平成22年7月12日から15日までの梅雨前線に伴う豪雨災害について

中尾友昭(Tomoaki Nakao、山口県下関市長)

「砂防と治水201号」(2011年6月発行)より

1.下関市の概要
 下関市は,本州の最西端,山口県の西部に位置し,福岡県北九州市とは狭いところで約700mという関門海峡を境にして隣接しています。
 平成17年2月に旧下関市と旧豊浦郡4町(菊川町・豊田町・豊浦町・豊北町)が合併し,市域は,東西約37km,南北約52km,総面積約716km2となり,現在は,人口は約28万人の県内最大の中核市であります。
 市域の中央部は,主に山間地域ですが,山間に広がる盆地には肥沃な耕地が広がっています。海岸部は西に響灘,日本海,南に周防灘,瀬戸内海を擁しています。日本海側は入り組んだ地形であり,海岸線の長さは全国でも屈指の長さを有しています。市内の河川は,市域を南下する木屋川水系や北上している粟野川水系など22の水系を有し,69河川が二級河川に指定されています。
 本市は,このような地理的特徴から,関門海峡をはじめとする海,山,温泉などの豊かな自然やフク,アンコウ,ウニ,クジラなどの食,豊富な歴史・文化等,多種多様な水産資源や観光資源に富んでいます。

主要河川図

2.気象の概要
 本市は,周防灘,関門海峡,響灘及び日本海に面しており,全般に比較的に温暖な気候でありますが,地形等の影響があり,風が強く降水量がやや少ない瀬戸内海に面した地域と,風が弱く降水量がやや多めの内陸部及び,日本海に面した地域の大きく3地域に区分され,主に内陸部を中心に局所的な集中豪雨が発生しました。
 昨年の豪雨は,九州南部に停滞していた梅雨前線が,7月10日から11日にかけて朝鮮半島南岸まで北上し,7月12日から15日にかけて九州北部から山口県付近に停滞しました。
 特に,15日は,梅雨前線に向かって暖かく湿った空気が流れ込み,未明から朝にかけて前線の活動が活発となりました。
 降雨状況としましては,15日は,未明から朝にかけて大雨となり,本市や隣接する美祢市を中心に1時間に50mm以上の非常に激しい雨が降り,下関市豊田町では6時28分までの1時間に72.0mmを観測し,10日から15日までの総雨量は570.0mmとなり,7月の平年の月降水量の1.5倍を越える大雨となりました。

天気図(平成22年7月15日6時) アメダス総降水量分布図
(平成22年7月10日〜15日の期間降水量)
(下関地方気象台災害時気象資料)

アメダス降水量時系列グラフ(平成22年7月14日9時〜15日9時)
(下関地方気象台災害時気象資料)

3.被害状況
 昨年の豪雨による主な被害としましては,本市の東側である豊田町,菊川町及び,吉田地区を中心に土石流被害が発生し,当該市域を流下する二級河川木屋川においては,洪水により多数の浸水被害が発生しました。
 このたびの豪雨による被害状況としましては,幸いに人的被害はありませんでしたが,土砂崩れ等により道路災害が発生し通行止め箇所が70箇所,特に,菊川町轡井(くつわい),道市(みちいち)地区の県道が土砂崩れにより通行止めとなったため,一時その影響で道市,樅(もみ)の木両地区が孤立しました。また,木屋川流域を中心とし家屋の床上浸水被害63戸・床下浸水被害274戸発生し,木屋川と田部川の合流部にある菊川浄水場においては,冠水被害により菊川町で2,053戸の水道が断水となりました。

土石流発生状況(菊川町轡井,道市地区) 家屋浸水状況(菊川町田部地区)


県道日野吉田線土砂災害(菊川町道市地区) 高山川土砂災害(豊田町高山地区)

