(社)全国治水砂防協会 UPDATE 2009/1/30

「砂防事業による地域活性化に関するアンケート」に基づく提言


 
 (社)全国治水砂防協会によって実施したアンケートは、会員1,311市町村から回答をいただいた。このアンケートによって、会員市町村が抱える「砂防事業による地域活性化」に関する課題、要望等が明らかになった。
以下に、アンケート結果に基づき、砂防事業による地域活性化に関する施策について提言する。
 地球温暖化による台風の大型化や集中豪雨の多発に加え、大規模地震の発生、火山活動の活発化などにより、土砂災害が毎年各地で発生し、その数は増加する傾向にある。また、世界的な不況の影響下、経済・財政状況が厳しい局面を迎え、とりわけ中山間地域においては、人口の減少、高齢化に拍車をかけ、限界集落の増加や経済活動の停滞化など地域社会の存続自体が懸念される等社会構造上の問題が顕在化しつつある。
 市町村合併は、合併によるスケールメリットが生まれた一方、地域間での差が顕在化し、例えば防災面でも、土砂災害が予想される中山間地でのきめ細かい対応が不安視される等の課題が生じている。
 こうした現状のなかで、安全で安心して暮らせる活力ある社会を実現していくために、全国治水砂防協会会員は、以下に掲げるような施策を関係機関に提言するとともに自ら実践していく必要がある。

砂防事業の直接的機能・効果の更なる発現を
 砂防事業は、土砂災害から地域住民の生命及び財産を守るために多大な効果があることは明らかである。中山間地域や都市部周辺では、土砂災害危険箇所が数多く分布し、土砂災害の危険にさらされている。また、国土の約75%を占める山地・丘陵地は木材価格の低迷や山間部の人口高齢化等で森林の手入れが行き届かず、山地の荒廃が進んでいるうえ、地球温暖化による気候変動を考慮すると、土砂災害の危険性が高まっている。安全で安心な生活環境は、地域住民にとって最も基本的な要件であるとともに、地域活性化のための必須の要件といえる。そのために重要な役割を担う砂防事業を、山を守り、流域を保全する観点から、治山治水関連事業等と連携し、推進する必要がある。
 加えて、重要交通網の保全、流木災害対策、防災拠点の保全、孤立化の防止、雪崩対策、火山災害対策等についても、大きな効果を発揮しているところであり、さらに、地震災害対策、重要建築物の保全、災害時要援護者対策等環境や地域のニーズに合った砂防事業の強力な推進が必要である。

砂防事業の副次的機能・効果の更なる活用を
 砂防関係施設の整備は、避難場所等安全な公的空間や親水性を持つ渓流空間の創出にも大いに寄与している。さらに、工事用道路の有効活用、砂防堰堤の湛水の一時的利用など、その副次的効果の更なる活用を図る必要がある。

砂防事業と関連事業との連携による地域の活性化を
 砂防事業と関連事業との連携によって観光振興や宅地開発、公園整備等安全な地域開発(まちづくり)が可能となる。さらに、地すべり排水の利活用、歴史的砂防関係施設の周辺整備、小水力発電施設の付加等により、地域の活性化に大きく貢献することが期待されることから、関連事業との連携による砂防事業の推進が必要である。

都市と地方の交流に砂防が貢献を
 地方は、農産・林産・畜産・鉱物、水・電力・観光等各種資源を都市へ供給する役割を担ってきた。また、人の手が入ることにより、山地・農地・河川等の管理が自然になされ、下流都市の防災に役立ってきた。このように、都市は地方の支えもあって発展してきたことを再認識し、地方と都市との交流の中で、災害文化や里山文化を継承してゆくなど協力してお互いの活性化を図っていく必要がある。その橋渡しとして砂防事業が重要な役割を果たすべきである。

土砂災害及び砂防の広報・周知の充実を
 土砂災害について正しい認識を持つとともに、砂防の歴史、重要性等について広く周知する必要があり、そのことが、地域活性化にもつながる。そのためには、土砂災害防止月間における広報活動、砂防現場の見学会、学習会等の実施、砂防資料館等の活用、マスコミ等と連携した広報等の充実を図る必要がある。
 土砂災害防止法に基づく警戒区域等の指定を進めるにあたっては、住民の不安を助長しないよう、警戒避難体制の整備や適正な土地利用への誘導等について、その必要性、重要性を十分周知する必要がある。

がけ崩れ対策の一層の充実を
 土砂災害で最も多いがけ崩れの対策について、一層の整備の推進を図るため、一連の危険区域の対策を一括して実施する必要がある。

住民意見を反映した行政を
 砂防事業の実施に当たっては、事業と地域活性化等について住民の意見を一層取り入れ、地域に根ざした事業を推進する必要がある。

安全な土地利用の促進を
 土砂災害発生の場である斜面や渓流等において、砂防関係施設の整備と併せて原因となる地形の改変や緑化事業等を実施することで、有効かつ安全な土地利用への誘導を図る必要がある。

環境保全・親水性等の確保を
 流域を一体的に整備するに際しては、景観や魚類、水棲生物、植生等を含めた自然環境に配慮し、瀬や淵、せせらぎの創出、渓流へのアクセス等、自然環境と調和した工法を用いるとともに、関係機関と連携して、沢歩き、ハイキング、渓流釣り、キャンプ等ができる場所を組み入れることにより、人々がそこに住み、集まり、憩うことができる、地域の宝となるような空間の整備を推進する必要がある。
 地球環境や温暖化対策としての緑化の促進、土砂災害に強い樹種への転換、また間伐、下刈り等の山の手入れ等の促進を図ることにより里山を保全するとともに、実のなる樹木の植栽と育成を地域住民と連携して実施するなど、山とのふれ合いの場を整備し、教育にも役立てる必要がある。

雇用機会の拡大を図り、地域経済の発展を
 若い世代は、災害時要援護者の避難誘導等、自主防災組織の大きな力ともなる。日本の担い手である若者が地方に定住するためには、雇用の場を確保することが不可欠である。砂防事業の実施と地元業者の活用などによって生ずる雇用の機会の確保・拡大は、厳しい不況の影響を受けている地方においてはとりわけ重要といえる。加えて、砂防事業の関連産業への波及効果を考慮すると、地域経済への影響も大きく、その意味においても、大いにその促進が必要である。
 また、間伐材をはじめとした木材、石材等の砂防工事用材料に地域産を活用することにより、環境の改善や地場産業の育成を図ることができる。

平成21年1月30日

社団法人 全国治水砂防協会






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