1.はじめに
朝来市は,兵庫県のほぼ中央に位置し,北は養父市,豊岡市と接し,東部は京都府,丹波市,多可郡,南部は神崎郡,西部は宍粟市と接する但馬地域と京阪神を結ぶ但馬の玄関口のまちとして,平成17年4月に旧朝来郡4町(旧和田山,旧山東,旧生野,旧朝来)が合併して誕生した,総面積402.98km2,人口34.791人(平成17年・国勢調査),林野率84%の中山間地域のまちであります。
京阪神からの交通は,JR山陰線,JR播但線利用で道路交通は,国道9号,国道312号と高速交通網で北近畿豊岡自動車道(和田山まで開通)と播但連絡自動車道で1時間半から2時間で直結する距離にあり,昔から鉄道,道路が本市で連結するため但馬・山陰地方を結ぶ交通の要衝となっており,豊かな自然と茶すり山古墳を始めとする古代遺産,国史跡の竹田城跡や史跡の生野銀山など中世から近世にかけての遺産や由緒ある神社,伝統芸能など歴史文化遺産を有しており,この資源を有効に利用しつつ広域交流拠点のまちとして「人と緑,心ふれあう交流のまち朝来市」をめざしてまちづくりを推進しています。
2.台風9号災害の概要
私は,平成21年5月に二代目市長に就任した際,合併以来の4年間に本市は豪雨や台風などの影響による被害を受けていないなかで,自然災害の懸念を抱きつつ災害対応に万全を期すよう職員に指示をし,災害対応マニュアルの情報伝達訓練もしていました。
その日,8月9日は朝から台風9号の影響もあって,小雨が降り続いていましたが,本市の雨量は少なく台風の影響はないものと安堵しておりました。夜になって雨が次第に強くなり23時頃から急に激しく,特に本市の西部旧朝来町地域の雨量が急激に増大し,10日の0時30分に災害対策本部を設置して,情報収集に努め0時55分に旧朝来町地域に職員配備体制第3号(旧朝来町の職員全員出動)を発令すると共に0時58分に全市に自主避難情報を放送しました。さらに旧朝来町地域で行方不明者,負傷者及び床上浸水の報告があり,1時15分旧朝来町地域に避難勧告を発令して,市民の安全確保に努めました。
夜半の捜索や現場確認は,危険を伴い加えて限界があるので,夜が明けるのを待って本格的な捜索や現状把握に努めたところ,これまで経験したことのない状況を目のあたりにしました。
緑の田園地帯,住宅地域に流木が散乱し荒野となっているところ,多量の流木がまとわりついた橋梁,落橋した橋梁及び道路が寸断され電気電話線も断線して孤立している集落が3集落,堤防が決壊して住宅付近を濁流が流れていたため家族と自主避難中に1人が濁流に呑まれ行方不明になっているという状況に驚愕し悲壮いたしました。その後,行方不明者は消防団などによる捜索によって死亡が確認されました。
尊い人命被害が出してしまったことは,今もって痛恨の極みですが,今後の教訓として災害対応に生かして行くことを強く胸に抱いたものでした。
私は,全国各地で発生している局地的豪雨の被害をマスコミ等で承知をしていましたが,改めて自然災害の脅威と局地的な災害対応の課題を認識いたしました。 |
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平成21年8月9日〜 10日の豪雨による雨量(円山川流域) |
(1)降雨状況 |

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(2)人的被害の状況 |

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(3)住宅被害の状況 |

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(4)ライフラインの被害と復旧状況 |
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流木の状況(神子畑地内) |
全壊家屋内の状況(神子畑地内) |
3.孤立集落への対応
道路が寸断して孤立していた3集落157人の対応については,10日の午後職員によって飲料水,食料,生活用品などを持って,それぞれの集落に出動し,奥田路集落41人(高齢化率45%),佐中36人(高齢化率52%),神子畑80人(高齢化率67%)の無事を確認すると共に道路通過可能になる14日までの間,毎日3食の食料や水,日用品などを職員によって搬送いたしました。また,神子畑地区には,兵庫県の支援によって防災ヘリによる発電機などの物資の搬送もして頂きました。 |
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兵庫県防災ヘリによる食糧の供給状況(神子畑地区) |
職員による食糧の供給状況(神子畑地区) |
4.復旧対策
被災直後から寸断された国道,県道は,兵庫県養父土木事務所により,市道は市の建設業協会による昼夜を問わぬ懸命な復旧作業によって14日に通行の確保ができ,孤立集落の解消ができたこと,きかったため,河川改良を含む復旧及び流木止め施設の設置をし,人家に被害を及ぼした谷筋3カ所に緊急砂防事業や急傾斜地対策事業,山林部については治山堰堤等の事業が導入され,防災対策をしていただいています。 |
(1)公共土木施設の被害状況(災害件数・金額) |

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(2)農地の被害 |

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(3)農業用施設の被害 |

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橋梁の被害(新橋)
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復旧の状況(新橋)H22.12末
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河川の被害(神子畑川) |
復旧の状況(神子畑川)H22.12末 |
5.災害の教訓として
本市の84%を占める山林は,林業の衰退によって森林の荒廃が進んでおり,鹿などが移動するだけで土石が落下する箇所もある現状で,小さな谷筋でさえも多くの土砂,立木などが流出しています。
特に被害が大きかった西部地域は,平成16年10月の台風23号における風倒木被害が顕著で,山肌が裸地状態になっていたところへ,激しい雨量によって土砂と共に倒木などが流出し,甚大な災害をもたらしたものと考えられます。
本市では,荒廃が進んでいる山林部について,森林の保全と豊かな森林資源の育成を推進することによって,水源かん養などの多様な公益的機能の強化により災害の防止をも図っていくことが重要な課題と思っております。
今回の災害を受けて例年開催しています「まちづくりフォーラム」のテーマを「みんなで考えよう・自主防災(自然災害から地域を守るために)」として,市内12会場で開催し,自助,共助,公助についての説明や意見交換を行いました。今回のような局地的な豪雨は特に,地域の事をよく知っておられる地域住民の自助共助が住民の安全確保に一番重要であり,自主避難や避難時の対応など地域の防災計画によって地域住民の安全安心を確保することが必要であることを推進した結果,市民の自然災害に対する防災意識が高まり地域防災計画の作成や災害に備え土嚢などを準備する地域が増えるなど防災意識の高揚が図れ,全市内161区に防災委員を設置することもできました。 |
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まちづくりフォーラム |
6.おわりに
近年は地球温暖化の影響か異常な局地的豪雨により,全国的に大きな被害が頻発しております。本市も短時間での局地的な豪雨によって甚大な被害を受け,自然の恐ろしさを改めて痛感いたしました。
今後の災害対応は,地域住民による自主防災が最大の安全確保に繋がるもので,住民との協働でさらなる防災体制の確立を推進してまいりたいと考えております。
さらに,今回の被災では,未改修河川や砂防・治山堰堤未設置の地域で被害が大きく,河川改修済み区域と砂防・治山設置済み地域との治水安全度が非常に顕著であり,災害の予防対策としての治水事業の推進が必要であることを改めて認識いたしました。
さらなる防災対策として,荒廃が進んでいる森林の保全と育成及び砂防事業,治山事業の推進を国,県のお力をいただきながら取り組んで参りたいと思いますので,より一層のご支援,ご協力をお願いいたします。 |
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