中畑沢災害関連砂防事業について

鈴木浩幸(Hiroyuki Suzuki、山形県西村山郡朝日町長)

「砂防と治水200号」(2011年4月発行)より

1.朝日町の概要
 本町は,山形県中央部に位置し,磐梯朝日国立公園の主峰・大朝日岳の東縁山麓地域にあります。1級河川最上川が町域の南北を約21kmにわたって蛇行北流し,国立公園をはじめとする原生林野が町土の76%ほど最上川の両岸に沿った河岸段丘は,特産のりんごをはじめとする果樹・作物の栽培に適した肥沃な土地です。
 気候は内陸性型から夏は蒸し暑い日中・涼しい夜間が多く,冬は寒い日の多い積雪地帯で,気温比較差や寒暖差が大きく,高品質の果実の栽培に好適とされ,四季をはっきりと実感できる気象環境となっています。
 町の面積は196.73km2で,東西に25km,南北に21kmのやや東西に長い地形で人口8,055人となっています。南西部は,東北のアルプスといわれる朝日連峰の大朝日岳(1,870m)や小朝日岳(1,648m)などの朝日連峰に,南東部は白鷹山地に囲まれており,ブナ原生林などの豊かな自然資源に恵まれています。


2.中畑沢(朝日町上郷地内)の被災状況
 平成22年7月2日午後3時頃から降り出した雨は,本町の国道287号沿いの限定区域に局地的な豪雨をもたらし,最大時間雨量72mmを記録しました。
 それぞれの担当各課で被災調査を行ったところ,甚大な被害が明らかになり,早急な情報の収集や復旧を図るため,同日20時に豪雨対策本部を設置しました。
 この豪雨で,中畑沢流域の樹木や土石が,旧上郷小学校の敷地内や体育館に堆積し,さらに下流側の国道287号にも流出し,一時全面通行止めとなりました。また,床下浸水により自主避難を余儀なくされた方もいましたが,人的被害がなかったことは不幸中の幸いでありました。
 この土石流についての対応ですが,全面通行止めとなった国道287号は町内を縦断する幹線道路であり,早急に交通規制の解除を行う必要がありました。関係機関により土砂等の排除作業や大型土のうの設置等が迅速に行われ,4時間後には通行止めが解除されました。
 翌日,県において現場調査を行ったところ,渓流上流部に次期豪雨により流出するおそれのある不安定土砂が多量に残されていることが確認され,土石流の再発が強く懸念される状況であることから,災害関連緊急砂防事業を申請することとなりました。


国道287号に流出した土砂 旧上郷小学校(地区避難所)への土砂流出 国道に流出した土砂の排除作業状況

3.次期豪雨による土砂災害に対する警戒体制
 次期豪雨による再度災害発生の恐れが高いことを鑑み,山形気象台から毎日朝晩の2回,朝日町に限定した雨量気象情報の配信を受け,県,町,消防及び警察等の関係機関で連携を図り,土石流再発時の被害軽減に備えた非常体制を整えました。
 また,土砂災害の前兆現象や住民等からの通報があった場合,関係機関で情報の共有を図るため連絡網を整備し,夜間・休日においても対応できる体制をとっています。

気象台からの雨量気象情報

4.中畑沢災害関連緊急砂防事業について
(1)事業の採択
 今回の豪雨では山腹崩壊や渓岸浸食が多発し,流域内には多量の不安定土砂や流木が生じており,次期豪雨で土石流が再発した場合には,国道287号の全面通行止めに加え,人家や地区避難施設の崩壊,場合によっては通行車両を含む人命にかかわる事態となることも想定されました。
 このため,現地調査結果をもとに,県から国へ協議が行われ,9月14日に災害関連緊急砂防事業が採択されました。

不安定土砂・流木 現場調査状況

(2)事業箇所の地形・状況
 中畑沢を含む本地区は,地すべり地形を呈しており,地すべり危険箇所に指定されています。県が,災害関連緊急砂防事業を申請するにあたっては,事前に地すべり調査を行い,砂防工事による地すべりへの影響についても調査検討が行われました。
 結果,近年,地すべりが活動した痕跡は見られず,現在においても地すべり性の変位は生じていないことが判りました。また,砂防えん堤予定位置と地すべりブロックの位置関係を見ると,砂防えん堤がブロック外に計画されていること,ブロック規模に対する砂防工事の範囲もわずかであることから,地すべりブロックが不安定化したり,動き出す危険性は低いと判断されました。
(3)対策工事
 災害関連緊急砂防事業における対策施設は,砂防えん堤1基であり,高さ11.0m,長さ37.8mの鋼製えん堤(ダブルウォール)が採用されました。鋼製えん堤が採用された理由は,工期短縮であり,コンクリートえん堤に比べて約2カ月の工期短縮が見込まれております。
 また,えん堤位置が地すべりブロック外であり,地すべりへの影響は低いと判断されているものの,対応に万全を期すため,えん堤重量が軽量化されています。
 なお,施工期間中は継続的に地すべり観測が行われ,影響を慎重に把握しつつ工事が行われます。

砂防えん堤正面図

砂防えん堤側面図

5.終わりに
 今回の豪雨による災害に際しては,災害発生の直後から,山形県の関係課より土砂排除等の対応や二次災害を防止するためのシート張り,土のう築立等の応急対策を講じていただきました。
 また,災害関連緊急砂防事業の国への申請においては,常に当町との連携を図りながら地権者への事業説明等を進めていただき,事業の採択となったところです。
 私は,平成19年度に策定した第5次総合発展計画において,「いつの時代も自信と誇りを持ち,住みたい,ずっと住み続けたい,魅力のあるまちをつくる」ことを基本目標に,町政運営に努めておりますが,今回の災害関連緊急砂防事業は,定住を図るための安全安心な環境整備に大きく寄与するものと考えているところです。
 既に砂防工事は始まっておりますが,山形県当局をはじめ関係機関の皆様や上郷地区の皆様のご理解とご協力に改めて感謝申し上げます。
 また本年度,当町は大変な豪雪に見舞われていますが,砂防工事の安全と早期完成を願っております。