平成23年7月新潟・福島豪雨で発生した土砂災害について

大宅宗吉(Sokichi Oya,福島県南会津郡南会津町長)

「砂防と治水208号」(2012年8月発行)より

1.南会津町の概要
 南会津町は平成18年3月20日に田島町・舘岩村・伊南村・南郷村の1町3村が合併して誕生した人口18,000人の町です。福島県の南西部に位置し、栃木県那須塩原市・日光市に隣接しています。総面積は886.52km2で、その91%が森林で占められ、地形は越後山系から連なる帝釈山(標高2,059.6m)を最高峰に四方を急峻な山に囲まれた山岳地帯です。荒海山を源とする阿賀野川水系と尾瀬を源とする伊南川水系を有し、水系沿いに国道5路線が走り、集落と耕地が点在しています。夏は朝夕しのぎやすい大陸型で冬は厳しい日本海型に属し、舘岩・伊南・南郷地域は特別豪雪地帯に指定されています。
 基幹産業の農業は水稲を中心に南郷トマト、アスパラガスや花き栽培といった複合型です。尾瀬国立公園田代山や国指定天然記念物駒止湿原など豊かな自然資源に恵まれています。また、国指定重要有形・無形文化財の田島祇園祭御党屋制度や大桃の舞台、重要伝統的建造物群保存地区に指定された前沢曲屋集落など、後世に残さなければならない遺産が満載です。観光分野では、春から夏にかけては、駒止湿原に代表されるワタスゲ・高清水公園のひめさゆりなど、夏は伊南川・阿賀野川の鮎釣り、秋は91%が森林の紅葉群、冬はそれぞれに特色ある4カ所のスキー場や温泉など年中楽しんでいただけます。

2.豪雨の要因と状況
 平成23年7月26日から30日にかけて新潟県と福島県会津地方を中心に大雨となり、特に28日から30日にかけては、前線が朝鮮半島から北陸地方を通過して関東の東に停滞し、前線に向かって非常に湿った空気が流れ込み、大気の状況が不安定となり、新潟県と福島県会津地方を中心に記録的な大雨となりました。そして、7月28日には南会津町に大雨警報、土砂災害警戒対象地域、洪水警報が発表されました。
 特に、伊南地域では7月26日から30日にかけて大雨となり、累計雨量373.0mm、24時間最大雨量208.0mm、1時間最大雨量33.0mmを観測し、29日午後2時頃から「河川が氾濫した」「土砂が崩れた」「住宅が浸水した」「道路・農用地が冠水した」という情報が、伊南総合支所に次々と入り、午後2時30分に伊南地域現地災害対策本部を設置しました。同日、伊南川が避難判断推移に近づいた浜野地区28世帯に避難指示、集落内に土砂が流入し始めた宮沢地区4世帯、土石流の恐れがある内川地区31世帯に避難勧告を発令しました。内川地区の発令は、河川が氾濫するという住民の通報により、現地に向かった町職員から「山で大きな音がしている」との連絡を受け、伊南総合支所では土石流の前兆現象と捉え、防止行政無線によって地区住民に避難を呼びかけました。住民が無線を聞きつけ避難された数分後に地区一帯の住家は土石流に飲み込まれました。間一髪で人的被害を未然に防ぐことが出来たことは、不幸中の幸いでありました。
 一方、国道や県道沿いの沢川や斜面26カ所(国道25カ所、県道1カ所)から土石流や土砂崩落が発生したことから国道が寸断し、内川地区から大桃地区までの5集落128世帯339人が孤立状態となりました。大桃地区には観光施設があり、住民のほか多くの観光客が巻き込まれましたが、翌日、県防災ヘリによって救助されました。また、土石流や土砂崩壊による国道寸断によって、行く手を遮られた観光客を含む47人が国道2カ所で身動きが取れなくなり、新たな土砂崩壊の恐れと止むことのない土砂流入の中、不安な一夜を過ごされましたが、翌日未明、広域消防レスキュー隊、消防団員や派遣要請した自衛隊、県防災ヘリによって無事救助され、国道復旧による全線開通は4日後の8月2日になりました。なお、この未曾有の豪雨災害は7月30日に災害救助法が適用され、8月19日には激甚災害に指定されました。


