平成23年台風12号豪雨 土砂災害からの復旧・復興

更谷慈禧(Yoshiki Saratani,奈良県吉野郡十津川村長)

「砂防と治水212号」(2013年4月発行)より

1.十津川村の概要
 十津川村は奈良県南部、紀伊半島のほぼ中央に位置し、人口3,850人、面積672km2で滋賀県の琵琶湖とほぼ同じ広さを有する日本一広い村です。村の96%を山林が占め、1,000m級の急峻なやな山が連なる間を縫うように十津川が流れております。
 村には「紀伊山地の霊場と参詣道」として平成16年に世界遺産に登録された「熊野参詣道小辺路」と「大峰奥駆道」が通っております。高野山から熊野本宮大社へ至る街道小辺路には石畳や宿舎跡があり、当時の熊野詣の様子が偲ばれます。また吉野と熊野三山を結ぶ大峰奥駆道は過酷な修験道であり、修験道10番目の行場でもある玉置神社は、樹齢3,000年といわれる神代杉をはじめ杉の巨木に囲まれ、神々しい力に溢れています。

2.台風12号の進路と雨量
 平成23年8月25日にマリアナ諸島付近で発生した台風12号は大型で強い勢力を維持しながら、非常に遅いスピードで高知県から山陰へと抜ける進路をとりました。紀伊半島は台風の東側に位置するため各地で長時間にわたり強い雨が降り続き、十津川村風屋の観測局では降り始めからの雨量が1,358mmを記録しました。河川の水位は次第に上昇し、9月4日早朝に最高水位となり、二津野ダムの放流量は計画最大洪水量9,600m3/sに迫る8,918m3/sに達しました。十津川村は今から124年前の明治22年にも大水害に見舞われており、記録でのみ残る当時の状況を目の当たりにしているようでした。

十津川村風屋観測局における降雨状況

3.主な被害と経過
 台風12号により発生した建物と人的被害は、全壊18棟、半壊30棟、床下浸水14棟、死者6名、行方不明者6名、重傷者3名という甚大なものとなりました。
〔9月2日〕
 3:34 大雨警報発令
 6:00 災害対策本部設置
 12:35 土砂災害警戒情報発令
 16:02 洪水警報発令
〔9月3日〕
 9:58 上湯川地区で土砂災害による人的被害発生
 15:40 出谷殿井地区に避難勧告発令
 18:50 野尻地区で村営住宅2棟流失による人的被害発生
〔9月4日〕
 1:42 国道168号折立橋落橋
 4:35 自衛隊派遣決定の連絡
 7:50 既存の堰止め湖が越流し決壊の恐れから下流域に避難勧告
 9:05 長殿地区で発電所と民家の流失報告
 9:20 県道川津高野線で落橋報告
 9:43 十津川上流の五條市大塔町で堰止め湖決壊の恐れ、十津川沿に避難指示
 15:05 さらに上流の天川村で堰止め湖の報告
〔9月5日〕
 午前 陸上自衛隊先発隊到着、近畿地方整備局リエゾン到着
 11:52 長殿地区長殿谷で堰止め湖発見避難指示
〔9月16日〕堰止め湖決壊の恐れがあるため警戒区域設定、国土交通省による緊急工事着手
〔2月8日〕警戒区域解除

長殿被災状況:写真右の山腹崩壊により堰止め湖ができ、中央の山腹崩壊により津波が発生、左の発電所と民家が流失

流失した発電所と民家

 
 落橋した国道168号折立橋   栗平堰止め湖

4.多方面からの支援
 台風通過直後より多方面からの支援をいただき、徐々に元の生活を取り戻すことができました。国土交通省におかれましては、被害状況の調査とりまとめ、堰止め湖対策、折立橋の復旧等にあたっていただきました。また、赤谷・長殿谷・栗平の堰止め湖については、翌年の梅雨入りを前に仮排水路を設ける緊急対策工事が完了し、現在恒久的な対策工事に取り掛かっていただいております。
 折立橋は24時間体制の復旧工事で落橋から約2ヵ月で復旧していただきました。陸上自衛隊におかれましては、行方不明者の捜索・物資の運搬や道路の啓開等の支援をいただき、奈良県や県内市町村からも多くの人的支援をいただきました。

5.今後の課題
 十津川村全体では260haもの山腹が崩壊しており、土砂の流入による歌唱の上昇は10m近くになるところもあります。現在、国・県による砂防事業及び治山事業が進められておりますが、あまりに範囲が広く全ての崩壊には対応できておりません。河川の堆積土砂排除についても県、ダムを管理する電源開発、村により行っておりますが、急峻な地形で土砂処分場も限られており、思うように進んでいないのが現状であります。ひとたび大雨が降れば、新たに山腹崩壊箇所から河川に土砂が供給されることとなり、双方早急に対応しなければ、河川の氾濫や川沿いの道路・山腹崩壊を引き起こす二次災害、また、それに伴う三次災害の可能性があり、大きな課題となっております。
 次に深層崩壊対策ですが、村には崩壊せずとも山頂に大きなひび割れが発見された例がいくつかあります。現在、国土交通省により行われております空からの調査により深層崩壊危険箇所が特定されれば、事前に避難が可能となり、ソフト面での対応は可能であると考えます。しかし、ハード面では技術的・制度的にも対策が遅れており、国におかれましては単に費用対効果で評価するのではなく国土・人命を守る意味でも、本村において深層崩壊対策のモデル事業・試験施工等を進めていただき、制度と技術が確立されることを強く望みます。

6.おわりに
 台風12号の最中から危険を顧みず救援・救助等活動していただきました消防団の皆様、また国、奈良県他復旧・復興にご支援いただきました皆様方にこの場をお借りしてお礼を申し上げます。私どもとしましても今後起こり得る大規模災害に備え、各集落との情報伝達整備、自主防災組織の強化・充実、災害応急対策要領の作成と体制整備、紀伊半島大水害からの教訓を踏まえた災害への備えと対応等整備に取り組んでおります。復旧復興も道半ばではありますが、今後も着実に進めて参りますので皆様のご支援、ご指導賜りますようお願い申し上げます。

自衛隊による行方不明者の捜索 TEC-FORCEによる災害調査