平成23年「台風12号」による土砂災害について

西田健(Ken Nishida,三重県南牟婁郡紀宝町長)

「砂防と治水210号」(2012年12月発行)より

1.紀宝町の概要
 紀宝町は、紀伊半島の南東部に位置し、三重県の南玄関となっています。人口11,969人、面積約79.66km2の町であります。東は七里御浜で熊野灘に面し、北は御浜町、西は熊野市、南は熊野川を隔てて和歌山県新宮市と接しています。
 そのため、東紀州地域関係市町との広域行政に取り組んでいますが、歴史・文化的背景から和歌山県との関係も深く、新宮市などとの県域を越えた連携・交流も盛んです。また、和歌山県との県境には熊野川が流れ、この流域や七里御浜、奈良県、和歌山県との一部にかけては「吉野熊野国立後援」になっています。この地域は、熊野古道として平成16年7月に、「紀伊山地の霊場と参詣道」として、世界遺産に登録され、紀宝町内では、「七里御浜」「熊野川」「御船島」の3カ所が世界遺産に登録されています。北西部には紀伊山地からつながる山塊が広く分布し、南東部には住宅地や商業地をはじめ、港湾を活用した製紙工場や製材工場などが立地しています。また町の中央部には、北西部の山々に源を発し熊野川に注ぐ相野谷川が流れています。東部の神内川・井田を含むこれら河川の流域では、平地には水田が開け、丘陵地にはみかん畑が広がっています。

紀宝町の位置

2.台風12号に伴う町の災害対応

2.1 台風12号
 平成23年8月25日に9時にマリアナ諸島の西の海上で発生した台風12号は、発達しながらゆっくりとした速さで北上し、28日には強風半径が500kmを超える大型の台風となり、8月30日には中心気圧が956hPa、最大風速が35m/sという大型で強い台風となりました。台風は、その後もゆっくりとした速度で北上を続け、30日に小笠原諸島付近で進路をいったん西に変えた後、9月2日には暴風域を伴ったまま北上して四国地方に接近し、3日10時前に高知県東部に上陸しました。その後、台風はゆっくりと北上して四国地方、中国地方を縦断し、4日未明に日本海へ進み、5日15時に日本海中部で温帯低気圧となりました。


2.2 記録的な雨量
 8月30日17時からの総降水量は、紀伊半島を中心に広い範囲で1,000mmを超え、奈良県上北山村上北山で総降水量は1,811.5mmとなるなど、総降水量が年間降水量平年値の6割に達したところもあり、紀伊半島の一部の地域では解析雨量で2,000mmを超えるなど、記録的な大雨となりました。なお、奈良県上北山村上北山では最大72時間降水量が1,652.5mmと、昭和51年からの総計開始以来の国内の観測記録である1,322mm(宮城県美郷町神門)を上回ったのを始め、北海道から四国地方にかけての多くの地点で観測史上1位を更新しました。紀宝町内では、1時間降水量(最大値)が、川原(鵜殿)で114mm(4日4時まで)、役場本庁舎で109mm(4日4時まで)、桐原で92mm(4日3時まで)を記録しています。
 ※桐原・平尾井・相野谷・川原の各観測所では、停電や水没などにより途中から測定不能になりました。

 熊野川の水位は、国土交通省紀南河川国道事務所によると、和歌山県新宮市相賀の水位観測所で9月4日2時50分に18.77mを観測。1959年9月の伊勢湾台風来襲時の16.4mを大幅に上回る過去最高を記録しました。以降は観測不能となり、水位はさらに上昇した可能性が高いとのことです。
紀宝町周辺の1時間降水量(最大値)

