(社)全国治水砂防協会 UPDATE 2010/2/8

土砂災害からの警戒避難に関する提言



 毎年全国各地で土砂災害が発生し、多くの人命や財産が失われている。昨年7月には山口県防府市等で土石流災害が発生し、多くの災害時要援護者等の人命が失われた。地球温暖化が叫ばれる中、こうした悲惨な土砂災害は増加する傾向にある。
 国や都道府県においては、ハード対策を進めるとともに、ソフト対策の柱である土砂災害防止法に基づき、土砂災害警戒区域等が指定され、土砂災害から人命を守るための様々な施策が実施されている。
 一方、市町村においては、警戒避難体制を整備し、住民に対して的確な避難勧告等を発令する重要な責務を負っており、鋭意その推進に努めている。土砂災害の特徴を踏まえたソフト対策をさらに推進していくためには、まだ多くの課題を抱えており、その解決のため、以下に掲げるような施策を関係機関に提言するとともに自ら実践していく必要がある。

1.防災意識の向上を
 防災意識の向上を図ることは最も大事なことであり、地域ぐるみで取り組むため、国・都道府県・市町村・ボランティア・マスコミ等が連携する必要がある。
 特に、子供のころから防災意識を持つことが重要であり、小中学校等において土砂災害に関する防災教育をさらに推進していく必要がある。

2.土砂災害警戒区域等の指定の促進を
 土砂災害警戒区域等の調査及び指定を早急に進めていただきたい。
 区域を指定する際には、警戒避難体制の整備を含めた区域指定の意義、指定後の住宅等の新規立地抑制等行為制限の内容、既存住宅の移転とその支援策等について、都道府県と協同で住民に十分説明する必要がある。そのための人的、技術的な支援等をお願いしたい。
 土砂災害特別警戒区域における移転促進の支援等関連制度のさらなる充実のため、財政的支援が必要である。

3.安全な避難場所、避難路の確保支援を
 避難場所、避難路が土砂災害警戒区域内にあるなど、避難体制の構築が困難な箇所が多い。避難場所、避難路の指定についての技術的支援をお願いしたい。
 孤立するおそれがある地域等の避難所においては、発電機を備える等必要な備品整備が必要であり、そのための財政的支援が必須である。
 また、安全な避難場所であって、平時には避難訓練等、災害時には復旧活動等が行える防災拠点の整備に関係機関の支援が望まれる。

4.土砂災害ハザードマップ等の整備支援を
 土砂災害ハザードマップは、専門的な知見とともに、住民からの情報や意見を反映したものが望まれる。また、同マップを各戸配布や住民説明会の開催、講演会での活用等様々な機会を通じて周知していく必要がある。これらのための技術的、財政的支援を必要としている。

5.避難勧告等の発令基準策定への支援を
 避難勧告等の発令基準の策定は喫緊の課題である。
 避難勧告等の発令は、土砂災害警戒情報に加えて、発令対象区域の検討、近隣市町村の発令状況、避難中の安全、避難所開設の準備状況等様々な状況を勘案するなど、専門的かつきめ細かな対応が必要であり、関係機関の支援が望まれる。

6.情報伝達システムの整備を
 避難勧告等の発令を判断するために、都道府県や気象台からの土砂災害警戒情報、最新の雨量情報等を迅速に市町村内に伝達する必要がある。また、市町村からの情報も迅速に報告する必要もあり、そのため他の災害を含めた情報の一元化や情報伝達システムの整備・改良、そして関係機関・部局の連携が必要である。
 住民や自主防災組織への情報伝達とともに、住民等からの情報提供のため土砂災害相互通報システム整備事業の促進を図る必要がある。防災無線や個別受信機等の整備、無線不感地帯の解消、CATV、ラジオ放送、メールの活用等が望まれる。そのための技術的、財政的支援を必要としている。

7.自主防災組織の強化支援を
 局地的豪雨に対応するためにも、「自分の命は自分で守る」との意識を高めるとともに、自主防災組織の結成、育成、活性化等を進め、地域防災力を高めていく必要がある。
 土砂災害危険箇所の点検等を砂防ボランティア等とともに、自主防災組織が実施することが望まれる。また、同組織の的確な活動のためには、優秀なリーダーを養成する必要がある。そのための研修会の開催等について支援を必要としている。

8.災害時要援護者対策の推進を
 地域住民の高齢化や消防団員の減少、若者不足等が深刻化しており、人材支援が困難な状況にあるものの、災害時要援護者関連施設の管理者、周辺地域の自主防災組織、民生委員、福祉関係部局等とも連携して、災害時要援護者への情報伝達、避難者の健康管理を含めた避難支援体制等の整備・充実を急ぐ必要がある。
 在宅の災害時要援護者対策を進めるうえで課題となっている個人情報保護について、国レベルでも整理をお願いしたい。

9.土砂災害警戒情報の質的向上を
 市町村単位で発表される土砂災害警戒情報を、より細かい範囲で発表するとともに、さらなる精度向上が必要である。また、水害における水位のような目で確認できる分かりやすい判断基準の導入も検討していただきたい。

10.警戒避難体制の整備支援を
 市町村合併により、面積、人口ともに増加した市町村においては、総合的な防災体制の再構築が必要となっている。
 しかしながら市町村では、防災のための職員数が少ないため、専門的な知識を持った職員の育成、配置等が困難な状況にある。このため人的、技術的、財政的支援及び関係機関の連携を必要としている。

11.防災訓練の実施支援を
 豪雨時等の避難時に迅速かつ的確に行動するためには、土砂災害を対象とした実践的な防災訓練が必要である。訓練をとおして、防災意識が高まるとともに、実際に即した課題を抽出することができる。
 全国統一の訓練のみならず、地区ごとの訓練や地域住民が主体の訓練も実施していく必要がある。そのための技術的、財政的支援を必要としている。

12.研修会等の開催を
 住民や市町村職員が、全国各地で発生する災害の教訓を知り、知識を深め、防災意識を高めていくための講演会、研修会、訓練、先進地視察等が必要である。そのための人的、技術的、財政的支援を必要としている。また、これらに参加しやすくするため、近隣地区での講演会等の開催をお願いしたい。

13.総合的な土砂災害対策の推進を
 ソフト対策の推進とともに、ソフト対策と連携したハード対策の推進が不可欠である。特に特別警戒区域の解消、災害時要援護者関連施設、避難場所、避難路を守る砂防施設の整備を強力に推進する必要がある。

平成22年2月8日

社団法人 全国治水砂防協会






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