に導入する携帯メールの一斉送信や整備を検討しているデジタル防災無線など,様々な手段で市民に注意を喚起することが課題であります。

表2 発令要因別一覧表

表3 山口・防府区域に発表された注警報(7月20〜22日)

4.自主防災活動を通じて培う「地域の力」
 
昨年の災害を受け,市内では自主防災組織を設立する機運が高まり,自主的に災害の記録を整理したり,訓練を行ったりしています。本市においても自主防災育成補助金の活用や,NPO法人に委託した研修会など,育成に力をいれているところであります。また,本市では,市民と行政がお互いに役割を理解し,尊重し合いながら,共通の目標に向かい,ともに取り組む,協働によるまちづくりを推進しているところであります。平素からの防災活動を通じて,培われる「地域の力」の向上こそ,災害から身を守る最大の力になることと確信しております。
 終わりに,昨年の災害で本市に様々な援助と激励をくださった各位に対して厚くお礼申し上げます。