平成21年7月の集中豪雨を振り返って

尾藤義昭(Yoshiaki Bitou、岐阜県関市長)

「砂防と治水196号」(2010年8月発行)より

1.関市の概要
 関市は岐阜県のほぼ中央にあり,清流長良川の中流部に位置しております。北は福井県に接し,南は濃尾平野の北辺に位置しており,平成17年の1市2町3村による合併を経て,現在人口が約93,700人,面積が473km2となっております。東西延長は約39km,南北延長は約43kmの「V」字型の市域をしています。北部地域は標高が高く緑に恵まれ,南部地域は肥沃な平地が広がり,変化に富む地形を長良川・板取川・津保川・武儀川が流れ,水と緑の豊かな自然環境が維持されています。
 本市は,「日本一の刃物のまち 関」として全国に名が知られ,その伝統と歴史は今を遡ること約800年の鎌倉時代になり,室町時代には,多くの刀鍛冶が関市に集まり,「関の孫六」「兼定」など全国に名を馳せる多くの刀匠を生み出してきました。その豊かな技術と伝統を継承して,小刀・剃刀・はさみ・ポケットナイフ・包丁・金属洋食器などの刃物産業が本市固有の地場産業として受け継がれ,国際刃物都市として進展しています。
 東海北陸自動車道・東海環状自動車道の結節点である本市は,工業団地「関テクノハイランド」が立地しており,これらの自動車道の整備によって東海圏域と北陸圏域の経済と産業の交流拠点となり,工業・物流のハイテク産業都市としての更なる飛躍を目指しています。
 なお,本年6月13日には天皇皇后両陛下ご臨席の下に,「第30回全国豊かな海づくり大会」が海のない県では初めて,本市で開催されました。この大会では「豊かな森が川を育み,その清流が豊かな海につながり,この尊い水の循環の中で私たちは生かされている」ことを語り,森・川・海が一体となった自然環境保全の大切さが全国に向けてアピールされました。

2.集中豪雨の経過と被害状況
 平成21年7月25日の午後,関市の中之保地区を中心に集中豪雨に見舞われました。25日13時頃より降り始め,14時31分には大雨・洪水警報が発令され,14時から15時の1時間では太之田観測所で139mmの激しい降雨を観測しております。その後,16時54分には大雨・洪水警報が解除され注意報となりました。
 この集中豪雨により15時45分に災害対策本部を設置,日根地区(中之保地内)30世帯85人に避難勧告を出し,更に武儀地区全域にもすぐに避難できるよう待機指示を出しています。
 この集中豪雨では,日根地区の古屋洞と板ヶ洞谷において土石流が発生し,下流の家屋に土砂と流木が堆積し床下浸水の被害をもたらしました。また,市内各所でがけ崩れ等の土砂災害も発生しており,幸いにも人的被害には至らなかったものの,床下浸水22戸,10世帯21名が自主避難,また,土砂崩れにより6世帯8人が一時孤立したほか,県道で4箇所が通行止め,4地区で断水が発生しています。
関市内観測局の降雨量(平成21年7月25〜31日)
平成21年7月25〜31日の1時間最大雨量等雨量線図

〔被災の状況〕
7月25日(土)
14時31分 中濃地方に大雨・洪水警報が発令される。
15時45分 関市災害対策本部設置,現地災害対策本部(武儀)を設置する。
15時45分 日根(中之保)地区に避難勧告を発令する。対象30世帯80人,同報無線及び消防団による巡回広報。
15時55分 武儀全地域に避難できるように待機指示( 避難準備情報), 対象1,272世帯3,951人。
16時20分 日根集会所に自主避難,10世帯21人。土砂崩れにより市道が通行止めとなり,大城(中之保)地区6世帯8人が孤立。県道関〜金山線2箇所で通行止め,県道美濃加茂和良線2箇所で通行止め,簡易水道が4地区で断水(104世帯),倒木による停電。
16時54分 中濃地方の大雨・洪水警報解除(注意報に切り替え)される。
22時30分 中之保地区の避難勧告を解除する。関市災害対策本部及び現地災害対策本部を解散する。

