平成22年7月の巨石崩落災害について

松浦正敬(Masataka Matsuura 島根県松江市長)

「砂防と治水203号」(2011年10月発行)より

1.松江市の概要
 本市は,山陰のほぼ中央(東経133度3分,北緯35度28分)に位置し,広島市から約180km,大阪市からは鉄道距離で約370kmのところにあります。また,市域は東西41km,南北31kmで,面積は572.98km2となっています。
 松江市は,古代出雲の中心地として早くから開け,奈良時代には国庁や国分寺が置かれていました。
 明治4年(1871年)廃藩置県によって県庁が置かれ,同22年4月(1889年)全国の38市とともに市政を施行しました。
 その後,昭和9年から10回にわたり周辺の町村を合併し,人口20万6千人の山陰最大の都市となりました。この間,昭和26年(1951年)には,京都市・奈良市と並んで国際文化観光都市となっています。


2.巨石崩落災害(福野地区災害関連緊急地すべり対策事業)について
(1)はじめに
 福野地区は松江市鹿島町恵曇地内に位置し,斜面の前側には恵曇漁港の関連施設用地が広がっています。
 平成22年7月16日午前2時頃,巨石崩落があり,2名の方が亡くなり,1名が重傷という大きな災害が発生しました。被災世帯を含む近隣の7世帯(21名)に避難指示を発令し,現在も被災世帯1世帯(3名)には避難指示を継続しているところです。

(2)被災状況
 崩落した巨岩は,大きいもので直径3mもあり,重量2〜20tの巨岩7個がもたれ式擁壁に設置してある落石防止柵をなぎ倒して,人家を押し潰しました。
 災害前日の7月15日7時までの連続雨量は106mmで14日19時には時間雨量30mmを観測しましたが,今回の災害は雨が降り終わってから19時間を経過して発生しました。地すべり災害は,雨が降り終わってからも,しばらくは安心できないことの実例となる災害でした。

被災状況

(3)観測(監視)体制の整備
 被災地周辺を踏査した結果,地すべり性の滑落崖や斜面に亀裂が生じており,この地すべり性の変状を観測する体制を整備しました。
 伸縮計,雨量計,歪み計を設置し,また,観測データを送信して,インターネット配信によって携帯電話やパソコンでリアルタイムに監視できる体制も整備しました。
(4)避難体制の整備
 避難体制については,住民避難の役割を担う市が県と連携し整備を行いました。
 市は関係機関と住民への連絡網の作成及び情報伝達を担当し,県は警戒基準,避難基準の作成,現地調査と観測を担当しました。
 関係者には,伸縮計の変位速度や雨量が一定基準を上回ると,携帯電話にメールを自動配信するようにしました。また,現地には観測データと連動したパトライトとサイレンを設置して,住民に避難基準に達したことを知らせる体制をとりました。

恵曇(福野地区)災害緊急連絡体制

(5)対策工事
 斜面崩落が生じてから植生は剥がれ,崩落面が露わな状態で,上部には依然として巨岩(20tクラス)が斜面に残っていたため,降雨などの要因で崩落の拡大が予想されるので,応急対策を行ったうえで恒久対策を実施しています。
◇恒久対策は,施工性や安全性などを検討し,「アンカー工法+排水ボーリング」工法を採用しました。
(工法の考え方)
@抑止工として,巨石部分(上部のすべり面)は,最小限の排土をして,グランドアンカー工と法面上部には鉄筋挿入工を行う。
A崩落箇所(下部すべり面)は,現場打吹付法枠+鉄筋挿入工で斜面を安定化させる。
B抑制工として,横ボーリングによって地下水位を低下させる。

対策工断面図

3.おわりに
 このような災害が二度と起きないように,県では緊急調査を実施し,危険箇所のハード対策を進めています。また,市では災害から身を守るためのソフト対策として災害の予兆を見つけたときは「早めの避難」に心がけることや「がけ地から離れた場所で過ごす」ことなど,住民への土砂災害啓発活動を実施しているところです。
 土砂災害は突如として発生し,そして人命に関わる悲惨な災害である事を再認識させられました。亡くなられたお二人のご冥福を心よりお祈り申し上げます。
 最後になりますが,今回の災害でご支援いただきました国,県並びに関係機関の皆様をはじめ,ご協力いただきました地元住民の皆さまに感謝申し上げます。松江市は,「住みやすさ日本一」の実現に向けて,安心・安全なまちづくり施策を進めております。今後とも,皆様のご支援とご協力をよろしくお願い申し上げます。