4.災害対応
 本市においては,7月12日(月)の夕刻に大雨・洪水注意報,13日(火)早朝に大雨・洪水警報に切り替わり,同日夜に入りさらに雨足が強まり気象庁と山口県が共同で発表している土砂災害警戒情報も市域に発表され,16日(金)早朝まで継続されました。
 その間において本市の対応としましては,下関市地域防災計画を基に注意報発表と同時に職員による配備体制を整え,さらに,13日(火)には災害警戒本部を設置し,災害予防や災害応急対策に当たり,土砂災害の恐れの高まった地域に対して13日(火)から14日(水)までに3,860世帯9,500人へ避難勧告を発令しました。
 15日(木)においては,木屋川が氾濫する恐れが高まったとして,豊田・菊川地区の流域住民891世帯2,406人に対し避難勧告を発令し,その後,木屋川が氾濫し,浸水のため孤立した世帯からの救助要請があり,同日7時40分に災害対策本部を設置するとともに浸水被害の発生した豊田町及び菊川町において,8時00分に現地災害対策本部を設置し,流域住民に対し避難指示を発令し,全庁挙げて災害対応に当たりました。
 関係機関による救援活動としては,救助を要請した小月海上自衛隊災害派遣隊による豊田地区のため池決壊に伴う土のう積みに43名,菊川地区の土砂災害による捜索活動に36名派遣をいただきました。さらに,県警機動隊による救助活動としては豊田,菊川地区へ27名出動し,県警航空隊による被災地偵察活動など各方面の救援活動をいただきました。
 災害対応の具体的な措置としましては,災害情報を受理し直ちに現地調査を行い,その後の応急復旧措置の対応,避難所の開設として,避難者に対し毛布,飲料水,弁当・非常食糧を配給(公民館・学校等42箇所,最大時の避難者数22施設に375人)いたしました。
 避難勧告等の広報活動としては,消防車,広報車,所轄警察署パトカーによる広報,防災情報伝達システムによる広報,自治会長への直接の電話連絡,報道機関への広報依頼(TV 局にはテロップ依頼),防災メールの配信,市ホームページ防災・災害情報への掲載などの手段を使い,関係住民へ防災情報等の伝達に努めたところです。
 また,被災者の対応としましては,災害ゴミの回収や床上・床下浸水家屋棟に対する消毒処理など行いました。

5.防災情報の伝達対策
 本市では防災情報として,現在,下関市地域防災計画に基づき,災害から市民の生命を守るため,土砂災害に関する「防災マップ」や浸水被害に関する「洪水ハザードマップ」を作成しており,関係住民へ配布し,市ホームページでの閲覧もできるようにしています。また,住民への避難勧告等の緊急情報をいち早く伝達できるよう「防災メール」を登録された住民へ,防災情報などの配信サービスを行っています。
 昨年の豪雨災害を受け,さらなる情報提供の強化,多角化を図ることとして,避難勧告等の緊急情報など防災情報を速やかに市民に伝達するため,以前からの広報活動に加え,水防用サイレンの機能強化,屋外拡声機の増設など情報防災システムの整備や緊急速報としてエリアメール(一部の携帯電話会社が行っている対象エリア向けの情報伝達サービス)の導入を行うこととしています。
 これらの防災情報は,発災時に市民が的確な判断に基づき行動できるよう,また,災害に係る正しい知識や防災対応についての防災教育の一環となり,市民の防災意識の高揚に寄与し,このことが防災を生活に身近な暮らしの一部として位置づける「防災文化」の普及,定着の促進が図られるものと考えられます。

救助活動状況(菊川町田部地区)

6.おわりに
 昨年の豪雨災害において,災害応急対応など多くの関係機関の皆様には多大なるご支援をいただき心より感謝を申し上げます。
 近年の局所的な集中豪雨が増加するなか,本市においても例外ではなく豪雨による土砂災害や家屋浸水など年々増加している傾向にあります。豊かな自然に恵まれた市域である反面,自然災害への危険性も高いため,砂防,治山事業や河川事業などハード面の防災機能の強化対策も当然必要であります。これらハード面の対策も重要でありますが,今回の豪雨災害においては,市民に対して瞬時に適切な避難勧告等の防災情報を発信するとともに,災害時における的確かつリアルタイムな防災情報の伝達などを充実していくことも重要であることを再認識しました。
 市町合併により広域化し海岸部と山間部での降雨状況など気象に大きな違いがあります。災害時には現地での情報把握が重要であり,地域に密着した旧町ごとにある総合支所の機能強化や自治会等の自主防災組織の充実など図り,地域性を活かした災害に強いまちづくりに努めていきたいと考えています。
 東日本大震災など大規模災害に備えた防災対策の強化についても今後の課題として認識し,防災計画の見直しも必要になると考えています。市民が安全で安心して暮らせるまちづくりを目指していきますので,今後とも国,県をはじめ関係機関のご指導をよろしくお願い申し上げます。