2.3 台風12号の対応経路
〈8月31日〉
17:15 波浪警報が発令
〈9月2日〉
12:50 大雨・暴風警報が発令。災害対策本部設置
14:19 洪水警報が発令
17:00 高岡地区(向清水団地)に避難勧告が発令
22:50 大里地区と浅里地区に土砂災害注意情報が発令
〈9月3日〉
1:00 大里(深田)地区に避難勧告が発令
2:40 大里(津本)地区、鮒田、成川(下地、中村、上地)地区、鵜殿(2・3組)地区に避難勧告が発令
3:25 消防団全分団を招集
5:00 高岡(向清水団地・清水畑)、大里(津本)鮒田全域に避難指示を発令
5:45 高岡全域と大里(永田、津本、大里西、大里東)に避難指示を発令
16:36 紀宝町に発令されていた暴風警報が解除され、強風注意報が発表
17:00 土砂災害警戒情報が発令
18:39 鵜殿地区全域に避難指示を発令
〈9月4日〉
3:00 成川(飯盛一部)、神内(一部)に避難指示を発令
4:00 自衛隊に災害派遣要請
10:15 自衛隊4中隊役場到着・活動開始
12:32 波浪警報が解除
16:00 災害救助法適用
23:30 町、自衛隊、警察、消防で今後の対応について4者会議
〈9月5日〉
5:32 紀宝町に発令されていた公瑞賢法が解除
9:19 紀宝町に発令されていた大雨警報が解除
17:00 避難指示から避難勧告へ(高岡・鮒田・大里)、避難指示解除(成川・神内一部・鵜殿)
〈9月7日〉
14:30 避難勧告解除(高岡・鮒田・大里)

3.被害状況
 この台風により、熊野川、相野谷川をはじめとする河川は増水、氾濫を引き起こし平野部の浸水、山間部では無数の土砂崩れ等を発生させるなど未曾有の被害をもたらしました。
 また、道路では、県道の法面崩壊により一時孤立する地区が発生し、ライフラインについても、上水道施設が被災を受け、町内全域で断水が発生しました。
 土砂災害につきましては、町内いたる箇所で発生しておりますが、土石流が原因とされる箇所が浅里、高岡、神内地区の3箇所あり、行方不明者1名、家屋全壊13戸と過去に例がない被害となりました。

被害状況

4.災害復旧への取り組み
 特に大きな被害を受けた浅里、高岡、神内地区の3箇所については、上流部に不安定土砂が堆積していることから、土砂災害の拡大を防止するため、三重県において災害関連緊急砂防事業を採択して頂き、23年度に各箇所、それぞれ砂防堰堤1基が整備されることになっています。さらに24年度から3カ年で砂防激甚災害対策特別緊急事業において、砂防堰堤、渓流保全工が着手される予定です。その他の土砂災害については、緊急急傾斜事業、緊急治山事業等で復旧工事を行って頂いております。

5.おわりに
 日夜問わずに、救助・捜索・復旧活動にご尽力いただいた自衛隊、警察、消防の皆さまに深く感謝と敬意を申し上げます。
 また、災害直後から、早々のお見舞いや救援物資、県内外から駆けつけてくださった数多くのボランティアの皆さまをはじめ、国(国土交通省・災害対策現地情報連絡員リエゾン、緊急災害対策派遣隊TEC-FORCEなど)、三重県、各市町をはじめ、各種団体の方々から献身的なご支援をいただいておりますことに、厚くお礼申し上げる次第でございます。
 未曾有の災害でありましたが、町民の皆さまには、いかに適切かつ安全に避難していただくか、避難の判断、情報の伝達方法、避難者の把握など、課題もいくつか見えてきました。今後、この課題を解決し減災に努め、私たちの子供や子孫の世代にも誇れるような、「安全・安心」に暮らせる地域の形成に取り組んでまいりたいと考えております。
 復興までの道のりは決して平坦なものではありませんが、今こそ、地域力を集結し、絆を深め、お互い助け合う共助の精神で、一日も早い復興と元気な「海・川・山の恵みに抱かれ、ともに輝き創造するまち」紀宝町を取り戻すために、全力で取り組んで参る所存でございます。