平成22年9月台風9号災害を振り返って

込山正秀(Masahide Komiyama,静岡県駿東郡小山町長)

「砂防と治水204号」(2011年12月発行)より

1.小山町の概要
 本町は,静岡県の北東端に位置し,北西端は富士山頂に達しており,富士山を頂点とした富士外輪状の三国山系と,北東方は丹沢山地,東南方は箱根外輪山に囲まれ東西に伸びています。
 面積は136.13km2で,町民は面積の約1割の海抜240〜800mの緩傾斜地帯に居住しています。豊富で清冽な水に恵まれ,この水を利用したわさびや水掛菜,水稲栽培等の生産が盛んです。また,「足柄山の金太郎」誕生の地として多くの金太郎ゆかりの地があり,当町のまちづくりの基本を「小山町を元気にする『金太郎大作戦』」と銘打って展開しています。
 さらに,平成21年には,富士山五合目から西丹沢,足柄山山系の金時山までを縦走できるハイキングコース「富士箱根トレイル」が開通し,ルート上には,ブナ林をはじめとする落葉樹林帯が広がり,四季折々の表情を見せ,春から秋にかけて多くの花に彩られ,富士山麓周辺でしか見られない,自生するサンショウバラの群落を観ることができるなど,多くの自然にふれることができ,首都圏を中心にたくさんの人々を魅了しています。



鳥瞰図
2.気象の概
 我が町は,標高が比較的高いため平均気温も12.0℃と低く,8月の月平均最高気温と1月の最低気温との年較差は23℃程度と小さい状況になっています。また,年平均降水量は,富士山による影響もあって3,000mm程度と静岡県内では多い一方,年平均日照時間数は推定2,000時間以下と少ない状況にあります。
 昨年の台風9号は,9月8日11時過ぎ,福井県敦賀市付近に上陸し,同日15時に静岡県で熱帯低気圧に変わり,その後関東の東の海上に抜けましたが,小山町では8日の朝から雨が降り始め,局地的な豪雨が約10時間継続し,最大時間雨量は118mm,連続雨量も490mmを記録しました。
 町では昭和47年7月の「七夕豪雨」で死者2名,行方不明者1名,負傷者6名をだした災害に見舞われたことがありましたが,この時でも最大時間雨量は74mm,連続雨量は12時間で395mmであったことから,今台風の影響による豪雨は筆舌に尽くしがたい状況であったことがお分かりいただけるかと思います。



平成22年の台風9号経路図(×地点が小山町)

当日の雨量(役場・小山消防署・須走分署)

3.被害状況
 この台風により,河川では野沢川で護岸崩壊と溢水による浸水被害が発生し,町の中心市街ともいうべき地域へ大きな被害を与えました。また,須川では,約4kmにわたり,護岸が跡形もなく崩壊し,背後地を侵食し,農地・農業用施設にも多大な被害を与えました。
 また,道路では,町道の崩落により,柳島地区の26世帯が一時期孤立してしまう状況が発生し,町の幹線道路も各所で被災し,富士スピードウェイで開催予定のレースも中止を余儀なくされるなど,観光や経済にも大きな影響を与えました。
 東名高速道路と平行し,東京都から神奈川県を経由し,沼津市を結ぶ幹線道路の国道246号では,トンネル坑口が土砂の崩落により全線通行止めになったことから,大型車両が市街地へ流入し,渋滞を引き起こすなど,被災状況調査や応急復旧工事にも大きな影響を及ぼし,災害対策本部の活動にも大きな支障となりました。
 ライフラインにおいては,道路や橋梁にあった上水道の送水管も被災し,断水が続いた地域もありました。
 今台風の被害の特徴として,山腹から大量の土砂と流木が流出したことがあげられます。土砂災害は39箇所報告されておりますが,実際には,山中のいたるところで,土石流が発生していた状況でした。これは,「スコリア」と呼ばれる富士山が噴火した際に噴出した軽石が大量の雨により流出したのが主な要因です。
〈住家被害〉
住宅全壊6棟,大規模半壊7棟,床上浸水14棟,床下浸水94棟

