平成21年10月発生の台風18号に伴う土石流災害を振り返って

布施孝尚(Takahisa Fuse、宮城県登米市長)

「砂防と治水198号」(2010年12月発行)より

1.登米市の概要
 登米市は宮城県の北東部に位置し,北は岩手県に接しています。西部は丘陵地,北上川左岸の東部は山間地,その間には県内有数の穀倉地帯を形成する肥よくな登米耕土が広がっており,面積は536.38km2で,栗原市,大崎市,仙台市,石巻市に次いで県内第5位の広さを有しています。
 気候条件は,最高気温と最低気温の差が大きい内陸性気候となっていますが,降雪期間は比較的短いことから,東北地方にあっては温暖な住み良い条件を有しています。
 河川は,市域を3等分するように一級河川・北上川と迫川が南北に貫流し,これらの河川に南沢川等の多くの支流が注いで農業用水や上水道の水源になっています。
 また,圏域北西部には水鳥の生息地として国際的に重要なラムサール条約指定登録湿地の伊豆沼・内沼をはじめ,長沼が位置し,南部には平筒沼があり,豊かな水辺空間が広がっています。
 町村合併の機運が高まる中,平成15年4月に登米郡8町(迫町,登米町,東和町,中田町,豊里町,米山町,石越町,南方町)に本吉郡津山町を加えた9町で登米地域合併協議会を設置し,協議を重ね,平成17年4月1日に人口91,486人の登米市が誕生しました。


位置図
2.豪雨の経過
 10月8日早朝に愛知県の知多半島に上陸した台風18号は,本州中央を北東に縦断して日本列島各地に大きな被害をもたらしました。
 平成19年の台風9号以来2年ぶりで,平成21年唯一の日本上陸台風でした。
 10月8日1時頃,和歌山県串本町付近東部沿岸を北北東に進み,5時頃に知多半島付近に上陸,本州を北東に縦断,夕刻に宮城県石巻市付近を通過して三陸海岸沖に抜けました。
 台風の接近に伴い,7日16時30分に登米・東部栗原地域に強風注意報,21時39分には大雨・雷・洪水注意報が発表されました。
 翌8日,台風が通過する日の朝4時52分に大雨・洪水注意報が警報に変わり,翌9日11時7分に大雨,洪水注意報が解除されたが,夕方まで西の風最大風速13mと強風注意報は継続のままでありました。
 また,土砂災害警戒情報が8日10時00分に宮城県・仙台管区気象台共同発表されました。
 更に,当市を所管する宮城県東部土木事務所登米地域事務所からは,8日17時00分に水防警報も発表され,9日17時40分に解除されるまで水防団の待機が続き,旧迫川・小山田川では氾濫注意水位を超えたため,水防団が出動して監視を行いました。

3.被害の状況
 台風18号の接近に伴い強い風と局地的に強い雨に見舞われ,市内各地から冠水・倒木・土砂崩れによる道路の通行障害等の通報が寄せられ,職員総出で対応に当たりました。
 普段は清流が流れる南沢川と北沢川が,この豪雨による異常出水で堤防からの溢水が起こり,両河川が合流する横山地区では床上浸水44棟,床下浸水38棟の浸水被害が発生,一時300世帯へ避難勧告を発令する事態となりました。
 更に,津山町横山地区の北沢川上流部に位置する宮田地区では,8日の24時間雨量は273mmを記録,そのうち250mmが午前6時から午後3時までの9時間に集中的に降ったもので午後1時には時間当たりの最大雨量58mmを記録,その時(12時40分)に土石流が発生し,住宅地(人家9戸)や農用地への浸水や土砂堆積の被害を受けたものであります。この台風18号による登米市の災害は,公共土木施設災害復旧及び農林施設災害復旧等を合わせて2億2千4百万円を超える被害を受けました。

大畑沢流域の土石流跡(寺倉地内) 南沢川の氾濫状況(横山地区上流)


床上浸水の跡(横山地区・寺倉地内) 家屋の壁に床上浸水時の爪痕が(横山地区)

