災害に強いまちづくりを目指して

大谷 範雄(Norio Ooya,栃木県那須烏山市長)

「砂防と治水213号」(2013年6月発行)より



1.はじめに


 東日本大渓災から2年が経過し,死者2名,負傷者7名,全壊66棟,半壊135棟,一部損壊3,151棟(平成25年4月30日現在)の被害を受けた本市において,震災の傷跡も目立たなくなりました。 しかし市における復旧対策は公共施設の大規模な工事が一部残っており,これからは,将来を見据えた市のビジョンを策定しての対応になり,時聞をかけて進めて行く必要があります。
 また,本市では,災害救助法が適用になり,県へ応急仮設住宅の建設を依頼し,平成23年5月9日に20棟67人が入居しました。 入居している被災者の生活再建支援については,市では支緩相談会を定期的に開催するとともに,災害ボランテイア組織の支援活動も県内の多くの団体から戴いた結果, 被災入居者全世帯が平成24年度中に新たな居住の場を確保することができ,平成25年5月8日をもって閉鎖することになりました。
これからは,地震,風水害, 原子力事故などに想定される災害に迅速,確実に対応できるための複数の情報伝達手段の構築と,地域防災力の強化を図ることが, 市では, 行政上最も重要な施策の一つとして進めてまいります。



2.那須烏山市の概要

 那須烏山市は,平成17(2005)年10月1日に那須郡南那須町と同郡鳥山町が合併し誕生しました。
本市は,栃木県の東部に位置し,西は高根沢町,北はさくら市,那珂川町,南は市貝町,茂木町,東は茨城県常陵大宮市と接する県境にあり,総面積は174.42kuで県全体の2.7%を有しています。
 首都東京から約110km,県都宇都宮から約30km離れ,東北,常磐両自動車道とも,それぞれ約50qの距離にあります。 道路は,国道2本と主要地方道7本があり,国道293号は市の北部を東西に,国道294号は市の中心部を南北に走っています。
特に,国道294号と県道宇都宮烏山線が交差する市内の中心部は,栃木県東部の交通の要所となっています。
 鉄道は,JR烏山線が市内を東西に走り,市内に5つの駅があり,烏山駅から宇都宮へ約50分で結ばれています。
地勢は,八溝山系に属し,那珂川が平野部を貫流しています。 那珂川右岸には丘陵地帯が形成され,丘陵を縫うように荒川や江川などの大小河川が貫流しています。
気候は,典型的な内陸型気候で,年間平均気温は13度前後,年間降水量は約1,300mmで寒暖の差は大きいものの,全体的には温暖で生活しやすい地域といえます。
 本市の人口は,平成25年4月1日現在29,235人世帯数10,625世帯です。 人口は減少傾向にあり,0〜14歳人口の減少, 65歳以上人口の増加,1世帯あたり人員の低下, こういった少子化,高齢化,核家族化の傾向が現れています。 特に, 高齢化率29.1%と急激に高齢化が進んでおりますことから,災害時における災害時要援護者対策は,重要な課題と位置付けています。



3.土砂災害対策

 本市は,緑の山々,清らかな河川,肥沃な大地,豊かな自然環境に恵まれた歴史と文化が息づく「活力とやすらぎの交流文化都市」といわれるように,河川の浸食による河岸段丘や八溝山系の急峻な山並みが急傾斜地を多く形成しています。
 土石流・急傾斜地崩壊,地すべりの危険箇所として指定されている, 土砂災災害警戒区域は本市内に410箇所あります。 特に,那珂川東部地区においては,地域の居住空間が殆ど地域指定されている地区もあり,避難路が指定できない,避難場所が土砂災害警戒区域内に入ってしまっている等の問題が発生しており,地域ごとに細かい防災計画を作成する必要が出てきております。 避難所へ避難した方がかえって危険である状況になってしまうのではないかとの意見も出ております。
 本市では,平成24年度に土砂災害ハザードマップを作成しました。 平成21年度作成したハザードマップが25,000分の1の縮尺で市内全体をA0版(118cm x 83cm) 1枚で表示していましたが, 小さくてわかりずらいとの指摘もあり,今回は,地域ごとに10,000分の1の縮尺とし, A3版サイズで作成し市民へ配布しました。
各自主防災組織においては,地域における防災計画を協議するために大いに活用されるものと期待されます。 また, 避難場所については,那須鳥山市地域防災計画において指定している避難場所は,遠距離であったり,途中に土砂災害警戒区域が入っていたりして必ずしも安全であるとは限らないことが問題点として出て来ている地域もあり,各自主防災組織単位で独自に1次避難所を設け,そこで安否を確認の上,指定避難場所へ移動するか,とどまるか判断するなど,地域ごとに異なる状況を十分勘案しての行動計画を策定する地域が出てきました。