山腹崩壊により土砂流出で河道が埋塞

2級河川・鮎沢川と野沢川の合流部(町道の橋梁流出) 町道崩壊により集落が孤立化 新築家屋が被災

4.災害への対応
 9月8日,8時32分「大雨(浸水害),洪水警報」が発令され,町では防災監を中心に事前配備体制を取り,静岡県のデータも収集しながら,御殿場市・小山町広域消防署による巡視による管内の状況把握に努めました。
 9時を過ぎた頃,町民から「側溝から水が溢れている」「土砂が流出している」等の通報が相次ぎ,災害警戒本部を設置し,全庁,全職員挙げて対応に当たりました。
 その頃,時間100mmを超す雨量が観測され,刻々と報告される被害状況により,災害対策本部を設置し,本かk的な活動を開始しました。
 まず,職員で災害情報受理箇所の現地確認を実施し,緊急性を判断し,その結果を災害対策本部の各部に持ち帰り,その後の対応について,本部から指示をしました。
 その一例として,気象情報や河川の水位の状況から,町民の避難が必要な地域が発生していると判断し,避難所の開設を指示し,町内全戸に設置している,同報無線の戸別受信機を通じ,全町に対して自主避難の呼びかけ放送をしました。一部の町民は避難を開始し,避難所へも集まってきました。さらに,避難勧告を発令した地区もあり,自主防災組織や消防団とも連携しながら高齢者や幼児などの災害弱者の避難誘導を行いました。およそ350名が避難をしていました。

5.復旧に向けて
 局地的な災害を受け,復旧に向けてのスタートは,国土交通省緊急災害対策派遣隊(TEC-FORCE)の派遣要請から始まりました。
 9月10〜15日の間に延べ81名の隊員の派遣を受け,被災間もない現地の状況を調査いただき,技術的な支援アドバイスをいただきました。
 さらに,国土交通省静岡国道事務所からは,孤立集落解消のために応急仮設橋を無償貸与していただき,早急な応急復旧を成し遂げることができました。また,災害対策本部に対し,応急復旧用資材を搬入貸与していただきました。
 また,静岡県からも早々に職員を派遣いただき,様々な観点からのアドバイスをいただきました。
 一方,民間レベルでも,小山町社会福祉協議会が中心となって,住宅に流入した土砂の排出や家財道具の片付けなどのボランティア活動の受付,コーディネートをしてくれ,官民一体となった復旧活動ができました。
 人的,物的両面で多くの方々から支援をいただき,復旧の第一歩を歩みだすことができましたことに感謝いたしております。
 さらに,災害は町の財政にも大きな負担をもたらしました。
 そこで,激甚災害制度があります。激甚指定を受けることにより国庫補助の特別措置を受けるものですが,当町の公共土木施設災害の査定事業費は当初,局地激甚災害指定基準を下回り,補助率の嵩上げが受けられない状況にありました。
 しかしながら,国では,局地的豪雨が全国各地で発生し,この災害が財政的に大きな負担となることから,指定基準の見直しが検討され,実施されました。その結果,当町も,新基準により指定を受けられ,補助率を上げていただくこととなりました。

6.おわりに
 昨年の台風9号災害において,多くの皆様に多大なご支援をいただきましたことに重ねて感謝申し上げます。
 本町も中山間地域にあり,背後には急峻な山間地を抱えており,自然に恵まれている反面,自然災害への危険性も高くなっています。「誰もが安全・安心のまちづくり」を掲げ,まちづくりに取り組んでおりますが,この課題がまちづくり施策で最優先されるものであることを再認識いたしました。幸いにして,昨年の台風では死傷者を出すことはありませんでした。この要因として多くの方たちから,地区のコミュニティの強さが言われています。
 早い段階から,消防団などと協力しながら高齢者世帯への避難の声かけをするなど,現在都会では失われつつある助け合いの精神がこの町で培われていたことによるものと思います。
 もちろん災害はなくすことはできませんが,砂防,治山,河川整備などハード面の整備は,町民の生命財産を守るために欠かすことのできない事業であります。今後も国県に対しても,整備促進をお願いしてまいります。
 このように災害の発生と拡大防止には,ソフトとハード両面の強化が必要ですので,行政と地域が一体となってまちづくりを進めていきたいと考えております。