◇被害の概況
・人的被害:頭部骨折の重傷者1名,打撲・右腕亀裂骨折で2名が軽傷
・住家被害:一部破損4棟,床上浸水44棟,床下浸水49棟
・非住家被害:一部破損29棟(作業場の屋根破損,工場・店舗等の床上浸水等)
◇避難勧告 (津山町横山地区)
・10月8日 12時50分 避難勧告発令 28世帯/102名
      13時30分 避難勧告地区拡大 300世帯/1,000名
      20時30分 避難勧告一部解除 53世帯/184名
   11日 13時00分 避難勧告解除
◇ライフライン施設関係
・水道施設:土砂が緩速ろ過池内に流入,取水口付近にある接合井が半壊(津山町大萱沢浄水機場)
・電気:一部地域で一時停電
・公共交通機関(市民バス):8日15時以降全面運休(9日は通常運行)
・交通規制関係:市内各所で規制雨量・冠水・崩土により一時的に通行止めが行われた。
◇災害対策本部等の設置状況
・警戒本部:10月8日5時30分設置
・特別警戒本部:10月8日7時30分切換
・災害対策本部:10月8日11時30分切換
        11月5日14時30分解除
◇津山地区等への職員応援体制
・市(応援配備除く):5日,249名
・社会福祉協議会:3日,95名
・消防団:5日,575名



避難が遅れた住民をゴムボートで救助(横山地区)

4.災害復旧への取り組み
 特に大きな被害を受けた津山町横山地区では,被害状況の調査が進むにつれ,災害の規模の大きさと局地的な集中豪雨であったことがわかりました。
 横山地区の災害復旧には,副市長を本部長とする現地対策本部を設置して,ボランティア団体を始め,市や社会福祉団体等の職員を動員して,被災者への支援活動を行いました。
 災害現場の復旧に当たっては,地元建設業者等の協力を得ながら迅速に復旧作業を進めました。
 しかし,局地的な集中豪雨によって集落より200〜300m上流の山間部で崩壊が起こり,土石流が発生して家屋に被害を受けた寺倉地内については,今後の降雨によっては再度の土石流の発生も懸念されることから,宮城県知事に土砂災害防止等の恒久的な対策を要望したところ,特定緊急砂防事業として,砂防えん堤の建設事業(大畑沢特定緊急砂防事業)を採択いただき,平成23年中の施設完成に向け事業に取り組んでいただいております。

被災地の復旧状況(横山地区・ボランティア) 砂防えん堤の建設現場(大畑沢・寺倉地内) 南沢川と北沢川の合流箇所の復旧状況

5.災害を振り返って
 近年,地球規模での環境変化の影響により,各地でゲリラ豪雨などと言われる局地的な集中豪雨の話を聞きますが,昨年経験した土砂災害では,大きな被害が身近でも起きる恐ろしさを実感させられました。
 大畑沢地域には砂防えん堤が設置されており,下流地域への土砂流出抑制が図られているが,時間当たり最大50mmを超えた予想外の集中豪雨により,山地部での崩壊が発生し,土石流となり下流の寺倉地内の集落に床上・床下浸水の被害を起しました。この土石流は南沢川を下り,北沢川と合流する横山地区で,さらに急激な水位の上昇を引き起こし,床上・床下浸水80棟と大きな被害に繋がりました。
 12時50分に避難勧告を発令しましたが,その発令後1時間も経たないうちに,河川の氾濫が起こり避難が間に合わず,家に取り残された方々をゴムボートで救助しました。
 幸いにも,死者・行方不明者を出すことなく今回の災害を乗り切る事が出来ましたが,これも,地元の自治会,消防団を始め,地域住民が結束して災害に立ち向かうことが出来た事による大きな成果と考えております。
 今回の災害で得た教訓を活かし,市民の方々の安心と安全を守り,自然災害を未然に防止し災害に強い町づくりを目指し,今後も砂防治水事業のハード・ソフト両面について災害予防に積極的に取り組んでまいります。
 最後になりましたが,災害直後から国土交通省,宮城県をはじめ関係機関の多くの皆様には多大なるご支援やお力添えをいただき,災害復旧事業をはじめ緊急砂防事業や災害関連事業等の恒久対策を速やかに対応していただきましたことに誌面をお借りして心より感謝申し上げます。この教訓を活かし,今後の防災対策に万全を尽くしてまいりたいと思います。