     
 土砂流出による全壊家屋

  土砂流出による国道橋の被災 

   
 土砂流出による国道橋の被災   県防災ヘリによる救出 

3.被害の状況
 ライフラインは、伊南地域をはじめ舘岩地域、南郷地域の3,800世帯が停電、固定電話1,798回線が不通となりましたが、早い時間に回復しました。しかし、伊南地域の孤立した集落、舘岩地域の一部では、停電と固定・携帯電話の不通や上水道の断水状態が続き、連絡が取れず安否確認すら出来ない状況でありましたが、翌日30日に要請した県防災ヘリに町職員が搭乗し、防災行政携帯型無線機、衛星電話や飲料水等の救援物資を持ち込むことによって連絡手段と食糧が確保されました。電気、電話、上水道の復旧は4日後の8月2日となりました。集落の孤立状態が解消される間、孤立集落から「救急患者が出た」「処方薬が無くなる」「通院患者がいる」などの緊急事態も発生しましたが、現地災害対策本部に早くから広域消防署員が詰めていたため、広域消防本部への的確な情報伝達や県災害対策本部への防災ヘリ要請などが円滑に進められ、連携が実を結んだ形となりました。
 住家等の被害は、全壊8棟、大規模半壊1棟、半壊9棟、一部損壊2棟、床上浸水13棟、床下浸水33棟に達しました。
 小災害・単独災害・補助災害の公共土木関係(町道、普通河川等)は災害箇所として33カ所、林道関係は89カ所、農地・農業用施設は63カ所、農作物関係は39.95ha、上水道関係は2カ所が被災し復旧作業を実施しているところであります。
 南会津建設事務所等管内の国県道・河川・橋梁・砂防施設の補助災害は約107カ所でありました。土砂流出により全面通行止めとなりました国県道は緊急輸送路線として最重要路線であり、孤立した地区の救助活動のため、土砂等を撤去し、早急に通行可能な状況を確保していただきました。また、土石流の発生した河川等については、緊急砂防事業等により災害復旧災害を早期に実施いただいているところであります。さらに、伊南川に流出した土砂の未処理分が警戒水位の高さまで達しているところもあり、今後、二次災害の恐れがありますので一日も早い土砂撤去が必要となっています。

 
 土石流発生状況

  土砂流出による国道閉鎖 

 
土砂流出による損壊家屋   土砂流出による損壊家屋

4.豪雨災害を教訓として
 今回の被災を教訓として、今後、災害が発生する恐れがある場合、または災害が発生した場合、早期の避難体制などを明確にするため、人命を守ることを第一に、特に災害弱者(要援護者)対策を盛り込んだ「土砂災害警戒避難マニュアル」を作成し、まずは被災を受けた集落を対象に説明会を開き、それぞれの地区の実態に即した自主防災会を立ち上げました。今後、町内全地区に自主防災会の組織化を広げながら、情報をより正確、迅速に伝達できる環境を整えてまいります。
 また、東日本大震災、原発事故、そして豪雨災害を経験して、「地域防災計画」「ハザードマップ」「地震災害に対する南会津町職員行動マニュアル」の見直しを行っているところです。

5.おわりに
 東日本大震災では、町民一体となって被災者の受け入れや救援物資支援活動を行ってまいりましたが、我が町にも甚大な豪雨災害が発生し、他町村をはじめ多くの方から御支援をいただきました。改めて、実効性の高い防災対策の更なる強化を図らなければならないと実感したところです。
 この災害に対し、国、福島県をはじめ多くの関係機関の皆様に多大なる御支援をいただき、速やかに復旧事業に着手していただきましたことに心から感謝を申し上げます。
 災害に強い、安全で安心な町づくりを目指してまいりますので、今後とも皆様のご指導、ご支援を賜りますようお願い申し上げます。
 結びに、この度の豪雨災害で救助に駆けつけていただきました東京都、横浜市、茨城県、栃木県の防災ヘリをはじめ多くの関係者の皆様に厚く感謝を申し上げます。