平成22年「台風9号」による土砂災害について

高村忠久(Tadahisa Takamura,山梨県南都留郡山中湖村長)

「砂防と治水205号」(2012年2月発行)より

1.山中湖村の概要
 山中湖村は,山梨県の富士北麓地域に位置し,神奈川県山北町および静岡県小山町に接する人口5,834人,面積52.81km2の村であります。ほぼ全村が富士箱根伊豆国立公園に属し,標高1,000m前後の高原地帯で,西には世界文化遺産登録を目指す富士山が間近にそびえており,豊かな自然に恵まれ,日本有数の野鳥の宝庫です。
 気候は,真夏でも最高気温が30度を超えることはまれで,夏の平均気温は20度前後と過ごしやすく,早くから避暑地として開け,別荘約3,800軒,学校や会社・官公庁の寮は1,000軒以上,ホテルや旅館・民宿・ペンションは大小あわせて250軒以上もあります。また,近年急速に増えたリゾートマンションは,30数棟・250室以上にも及びます。
 村の名称にもなっている山中湖は,なだらかな山々に囲まれた明るい湖であり,面積は6.67km2と富士五湖の中で最も大きく,水深15m,海抜982mと日本で3位の高所にあります。また,山中湖を水源とする相模川は,山梨県では「桂川」と呼ばれ,神奈川県では「相模川」と名を変え,相模湖,津久井湖を経て,神奈川県中央部を流下する流路延長109km(山梨県53.4km,神奈川県55.6km)の一級河川であり,遠く相模湾に注いでいます。湖には毎年こいやふな・わかさぎなどが放魚され,淡水魚の宝庫となっており,これらの大自然を求め春から秋にかけてたくさんの観光客が訪れ,その数は年間400万人にも及びいでいます。

山中湖村位置図 富士山をのぞむ

2.台風9号に伴う村の災害対応

2.1 台風9号
 台風9号は9月3日15時に日本の南で発生して北西に進み,その後,中心気圧992ヘクトパスカル,中心の最大風速25mと勢力を維持しながら進路を北から北東に変え,7日11時過ぎに対馬付近を通過しました。その後1時間に25kmの速さで山陰沖を東北東に進み,8日11時過ぎに福井県敦賀市付近に上陸しました。
 その後,台風9号は8日13時頃に岐阜市付近を通過し,15時頃に静岡県内で熱帯低気圧に変わり,夜には関東の東海上にぬけるコースをとっております。
 甲府地方気象台では,8日9時10分に南部町,丹波山村を除く,全県に大雨・洪水注意報を発令しました。その後,10時26分に山中湖村を含む富士五胡地域に大雨・洪水警報が発令され,14時30分には,富士五湖地域の周辺市村と峡南地方などにも大雨・洪水警報が発令されました。また,土砂災害警戒情報については11時に山中湖村に発表され,その後,周辺の1市2村に広がっています。
 山中湖村では,9月8日7時から雨が降り出し,同日17時までに327mmの連続雨量を記録し,8日10時から11時にかけて時間雨量71mmを15時から16時にかけて最大時間雨量76mmを記録しました。

平成22年9月8日(水)の雨量

2.2 豪雨等の経過
〈9月8日〉
7:00  雨が降り始める
9:10  大雨・洪水注意報発令
    職員による被災状況パトロール開始
10:26 大雨・洪水警報発令
10:29 記録的短時間大雨情報
10〜11時 71mmの時間雨量観測
11:00 土砂災害警戒情報 発表
13:05 災害対策本部設置
15:05 防災無線による土砂災害警戒情報等の情報提供
15:44 全村に対し避難準備情報
15:50 平野地区,吉政・柳原の一部住民28名に避難指示,老人福祉施設しあわせセンターに避難所設置
15:50頃 吉政沢で土砂災害発生
15〜16時 76mmの最大時間雨量観測
20:40 土砂災害警戒情報 解除
21:40 大雨警報を大雨注意報に切替
    災害対策本部縮小・避難指示解除
〈9月9日〉
9:12  大雨注意報解除
9:25  災害対策本部解散

