平成22年7月ゲリラ豪雨による局地的被害について

鷲澤正一(Shoichi Washizawa、長野県長野市長)

「砂防と治水202号」(2011年8月発行)より

1.はじめに
 長野市は,四方を上信越高原国立公園をはじめとする美しい山並みに抱かれ,日本アルプスの清流を集める犀川と詩情豊かな千曲川など,四季折々の大自然の恩恵を受け,善光寺平を中心に発展してきました。
 また,県都として,中核市として,都市機能が集積するとともに,善光寺,川中島古戦場,城下町松代,また,昨年パワースポットブームに沸いた戸隠などが全国的に知られる観光都市でもあります。本市では,1,200万人観光交流推進事業に取り組み,観光振興と集客に努めてきましたが,本年度はその最終年として,篠ノ井,信州新町の市内2地区を舞台にイヤーキャンペーンを展開しているところです。
 さて,本市では,目指すべき都市像を「〜善光寺平に結ばれる〜人と地域がきらめくまち“ながの”」とし,「パートナーシップによるまちづくり」「“ながの”らしさをいかしたまちづくり」「健全で効率的な行政経営」をまちづくりの視点に掲げております。市民の皆様が「我がまち」に誇りと愛着を持ち,そして,将来の「夢」を共に語り合うことのできる,希望溢れる長野市をこの地で結ばれるすべての人とともに築き上げていきたいと考えております。

2.降雨の状況
 7月16日,上空の寒気の影響で大気の状態が不安定となり,夕方から長野県北部を中心に局地的に激しい雷雨となりました。特に,長野県所管の篠ノ井信里雨量観測所では,午後7時過ぎから時間最大63mm,降り始めから3時間で108mmの豪雨が観測されました。

篠ノ井信里,信更地区降雨状況
観測所 信里 信更
最大時間雨量 63mm(20:00〜21:00) 59mm(21:00〜22:00)
連続雨量 108mm(20:00〜23:00) 81mm(20:00〜23:00)
日雨量 112mm(H22.7.16) 86mm(H22.7.16)

長野市篠ノ井信里観測所の雨量

3.被害の状況
 大雨が降り始める前の午後6時14分,長野市に大雨・洪水警報が発令され,土砂災害発生前の午後7時45分,長野・飯綱町・鬼無里戸隠に土砂災害警戒情報が発表されました。
 午後8時以降,篠ノ井信里,信更地区の周辺道路で土石流やがけ崩れにより通行不能箇所が多数発生しました。
 家屋被害等により自主避難を余儀なくされた方もいましたが,人的被害がなかったことは不幸中の幸いでありました。

篠ノ井・信更地区土砂災害状況

床上浸水被害のあった家屋(信更町田野口) 土石流の発生状況

床下浸水被害のあった家屋(篠ノ井新田) 信更町三水での土石流による被害状況

信更町灰原での山腹崩壊状況

信更町三水での土石流発生状況

4.災害対応について
 災害発生時には,夜間にもかかわらず,地元の消防団,自主防災会の皆さんが,いち早く公民館を開けて避難体制を構築し,住民の安全確認や避難誘導,また炊き出しを行うなど,初期対応にご苦労いただき,日頃から地域ぐるみの防災訓練を積みかさねておくことの大切さを改めて感じました。
 災害発生翌日の7月17日から,土尻川砂防事務所,長野建設事務所,長野地方事務所,長野市の関係課等で,緊急調査を実施し,被害状況の把握や関係者の役割分担などの調整を行いました。
 調査の結果,土石流により,地区内を縦断している幹線道路である主要地方道長野信州新線が3箇所で全面通行不能,市道ではいたるところで被災が確認されました。
 また,長野建設事務所で撮影した航空写真の提供を受け,土砂崩落箇所下流の危険家屋の避難状況を地元の信更支所に照会し,安全を確認するとともに,緊急で復旧をしなければならない被災箇所では,休日・夜間の緊急時にも対応していただける地元の建設業者に連絡し,応急工事を実施しました。
 今回のゲリラ豪雨災害において,上流への砂防堰堤新設やがけ崩れの対策等,災害関連緊急砂防事業の採択をいただくなど,国土交通省,長野県をはじめとする関係機関の皆様には,迅速に対応をしていただきましたことを,この場をお借りしまして厚く御礼申し上げます。

5.おわりに
 本市の中山間地域は,地形が急峻であり,地質が脆弱で地盤がもろく不安定です。特に,今回のゲリラ豪雨により多くの災害が発生した篠ノ井信里,信更地区を含む市西部地域の山間部は,発見されている化石などで分かるように,地殻変動により海底が隆起した地域であります。そのため,地質構造は断層等があり,もろく崩れやすい岩質となっております。
 また,近年はヒートアイランド現象の影響等もあり,ゲリラ豪雨が各地で発生しており,地域住民の高齢化,過疎化などで,整備の行き届いていない山間地は大雨による土石流が発生しやすい状況です。このような地区では,降雨による地下水の影響等により地すべりが発生し,不安定な土砂が川を塞き止めることで,大きな被害が生じる可能性があります。
 ところで,今回の災害発生地区において,砂防堰堤やコンクリート擁壁等の砂防施設が整備されていた箇所では,下流の道路や民家を土石流等から護ることができました。
 このことからも分かるように,土砂災害や水害被害を防止する砂防,地すべり対策,河川施設の整備等の事業は,流域住民の生命・財産を守り,安全・安心な地域づくりを推進する上で,大変重要な事業であります。今後のより一層の整備促進と,現在実施されている災害関連緊急砂防事業の早期完成を関係機関とともに図ってまいります。

土石流をせき止めた砂防堰堤