平成23年9月の台風12号による災害を受けて

河上敢二(Kanji Kawakami,三重県熊野市長)

「砂防と治水211号」(2013年2月発行)より

1.熊野市の概要
 熊野市は、平成17年11月に熊野市と紀和町が合併し、新しい熊野市として誕生しました。人口は約2万人で、三重県南部、紀伊半島南東部(東紀州地域)に位置し、総面積は373.63km2、その約88%近くを豊かな森林が占めています。
 気象現象は温暖多雨が特徴で、年間の平均気温は17℃前後と暖かく恵まれた気象条件にある一方で、雨量は年間3,000mm前後と多く、集中豪雨や台風の常襲地域でもあります。
 市の南東部は熊野灘に面しており、志摩半島から続く典型的なリアス式海岸で、柱状節理の「楯ヶ崎」や日本の海水浴場百選の「新鹿海水浴場」などがあります。南部は日本の渚百選にも選ばれた隆起砂礫海岸の「七里御浜」が紀宝町まで続いています。市域は内陸に向かうに従い紀伊山地の急峻な産地となり、山間部には良質な泉質の「湯の口温泉」や日本棚田百選の「丸山千枚田」、北山川からなる紀伊半島随一の渓谷美を誇る「瀞峡」や大又川をはじめとする清流があるなど、吉野熊野国立公園地域にも指定されています。
 平成16年7月には松本峠や大吹峠などの「熊野古道」や日本最古の神社「花の窟」「鬼ヶ城」や「獅子岩」が紀伊山地の霊場と参詣道として世界遺産登録されました。また、「杉」や「檜」などの木材、「新鮮で美味しい魚介類」、「新姫をはじめとした柑橘類」、ブランド鶏「熊野地鶏」など豊富な農林水産資源にも恵まれています。
 本市は、このように四季折々で多彩な表情をみせる雄大な自然と、悠久の歴史と多くの伝統文化が脈々と受け継がれている風光明媚なまちです。

2.災害の概要
 平成23年9月の台風12号の影響により、紀伊半島を中心に一部地域で累積雨量が2,000mmを超え、市内でも総雨量で1,500mmを超える地域や最大時間雨量141mmの降雨が発生するなど記録的な豪雨により、市内各地の広い範囲において、洪水や土砂崩れが発生し、多くの道路や橋梁、河川護岸等が損壊いたしました。また、河川の氾濫や土石流などにより、伊勢湾台風以降、人的被害を除けば旧熊野市、旧紀和町時代を含め、市制最大の被害となりました。

平成23年台風12号の際の市内降雨量

 家屋の被害は、全壊・大規模半壊43戸、半壊253戸、一部損壊10戸、床上浸水402戸、床下浸水304戸と約1,000戸にも及び、多数の住民が避難所への避難を余儀なくされました。
 また、市庁舎が冠水したほか、市が管理する土木、農林水産業施設を始め、環境、水道、文化教育等の公共施設、農林漁業等の民間施設、さらには家財道具、自動車等を加えると金額にして100億円を超える甚大な被害となりました。
 しかしながら幸いなことに、市内では奇跡的にも死者、行方不明者がございませんでした。大きな物的被害の反面、人的被害を免れたことは、台風の影響が大きくなる前から市民の皆さんが自主的に避難をされたり、各地域の消防団の方々が浸水などの恐れがある世帯に対して、1軒1軒早期の避難の呼びかけを行っていただいたことが大きな要因であったと考えています。
 また、砂防や治山、河川堤防などのインフラ整備が大きな役割を果たしました。地元建設業者の方には、河川や橋脚に詰まった流木の除去や仮設道路の敷設に昼夜を問わず協力してもらいました。雨の多い地域だけに、そうした役割を担う建設業の存在に大変感謝いたしているところでございます。

冠水した市庁舎周辺

損壊したJR鉄橋(井戸川)

 
 土砂崩落した県道

  洪水により損壊した県道(井戸浄水場付近) 

 
 井戸川の氾濫により冠水した県庁舎付近   ボランティアの皆さんによる災害ゴミの収集

3.豪雨災害を教訓として
 災害から1年余りが過ぎましたが、県道七色峡線や新鹿佐渡線のほか、市道であります有馬町の産田橋や五郷町の月の瀬橋など、市内各地で県・市の災害復旧工事が進められており、地域住民の皆様には大変なご不便とご心配をおかけしております。当地域は今回の被災に象徴されるように台風・大雨被害を受けやすいことに加え、近い将来に必ず発生すると言われている東海・東南海・南海地震で、東日本大震災に襲われた東北地方と同様の被害がもたらされることが予想される地域であります。
 このような地域特性を踏まえ、台風12号災害や東日本大震災への対応、復旧・復興における経験、知恵、教訓について当該地域を中心に広く共有し、起こり得る災害被害を最小限にするため、河川の改修工事や治水機能回復工事、土砂災害対策工事のほか、避難路整備工事や避難タワー、海岸堤防改修等の津波対策についても促進する必要があります。

4.おわりに
 今回の被災により、市内の広範囲な地域において同時多発的に生じる大災害時には行政による防災対応や支援には限界があることを実感いたしました。災害が発生したら、「自分の身は自分で守る」という原則により日頃から一人ひとりが災害に備える心構えを持って行動するという自助努力と、「自分たちのまちは自分たちで守る」ためには、自主防災組織の活動等を通して日頃から地域住民同士が力を合わせて支え助け合う互助の必要性が重要であるため、防災隣り組の組織化などを通じ、あらゆる災害に対応する住民の防災意識を高め、災害時の的確な行動力を高めていきたいと考えております。
 最後になりますが、台風12号の大災害の際には、給水活動、廃家財の収集や浸水家屋の清掃等々、様々な面で市民の皆さんやボランティアの方々、国土交通省中部地方整備局、三重県、県内の他市町の職員の皆さんなど、多くの皆さんのご支援をいただきました。
 特に、国土交通省中部地方整備局の緊急災害対策派遣隊のテックフォースやリエゾンが災害の状況を把握してくれたほか、三重県とともに査定に向けた支援チームも立ち上げてもらいました。
 これらの方々に大変感謝を申し上げますとともに、人・まち・自然が共生する、安全・快適なまちの実現を目指してまいりますので、今後とも皆様のご指導、ご支援を賜りますようお願い申し上げます。