 今回の集中豪雨は,短時間の降雨によるもので,1時間雨量が太之田観測所で139mm,武儀観測所で122mm,上之保の行合観測所で61mm,関観測所では18mm,隣接する七宗町で95mmとなっており,災害も中之保地区及び富之保地区と隣接する七宗町の一部で多く発生しているのみで,まさに典型的な局所的集中豪雨であったといえます。
 集中豪雨が弱まるのと同時に,地元より浸水や土砂崩れの情報が入る中,災害対策本部による巡回も開始しましたが,日根地区を中心に道路への土砂流出箇所が多くあり,状況を把握するのと,孤立した集落での市民の安全確認を行いこの集落へ続く道路の復旧作業を重点に進めましたが,降雨が収まったのが夕方近くであり,被災状況の本格的な調査は翌日の早朝よりの実施となりました。

被災状況(古屋洞・日根地内)

3.災害復旧への取り組み
 被災後の岐阜県と関市による被災状況の調査が進むにつれ,改めて災害の規模の大きさと局所的な集中豪雨であったことがわかりました。
 土石流の発生した箇所は古屋洞と板ヶ洞谷の2箇所があり,このうちの古屋洞においては発生した土石流が家屋に押し寄せ床下浸水となり,今後の降雨によっては非常に危険な状態になっていることから,岐阜県により土石流センサーを緊急に取り付けていただいております。
この2箇所においては,岐阜県及び国に支援をお願いし,災害関連緊急砂防事業の採択を受けて災害復旧事業とは別に安心安全のため緊急に整備を要する事業をしていただくこととなりました。
 特に古屋洞においては,家屋の横の被災した箇所から山林の入り口までの区間を災害復旧事業により,土砂撤去と大型土のうによる仮工事を行い,その後,護岸工事に着手し,平成22年3月末に完成しております。更に古屋洞をまたぐ市道の暗渠部分(ボックスカルバート)についても断面不足があるため,災害特定関連事業の採択を受け,本年度整備を行う予定となっています。
 関市内では,県と市における公共土木施設災害復旧及び農林施設災害復旧を合わせ,総事業費6億円を超える規模の災害となりました。
 平成22年6月現在,既に災害復旧事業は完成していますが,引き続き岐阜県施工の災害関連緊急砂防事業及び市で施工する災害特定関連事業については本年度末完成を目指しています。

4.災害を振り返って
 近年,各地で見られる局所的集中豪雨とそれによる土砂災害を経験し,その恐ろしさと被害の大きさを目の当たりにしました。今回の集中豪雨は,発達した雨雲が一定速度で進んでいたものが,一時的に停滞したことにより発生しており,気象庁もこの雨雲がそのまま移動するものと予測していたようで,大雨・洪水警報は14時31分に発令されていましたが,土砂災害警戒情報については発令されていませんでした。降雨の状況及び地元住民からの情報を基に,職員によるパトロール等により状況を把握し,災害対策本部を設置したのが15時45分となり,一部地域への避難勧告の発令がほぼ同時となりました。
 本市では,平成17年に1市2町3村により市町村合併をしており,その地形もV字型をしています。今回の降雨状況や降雨の状況を見ても,北西部では32〜50mmと少なく,同じ市内でも降雨量に差があり,状況の把握の方法や地域・場所の特定等についても大きな課題があります。現在は市町村単位で警報及び土砂災害警戒情報が発令されることとなりましたが,避難勧告については,今回のような局地的な場合については,降雨状況の情報と現地からの状況報告を的確に判断し,地域を特定する必要があり,そのための情報収集が非常に重要となります。避難勧告の発令についても情報伝達の大切さについても強く感じております。
 また,災害時の対応や復旧に際して,自治会,消防団,建設業協会,ボランティア団体等地域住民が結束して災害対策に立ち向かうことが大きな力となることを痛感しました。
 今回の災害を通じて,市民の方々の安心と安全を守ること,そして自然災害に強い町づくりを目指し,今後も砂防・治水などのハード・ソフト両面の災害予防について積極的に取り組んでいきます。
 最後になりましたが,災害直後から国土交通省,岐阜県をはじめ関係機関の多くの皆様に多大なるご支援やお力添えをいただき,災害復旧事業をはじめ緊急砂防事業,災害特定関連事業などの採択・着手に速やかに対応していただきましたことに誌面をお借りして心より感謝を申し上げます。この教訓を活かし,今後の防災対策に万全を尽くしたいと思います。