4.自主防災組織の活性化対策

 東日本大震災時の反省として,被害の拡大を防ぐには,国や県,及び市の対応(公助)だけでは限界があり,迅速に実効性のある対策をとることが難しいことは,明白になりました。
 自分のことは自分の努力によって守る(自助)とともに, 普段から顔を合わせている地域や近隣の人々が集まって,互いに協力し合いながら,防災活動に組織的に取り組むこと(共助) が必要であることを痛感しました。 また,「自助」「共助」「公助」が有機的につながることにより,被害の軽減を図ることが出来ることも非常に重要なことであります。
 特に地域で協力し合う体制や活動(共助)は,自主防災組織が担うべき活動の中核になります。
 自主防災組織は, 「自分たちの地域は自分たちで守る」という自覚,連帯感に基づいて,自主的に結成する組織であり,災害による被害を防止し,軽減するための活動を行う組織であります。 災害対策の最も基本となる法律である災害対策基本法においては,「住民の隣保協同の精神に基づく自発的な防災組織」(第5条第2項)として,市町村がその充実に努めなければならない旨規定されています。
 東日本大震災以降,本市においては,自主防災組織の育成を進めるため,自主防災活動に関するアンケート調査を平成25年3月に市内全部の102自治会を対象に実施しました。
 結果は,既に自主防災組織が組織化されているのは8自治会で, 自治会組織内に「防災斑」を設置しているのが3自治会でした。また,自主防災組織化の必要性は75%の自治会で必要と認識しており,自主防災組織を組織化する適正な範囲は,自治会単位が64自治会,連合自治会単位(大字単位)が29自治会との回答でした。 緊急連絡網の整備状況は, 46自治会が整備済み, 52自治会が未整備でした。 災害時要援護者の把握状況は,「全て把握している」「大体把握している」を合わせると79自治会になりますが,「自治会未加入者等の把援に苦労している」との回答もありました。
 自主防災組織の活動は,災害の種別,地域の自然的,社会的条件,住民の意識等が,地域によって様々であることから,活動の具体的範囲及び内容を画一化することは困難であります。 地域の実情に応じた組織の結成を進めるために,地域の懇談会等に出向いて働きかけをしておりますが中々各地域での自主防災組織組織化の取り組みが活性化しません。 その要因として,自主防災組織の活動内容や組織化に向けての規約制定,防災計画作成など説明するとあまりの事務量の多さや煩雑さが浮かんでしまい中々腰を上げてくれないことが多々あります。
 とにかく,避難訓練や防災の話し合いを開催してきっかけを作っていただければ,市民の意識も上がって取り組みがレールに乗るはずであると説明しています。 市からの押し付けの組織では,決して災害時に機能しませんので粘り強い働きかけが必要であると痛感しています。



5.地域防災力強化のための新たな取り組み

 東日本大震災を経験して,市民からの防災に対する自発的な取り組みが出てきました。 特に,防災対策経験者である市の消防団員,消防署員及び市職員のOBたちが,自主防災組織育成のかじ取り役になれるよう,防災に関する研鑽を積んでいこうという目的で,平成25年4月14日に那須烏山市消防防災会が組織されました。 会員50名で既に栃木県防災士会から講師を派遣していただき「防災対策に取り組む心構え」を研修しました。 今後は,気象に関すること,土砂災害に関すること,災害ボランティアに関すること等の研修を自治会長や現役消防団員と連携を図り実施して行くことで,地域防災力の向上に大きな力になると期待されます。
 また,災害ボランティア活動についても,東日本大震災発生後,東北地方の被災地でボランテイアバスの運行・炊き出しや泥かきなど各自でボランティア活動を行っていた市民有志が,自発的に災害ボランティア組織を結成しました。
 平成23年7月1日に結成された「那須鳥山市災害ボランティア チーム龍JIN」はボランティアバスの催行,個人団体が各自でボランティアできるようにする自己完結型の活動マニュアルの作成,メンバーらの報告会や交流会による活動ノウハウの共有化に取り組んでいます。 当初の災害ボランテイア活動は,被災した家の泥のかきだしが中心でしたが,現在は,宮城県石巻市の牡鹿半島を中心に漁業再生への取り組み支援,高齢者や子どもたちとの交流,買い物支援などを積極的に行っています。 本市に設置された応急仮設住宅の入居者支援にも,支援する団体の中心となり多くのイベントを開催し,被災者の復興への前向きな気持ちを引き出す原動力になりました。 また,東日本大震災以降,水害等も頻発しており,その度に,災害ボランティア活動を行っていただいております。
小中高校生等への防災ボランティア意識向上のための講習会なとも取り組んでおり,災害ボランティア活動の普及拡大に大きな力となっています。
震災で大きな被害を受けた本市でありますが,このような,地域防災力の向上を図ろうという市民の大きなカは,市の活性化に結びつくものと期待されます。



土砂災害の解消を目指して〜市町村長の声〜