2.3 避難指示
 9月8日午前10時29分,甲府地方気象台発表の記録的短時間大雨情報や1回目の降雨のピークとなる時間71mmの降雨観測,11時の土砂災害警戒情報の発表を受け,村では災害対策本部の設置準備に入りました。その後の降雨が小康状態となったため,村内のパトロールの実施等情報収集に努めていましたが,2回目の記録的短時間大雨情報により13時5分,災害対策本部を設置しました。降雨状況を確認しながら,村民に防災無線による情報提供を継続していましたが,15時以降の降雨が特に激しくなるとの予報や平野地区の吉政・柳原区において小規模の土砂の押出があったことから両区に避難指示を発令しました。その直後に吉政沢において,土砂が流出し,ペンションが一部損壊するとともに,マンションや駐車場に土砂が流入し,1戸が床上浸水するという大きな被害を受けました。

被害状況

2.4 避難指示の解除
 9月8日20時40分,土砂災害警戒情報が解除されたことを受け,吉政・柳原地区の現地を村役場職員・委託業者等が巡回し,危険のないことを確認するとともに,避難者の意見も参考に聴取した中,甲府地方気象台が21時40分に大雨警報を大雨注意報に切り替えたことを受け,21時40分吉政・柳原地区の避難指示を解除するとともに災害対策本部も縮小しました。
 しかし,避難者には,夜遅いことから避難所への宿泊をお願いし,翌朝の帰宅にご協力いただきました。

3.災害復旧への取り組み
 土石流が発生した吉政沢の上流部には不安定土砂が堆積していることから,土砂災害の拡大を防止するため,村はただちに県に防災対策をお願いしたところであります。その結果,災害関連緊急砂防事業を採択して頂き,砂防堰堤1基が整備されることになっています。さらに,今年度は災害フォローとして特定緊急砂防事業が着手される予定です。
 このほか,吉政沢下流の村道や一級河川大堀川などについて災害復旧事業が採択され,現在までに工事が完了しております。
 これらの災害におきましては,国土交通省や山梨県をはじめとする関係機関の方々には迅速な対応をしていただき,大変お世話になりました。この場をお借りいたしまして,厚く御礼を申し上げます。

4.今後の減殺対策
 平成22年9月の台風9号による吉政沢の土砂災害においては,高原地帯で高い山が少ないため,他の市町村と比べ住民の土砂災害への意識が高いとは感じられない本村において,改めて災害の恐ろしさを痛感させられました。幸いにも怪我をする人もなく避難も短期間で済んだことに胸をなで下ろしております。
 一方,山中湖村は,3月11日の東北地方太平洋沖地震では震度5弱を,その後3月15日に発生した静岡県東部を震源とする地震により震度5強を観測しており,東海地震の切迫性や富士山噴火の可能性が取りざたされております。こうしたなか,土砂災害や大規模地震に対する防災対策は,本村の重要な課題となっております。
 これまでの防災対策は,地域防災計画等に基づいて,県や市町村などの防災機関を中心に行われてきましたが,防ぎきれない災害があることを自覚した中,被害を最小限に抑えるためには,減災の考え方が必要であり,防災機関による対策の実施とともに,住民が「自らの身は自分で守る」という意識を持ち,日ごろから災害に備え,いざというときに適切な対応をとれることが重要です。そのためには,「自助」「共助」「公助」の考え方に基づき,地元消防団や自治会,自主防災組織など多数の住民の方々が参加する自主防災訓練等の実施,住民,市町村,県及び防災関係機関の連携・協働,ハザードマップなどによる危険箇所の周知などを着実に進めてまいります。
 今後も関係機関の皆様と連携しながら,災害に強いまちづくりに積極的に取り組んでまいりますので,引き続きご指導,ご鞭撻をお願い申し上げます。