平成21年8月豪雨災害を受けて

鷲澤正一(Shoichi Washizawa、長野県長野市長)

「砂防と治水198号」(2010年12月発行)より

1.はじめに
 長野市は,四方を上信越高原国立公園をはじめとする美しい山並みに抱かれ,日本アルプスの清流を集める犀川と詩情豊かな千曲川など,四季折々の大自然の恩恵を受け,善光寺平を中心に約1400年の長きにわたり,善光寺の門前町として栄えてきました。
 また,武田信玄と上杉謙信が戦った川中島合戦場,城下町松代,伝説の里・戸隠や鬼無里などは全国的にも知られており,平成10(1998)年にはオリンピック・パラリンピック冬季競技大会が開催されるなど,観光都市・国際都市として発展を遂げてきました。
 一方,長野県の県都として都市機能が集積するとともに,北陸新幹線や高速道路などの高速交通網により,太平洋側と日本海側を結ぶ交流拠点都市としての機能を併せ持っています。
 多くの市民により築かれたこれらの財産を大切にして,未来のまちを支える人,多彩な文化,活気ある産業を育み,豊かな自然との共生を図りながら,魅力と活力に満ちた“ながの”をこの地に結ばれるすべての人とともに創っていきたいと考えます。
 そして,多様な選択肢の中から市民自らが決め,自信と勇気と責任を持って歩むことで,持続的に発展する地域を創造していく長野市でありたいと願います。


位置図

2.降雨の状況
 豪雨災害に遭いました長野市戸隠上楠川地区は,現在,女優吉永小百合さん出演のテレビCMで大変人気の観光スポットであり,パワースポットとしても有名となりました「戸隠神社奥社」から南へ3km位に位置します。
 昨年の8月6日夕方から8月7日夕方にかけて,長野市戸隠地区に時間最大53mm,連続雨量154mm,日雨量152mmという豪雨が観測されました。













3.被害の状況
 この豪雨により戸隠地区,特に楠川流域に多くの被害をもたらしました。

H21.8豪雨被災状況
被災箇所

家屋被災状況 家屋隣接護岸崩壊状況


家屋付近土石流出状況 家屋前土石流出状況

護岸崩壊状況 道路兼用護岸崩壊状況 消防団による家屋内土砂搬出状況

4.災害対応について
 土砂が流れ込んだ住宅では,地元消防団員及び市職員等による家財道具の搬出,建設業者による大型土のうの設置を行い,被害拡大を防止するとともに,県により小楠川上流部に土石流センサーを設置していただき,近隣住民に対して避難態勢を整えました。
 また,住民も自主的に7世帯が,一時的に公共施設に避難しました。
 今回の豪雨災害では,いち早く災害関連緊急砂防事業の採択をいただくなど,国土交通省,長野県をはじめとする関係機関の皆様に,迅速に対応をしていただき,この場をお借りしまして厚く御礼申し上げます。

5.おわりに
 本市も平成の大合併(1市2町4村)により,面積が約2倍の834.85km2となりましたが,面積の大部分(74.3%)が中山間地域です。
 本市の中山間地域は,急峻な地形が多い上,地盤がもろく不安定で,大雨が降ると災害を受けやすい自然条件にあります。特に,市西部地域の山間部は,県内有数の地すべり地帯でもあります。
 このため,山地崩壊,土砂流出,河川の溢水等による土砂災害や水害被害を防止する砂防,河川事業は,流域住民の生命・財産を守り,安全・安心な地域づくりを推進する上で,大変重要な事業であります。
 しかし,一方で県下の砂防,河川施設の整備率は依然として低く,更に年々砂防,河川事業の予算額が急速に減速している状況であります。
 加えて,近年頻発する災害により,復旧事業等の緊急対応に先取りされ,本来,災害軽減のために計画的に推進すべき予防対策としての砂防,河川事業が極めて進んでいない現状にあります。
 このことを踏まえ,住民生活や経済活動等にも大きく影響する基幹的な砂防,地すべり対策,河川施設の整備について,貴(社)全国治水砂防協会さんの強力なリーダーシップにより,国のより一層の事業強化に向けて,働きかけていただくことを望みます。


【参考】
 ・長野県の砂防、河川事業の現状と整備率
事業名 事業費 整備率
砂防事業  10年前のH13年度241億円余
 H22年度は106億円余で約4割程度に減少
 土石流 20.1%(H21年度末)
 地すべり 23.1%(H21年度末)
 急傾斜 23.2%(H21年度末)
河川事業  H10年度がピークで390億円余
 H22年度は88億円余でピーク時の約2割程度に減少
 37.9%(H21年度末)
 ・市内の土石流、急傾斜地の土砂災害警戒区域指定箇所は1,506箇所、特別警戒区域指定箇所は1,130箇所(H22.10.1現在)、また、市内の県管理一級河川延長は約230kmであります。毎年、その整備促進や維持管理の強化について、関係同盟会等ともに連携して県に要望しています。