(社)全国治水砂防協会 UPDATE 2012/4/16

平成23年度市町村アンケート
「大規模土砂災害に対する住民の安全確保に関するアンケート」結果に基づく提言の実施



 (社)全国治水砂防協会では、平成23年度の事業として、「大規模土砂災害に対する住民の安全確保に関するアンケート」を実施しました。本アンケートは、昨年9月の台風12号により紀伊半島を中心に発生したような大規模な土砂災害に対して、市町村が地域住民の安全を確保するために、どのような課題や問題点を抱えておられるかを抽出し、国及び都道府県の砂防担当部局等関係機関に要望・提言する等、今後の砂防協会の活動に活用させていただくために行ったものです。お忙しい中にもかかわらず、1,218の市町村(回答率87%)から回答をいただいており、皆様のご協力に心より感謝申し上げます。

 4月11日に、本アンケートの結果に基づく提言書を、当協会の岡本正男理事長より国土交通省砂防部の南哲行砂防部長にお渡しし、砂防関係事業の実施等への活用や課題の解決に向けてご尽力いただくようお願いしてまいりました。提言書の内容を下記に掲載いたします。
 
 なお、本アンケートの結果については、「砂防と治水206号」(2012年4月号)に掲載する予定です。

南哲行砂防部長(右)に提言書を手渡す岡本正男理事長(左)

 

大規模土砂災害に対する住民の安全確保に関する提言


 平成23年9月、台風12号は連続雨量で2,000mmに及ぶ豪雨を降らせ、紀伊半島を中心に大規模な土砂災害を発生させた。17箇所に及ぶ深層崩壊が発生し、その内5箇所では下流域に大きな危険性を与える恐れがある天然ダムが形成され、国による緊急調査、緊急対応が行われた。また、規模の大きな土石流なども多数発生し、多くの犠牲者を伴う被害を与えた。
 近年、日本列島は各地で未曾有の豪雨が度々発生しており、今後も、各地でこのような豪雨が発生する可能性がある。このような豪雨に対して、市町村は地域住民の安全を確保するために、警戒避難などの取り組みが必要であると考えているが、従来の方法では対応が難しい部分が多いと考えられる。そこで、豪雨による大規模土砂災害をできるだけ軽減させるための課題について、全国の市町村の意見を踏まえて整理し、解決に向けた内容をまとめたので以下のとおり提言する。 これらについては、市町村以外の関係機関の努力や支援なしには進まない課題も多く、市町村と関係機関の連携による取り組みが不可欠と思われる。ここで想定する豪雨による大規模な土砂災害とは、大規模な深層崩壊や天然ダムの形成などのように個々の現象が大規模な場合もあるが、地域によっては、土石流、地すべり、がけ崩れの多発が中心の災害の場合もある。また、市町村が行う災害対応としては、事前対応が中心となるが、大規模土砂災害に関しては、災害直後の対応も災害の拡大防止に対して大きな意味を持つため、これらも以下に含まれている。

1.深層崩壊発生地域の特定
 大規模な土砂災害の形態は、豪雨を受ける地域特性によって大きく異なると思われる。そこで、まず、豪雨が発生した際に起きる、大規模な土砂災害の形態をある程度特定する必要がある。
 特に深層崩壊は、限られた条件の地域で発生しやすいことが分かっており、その可能性のある地域をできるだけ絞って示すための調査が行われている。現在実施されている深層崩壊調査を鋭意進めるとともに、その結果等について、早い段階で関係機関と情報共有を図る必要がある。

2.災害発生状況や災害発生範囲の速やかな把握
 大規模土砂災害の発生状況、発生範囲の速やかな把握が、救助や被害の拡大抑制、孤立地域の把握のためにも必要である。そのためにも、土石流センサーやビデオカメラなどの監視機器の設置が必要である。特に、天然ダムが形成されたような場合には、迅速に国による緊急調査が必要となるため、国土交通省が進めている振動センサーなども有効であり、早急な整備が必要である。

3.国、都道府県、市町村の連携強化
 大規模な土砂災害に対応する際には、国、都道府県、市町村の連携が不可欠である。特に、大規模な土砂災害から人命と地域を守るためには、高度な技術と卓越した機動力を有する国の役割は大変重要である。そのためにも、国土交通省の出先機関と都道府県、市町村の日頃からの連携が必要であり、日頃から情報伝達訓練などを実施する必要がある。

4.安全な避難場所、避難経路の確保
避難場所及び避難経路については、土砂災害警戒区域等に照らして安全かどうかの確認が必要であるとともに、大規模な土砂災害に対して安全かどうかの確認も必要になる。これには、想定される大規模な土砂移動範囲の特定が必要となる。このためには、国や都道府県などの行政機関とともに専門家を含む、グループなどを立ち上げて検討する必要がある。

5.適切な避難勧告等の発令のための情報提供
 市町村は、空振りができるだけ少ない形での避難勧告等の発令が重要と考えている。そのためにも土砂災害警戒情報に用いられるメッシュ情報をより細かく表現するなど、きめ細かな情報提供が必要である。
 特に、大規模土砂災害を引き起こす豪雨が予想される場合は、被害区域を考慮すると早目の避難が求められるため、判断に必要な情報の提供が必要である。豪雨終了後の避難解除についても、関係機関や専門家からの助言が必要である。

6.情報伝達システムの整備
 豪雨により、屋外のスピーカーが聞き取りにくくなるため、複数の手段による情報伝達が欠かせない。防災無線の個別受信機やFMラジオ、携帯電話のエリアメールなどが活用されているが、これらのための技術的、財政的支援が必要である。

7.災害時要援護者への対応
 地域住民の高齢化や消防団員の減少などの要因で、災害時要援護者の避難支援が困難になっている。また、山間地に位置する、災害時要援護者関連施設に対する避難誘導も難しい状況になっており、大規模土砂災害の場合、行政だけでは限界があり、地域の自主防災組織や福祉関係組織等、地域の支援者とともに対応する必要がある。

8.人員・物資・技術等の支援
広範囲の災害の場合や土砂災害、洪水災害、道路災害が輻輳して発生する場合などでは、担当する職員が不足することが予想され、現地状況の確認などについては、自治会や自主防災組織などとの連携による対応が必要である。場合によっては、都道府県や近隣市町村からの人材や資機材の投入等の支援も考えられ、そのための仕組みを検討する必要がある。

9.職員や消防団員、住民等の防災知識向上
 市町村職員や消防団員等の防災関係者及び住民の土砂災害に対する防災力を向上させるため、日頃から講習会や訓練へ参加させる必要がある。これらの講習会や訓練は、都道府県や国の出先機関などと連携して実施する必要がある。
 また、小中学生の防災教育に力を注ぐことも地域の防災意識の向上、ひいては地域防災力の向上に繋がるものと考えられる。

平成24年4月11日

社団法人 全国治水砂防協会






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