平成22年7月の土石流災害について〜飯田市南信濃小道木地区土石流災害〜

牧野光朗(Mitsuo Makino,長野県飯田市長)

「砂防と治水204号」(2011年12月発行)より

1.はじめに
 飯田市は日本の中央,長野県の最南端に位置し,東に南アルプス,西に中央アルプスがそびえ,南北に天竜川が貫く日本一の谷地形が広がり,豊かな自然と優れた景観,四季の変化に富み,動植物の南北限という気候風土に恵まれています。「りんご並木と人形劇のまち」としても知られる飯田市は,天下の名勝とうたわれた天龍峡をはじめ,天竜川の川下り,元善光寺,しらびそ高原などが観光名所として知られていますが,近年では体験教育旅行や,銘桜を巡る桜守の旅,グリーンツーリズム・エコツーリズムの取り組みなども全国から注目されています。
 また「環境モデル都市」に認定された飯田市は,おひさまともりのエネルギーを地産地消のグリーン電力として利用した先進的な取り組みや地域経済活性化プログラムによる「若者が帰ってこられる産業づくり」,地育力向上連携システムの推進による「帰ってきたいと考える人づくり」を進め,「若者が住み続けたいと感じる地域づくり」を推進しています。
 本市では,飯田下伊那を圏域とする定住自立圏の中心市宣言を行い,全国に先駆けて周辺町村と「定住自立圏形成協定」を締結し,地域医療の充実や産業の振興,公共交通システムの整備など互いに連携・協力を図っています。行政,企業,市民で「結いの力」を発揮し,リニア時代を見据えた21世紀型の戦略的地域づくりを進め,それらにより人材サイクルの大きなうねりをつくり出して,豊かなライフスタイルを実現できる持続可能な地域経営を目指しています。
2.降雨の状況
 平成22年7月11日から17日において,活発な梅雨前線の影響により飯田地域に激しい豪雨を伴う降雨がありました。飯田市街地では,13日から15日の間で連続雨量198.5mm,日雨量107.5mm,時間雨量最大16.5mmが観測され,特に南信濃地域では,連続雨量277mm,日雨量224.5mm,時間雨量最大36.5mmを観測し,この間,土石流による家屋や道路・河川への土砂流入や道路・河川・農地・山腹の崩壊・決壊等の災害が多数発生しました。
 南信濃小道木地区においては,7月14日午後に同地区上側山腹の渓流が氾濫したことによる土石流が発生し下流民家2棟に土砂が流入しました。

土石流発生状況 民家への土砂流入状況

3.南信濃小道木地区の災害対応
3.1 地域危機管理について
 7月11日から13日にかけて南信濃地域では連日降雨があり,13日21時頃から本格的に降り始め14日未明の3時55分に大雨警報が発表されました。
 14日の正午前後に時間雨量36.5mmを観測しました。それまでに降り続いた雨と合わせ普段は水の流れないような小さな渓流が軒並み土砂を伴って氾濫し,国道152号線の沿線にある向上が床上浸水との連絡が市役所に入りました。
 その後,小道木地区において,16時20分頃に人家を直撃する土石流が発生し,2世帯2棟が全壊する被害が発生しました。あと10分でも避難が遅れていたら大変でしたが,近くの工事現場の方に勧められて家人は避難した直後であったため人的被害には至りませんでした。
 土石流発生後の16時45分に遠山地区に対し土砂災害警戒情報が発表され,同時に飯田市災害対策本部を設置,土砂災害特別警戒区域の世帯には避難をお願いしました。
 南信濃地域の今回の豪雨による被害は,全壊家屋が2世帯7人,一部破損が2世帯9人,床上浸水が2世帯4人,床下浸水が6世帯11人,非住家の全半壊が3棟,土砂崩れ27箇所,土石流30箇所に及ぶ災害や一時的に2千人の住民が孤立状態となりましたが,人的被害がなかったことは不幸中の幸いでありました。
 16日の17時05分に土砂災害警戒情報は解除となりましたが,飯田地区で出した避難指示の解除は20日まで続き,翌21日に飯田市災害対策本部が解散となりました。
 今回の災害では,地元の消防団員,自主防災組織,国土交通省天竜川上流河川事務所,長野県飯田建設事務所をはじめとする関係機関の皆様には,迅速な対応をしていただきましたことを,この場をお借りしまして厚く御礼申し上げます。

3.2 小道木地区崩壊地復旧事業について
@工事概要
 平成22年7月14日に発生した土石流により下流人家に被害があった当渓流について,崩壊地には不安定土砂が残留していることから,降雨に伴う再流出を防止するために,山腹工及び砂防堰堤を施工。

▽全体事業(実施主体:長野県飯田建設事務所)
・実施事業
 平成22年度災害関連緊急砂防事業
 平成23年度通常砂防事業(平成23年度〜24年度)
・砂防堰堤工
 本堤工 H=10.0m,L=38.0m,V=954.71m3
 前庭工 1式
・山腹工
 土留工 N=4基,H=2.5〜3.0m,L=Σ76.5m
 緑化工 A=1,877m2
 法枠工 L=25m
・事業計画
 平成22年度 砂防堰堤工
 平成23年度 法枠工L=25m,土留工N=3基
 平成24年度 土留工N=1基,緑化工A=1,877m2
A状況写真
全景

砂防堰堤設置位置 土留工設置位置

B図面
平面図

構造図

建物脇を大型土のうで防御 土砂の除去後,簡易橋で高齢者の通路を確保

4.おわりに
 平成22年7月に土石流災害が発生した小道木地区は南信濃の中心地から東へ遠山川沿いに4kmほどの位置にあります。小道木地区を含む南信濃地域は中央構造線など断層による破砕帯にあり,地質が脆弱で地盤がもろく,地形も急峻であり,豪雨による土石流が渓流部において頻繁に発生しています。
 また,自然災害によって形成された地形を見ることができ,歴史的にも大地震や水害による災害の痕跡が確認され,文献等により伝えられています。このことから,当地域の災害を未然に防ぐため土砂災害や水害を防止する砂防,地滑り対策,河川,水路等の整備事業を関係機関と連携し進めています。
 飯田市としては,安全・安心な地域づくりを推進するため,今後もさらなるハード事業の推進を図るとともに,土砂災害情報の伝達や地域の皆様と連携した防災組織の充実などソフト事業の整備を行い,地域住民の生命・財産を守る災害に強い地域づくりを進めて参ります。