平成23年9月25日の豪雨災害について

川畑宏友(Kouyu Kawabata,鹿児島県大島郡龍郷町長)

「砂防と治水209号」(2012年10月発行)より

1.龍郷町の概要
 龍郷町は、鹿児島県本土と沖縄本島のほぼ中央である奄美大島東部に位置しています。
 奄美大島内では、奄美市笠利町、奄美市名瀬の中間に位置し、北は東シナ海、南は太平洋に面しています。山地や丘陵が多く平地は少なく、北東部には平野部が広がり農業が盛んであり、北部は急傾斜地により各集落が分断されていることに加え、高齢化率も高い状況となっております。
 中央部には奄美大島本島の大部分の発電をまかなう九州電力龍郷発電所があり、大規模に埋め立てた住宅密集地が広がります。内陸部では大型郊外型商業施設や工業施設が多く存在しており、また、一年を通して温暖な気候で希少な自然を有することから観光地としても注目され、大型リゾート施設もあり多数の観光客が訪れています。また、町内を東西に町を横断する国道58号線は、奄美空港と奄美大島最大の都市である奄美市名瀬を接続する重要な基幹道路であり、通勤、輸送の重要な路線となっています。
 また、奄美地方は台風の常襲地域であることに加え、平成20年11月嘉渡水害、平成22年10月奄美豪雨災害と大規模な水害に襲われており、今回の平成23年9月の水害は前年の奄美豪雨災害から1年を経過しない時期に襲った大規模な水害でありました。


2.災害の概要
 平成23年9月25日の夜から26日の朝にかけて龍郷町を襲った短時間に大量の雨を降らせた豪雨は、9月25日から26日までの24時間に607mmの大雨をもたらし、龍郷消防分署に設置してある町の雨量計では、参考数値ながら25日の23時には時間雨量163mmを記録しました。この短時間に集中的に龍郷町を襲った豪雨により、一昨年の奄美豪雨災害の傷も癒えぬ龍郷町全域で、土砂災害や水害が発生し、死者1名、全壊4棟、半壊120棟、一部損壊1棟、床上浸水62棟、床下浸水213棟、河川氾濫13箇所、河川護岸決壊5箇所、橋梁崩壊1箇所、がけ崩れによる通行止め5箇所等の甚大な被害をもたらしました。
 また、この時大雨警報が発令されたのは21時24分であり、この後21時30分にはすでに役場前が冠水のため車両の通行が不能になるという状況でした。
 この状況の中で、龍郷町は21時41分には自主避難を呼びかける第1報を防災行政無線で行い、22時には災害警戒本部、22時30分には災害対策本部を設置し、同時刻に最初の避難勧告を発令しました。しかしながら、平成22年の奄美豪雨災害に続き、この平成23年の水害においても、1名の尊い命が失われたことは、痛恨の極みといわざるを得ません。
 

 
 土砂災害発生時の降雨量

役場前冠水状況

家屋への土砂流入状況

 
 秋名川の決壊による道路寸断

  浦地区土砂流入状況 

   
 土石流による被災状況    

3.復旧の状況と防災対策
 龍郷町では、この平成23年の豪雨災害だけでなく、平成22年の奄美豪雨災害での被害の復旧もあり、2年連続での人的被害、浸水被害、土砂災害に見舞われたことで、災害を受けた道路・河川・農業施設関係の復旧を急ぐとともに、対策を講じる必要がある箇所については、集落や関係機関と協議を行いながら順次行っているところです。
 また、鹿児島県で、平成23年度から災害関連事業、急傾斜地崩壊対策事業、平成24年度から5箇年計画による床上浸水対策特別緊急事業、おなじく平成24年度から特定緊急砂防事業、激甚災害対策特別緊急事業、平成24・25年度に地すべり激甚災害対策特別緊急事業が計画実施されています。
 復旧事業と併せて、龍郷町では防災対策といたしまして、平成22年度から当初整備から17年が経過し老朽化していた防災行政無線について、現在再整備を行っております。また、ハード面だけでなく、龍郷町では併せて、平成24年度には防災ガイドブックの作成を行い被害想定などの見直しを行うとともに、住民への防災に対する周知や注意喚起を行っているところであります。
 この被害想定により、平成25年度には地域防災計画の抜本的な見直しも計画しております。さらには、自主防災組織や集落への防災出前研修や自主防災組織による避難訓練への積極的な協力を行い、ハードとソフト両面から「被害を少なく、犠牲は0に」を目標とした対策を講じているところであります。

4.おわりに
 今回の災害だけでなく、平成22年の奄美豪雨災害、さらにはこの原稿の執筆を行っていた平成24年8月26日には台風15号により、龍郷町でも暴風雨による被害が町内全域に及びました。このように、近年は災害が連続して本町を襲っているのが現状ではありますが、鹿児島県をはじめ各関係機関等の多大なご支援やご協力を頂いており、円滑な応急対策を行うことができましたことをあらためて感謝申し上げ、また、今後とも引き続き復旧対策及び防災対策を関係機関と連携しながら推進し、龍郷町の住民すべてが安心して暮らせるまちづくりを行っていきたいと思います。