平成24年3月発生の「大窪地区」の地すべりへの対応について

牧野 百男(Hyakuo Makino,福井県鯖江市長)

「砂防と治水216号」(2013年12月発行)より

1.鯖江市の概要

 鯖江市は,福井県のほぼ中央に位置する面積84.75㎢,人口約6万9千人のコンパクトな地方都市であります。
市の東部は,三方が山地に囲まれた盆地を有し,緑豊かな農村風景が広がる中山間地域で,農業,林業が盛んな地域であります。また,西部は県内最大の穀倉地帯である越前平野の一角を担う水田地帯で,中央部は鯖江藩7代藩主「間部詮勝」公が領民憩いの場として開園した西山公園(日本の歴史公園百選)を中心とする丘陵地帯が広がり,豊かな自然に満ち溢れた地域であります。
 市の生活環境は,全国の都市を対象に東洋経済新報社が実施している「住みよさランキング」においても,毎年,上位の評価を得ており,潤いのある生活環境を合わせ持つ地域であります。
 こうした豊かな自然環境と生活環境の中,100年以上の歴史を有し国内の約9割の生産量を誇る眼鏡産業,約1500年の歴史を有し業務用漆器の全国シェア約8割を誇る漆器産業,繊維王国福井の中核を担う繊維産業の三大地場産業を核とした伝統産業の息づく「ものづくりのまち」として着実に発展してきています。
 さらにIT 施策では,電子行政の新たな手法として,行政機関がウェブを活用して積極的にデータの提供や収集を行うことを通じて,行政への住民参加や官民協働の公共サービスの提供を可能とし,促進していこうとする「オープンガバメント」の実現に向け,2011年度よりホームページで市が所有する情報を多方面で利用できるXML,RDF形式で積極的に公開する“データシティ鯖江”を推進し,IT のまち鯖江を全国に発信しています。 
 
 
2.地すべりの状況

 今回,地すべりが発生した「大窪地区」は,鯖江市の東部で越前漆器産業が盛んな河和田地区の西袋町に位置しています。
 「大窪地区」は,昭和51年に地すべりが発生し,昭和52年6月に地すべり防止区域に指定されています。当時,対策工事として井桁ブロック,横ボーリング,表面排水工,排土工が施工され,平成23年3月には,土砂災害警戒区域に指定され現在に至っています。
 本地区の地すべりは,平成24年3月11日に地元の方から「本定寺の裏山に亀裂がある」との連絡により確認されました。裏山を調査した結果,標高95~99m の頭部において, 段差1.5m 以上,深さ2.0m 以上の明瞭な亀裂が,50m に渡り連続して生じていました。
さらに,末端部では,既設切土の法尻部に設置されている排水路の破損や閉塞が確認され,湧水も確認されました。
 発生直後に,県,市,学識経験者による調査が行われ,観測方法や計測機器の設置場所,警戒避難体制の基準や伝達方法および応急対策について協議しました。
 地すべりの原因としては,2月18日に60㎝あった積雪が,3月5日には0㎝になったことが近隣の積雪深観測所で確認されたことから,2月中旬から3月上旬にかけて雪が一気に解け,融雪水が地すべりを誘発したと推測されています。
     
 

3.警戒避難体制の整備

 地すべりの末端下流部に人家が近接しており,地すべりの活動により土塊が流出した場合,甚大な被害が発生することが想定されるため,福井県により,地表の移動量を観測するための装置と一定の移動量が観測された時に自動で通報するシステムが構築されました。観測装置としては,伸縮計,水位計,パイプ歪計が3カ所設置され,通報装置としては,地域住民へ通報するための「パトランプ・サイレン」,区の代表者,市,土木事務所,工事関係者へ通報するための「警報メール配信装置」が設置されました。
 警戒避難体制としては,地表移動量に応じた警戒・避難の基準を決め,地元住民のとるべき行動,工事関係者がとるべき行動および解除基準を決めました。
 設置後,被害想定区域内の住民に対しての説明会を開催し,地すべりの現状,観測体制,警戒避難体制,今後の対策工事について説明を行い,避難場所についても確認を行いました。
 
 

4.対策工の実施

 調査,設計業務が行われている間(恒久対策工事前)に,梅雨や台風による集中豪雨により地すべりが再活動する恐れがあることから,応急対策として,西側斜面から地下水を排除するための横ボーリング4本が福井県により施工されました。
 恒久対策としては,保全人家が近接していることや工事中の施工性などを考慮し,抑制工と抑止工を組み合わせた工法が検討され,斜面中央部から横ボーリング11本(L =50.5m)と受圧板付のアンカー工88本(L =22.9~37.3m)が施工されることになりました。
 現在,福井県により国の災害関連緊急地すべり対策事業の採択を受け,平成24年10月から対策工が実施されております。平成25年10月末現在,横ボーリングが完成し,降雪が本格的に始まる12月末までに,アンカー工を施工し,工事を終える予定です。
 
5.今後の対応

 対策工事着手以降の平成24年12月31日から平成25年1月4日にかけて,地すべりの頭部で2.5㎜(5日間累積)の移動が観測されましたが,その後に施工された横ボーリングにより沈静化し,それ以降は,幸いにして大きな移動は確認されませんでした。
 現在,地すべりは小康状態でありますが,今後の融雪水や異常降雨等により再び活動する恐れがあることや実施された対策工の効果を確認するために,福井県により引き続き移動量の観測が行われるとともに,鯖江市としても警戒避難体制を継続していくこととしています。
 
6.おわりに
 今回,発生した地すべりでは,国,福井県,地元,並びに工事関係者の皆様のご尽力により,地すべりの大きな活動を阻止し,住民の生命,財産を守ることができました。ここに改めて深く感謝を申し上げます。
 鯖江市では,平成24年4月に,近年多発する大規模な自然災害(土砂災害,洪水,地震)に対し,市民が自らの判断で行動できるようにするため,従来のハザードマップに一歩踏み込んだ「どの情報をもとにいつ逃げるのか(逃げ時)」「どう安全にどの道で逃げるのか(逃げ道)」「どこへ逃げるのか(逃げ場所)」を明確にした「災害時サポートガイドブック」を作成し全戸配布しております。
 さらに災害時に速やかに避難所を開設し運営できるようにするための「避難所管理・運営マニュアル」も作成し全避難所に配布しおります。
 今後とも,土砂災害の兆候を住民の協力を得ながら早期に発見し,大きな被害がでる前に警戒避難体制の構築や対策工の実施ができるように努力してまいりますので,ご指導ご支援を賜りますようお願い申し上げます。

 
   
 


土砂災害の解消を目指して~市町村長の声~