座談会「土砂災害の解消を目指して―平成16年の災害を振り返って―」(3)

■情報提供のあり方
古賀対策官 国とか県に対して,情報の提供のあり方も含めて,ご注文なり,ご意見がございましたらどうぞ。

馬場栃尾市長 土砂災害防止法の特別警戒区域(レッドゾーン)については,情報が来れば,そういう情報をもとにして避難勧告を出した方がいいなとか,まだこの程度であれば,特別でない普通の警戒区域はいいとか,そういう判断基準というものがある程度はっきりしてくると思います。それで,住民が,いや,そんなことを言っても,心配ないという,これは自己判断ですから,自己責任だと思います。行政としては,地域指定がかかれば,そこに対しては,今おっしゃったような色々な情報をいただければ,それらの判断に基づいて避難勧告は発令するというすっきりした形のものを確立していただきたいなというのを私は希望しています。

近藤部長 土砂災害防止法に基づいてレッドゾーン,イエローゾーンとして法指定すると,そこについては法律上,警戒避難体制を定める義務が発生します。指定は,まだ全国で4,000カ所ぐらいしか至っていませんが,今,調査している最中ですので,これから指定されると思います。全国的には,何十万箇所という形でふやしていかなければならないわけでして。そういった法律の区域指定だけではなくて,今まで積み重ねてきた調査で,防災マップで危険な箇所というのは大体わかっています。法律指定には時間がかかるので,そういう危険なところに早く警戒情報が行くようにしていかなければと思っています。

尾上宮川村長 宮津市長さんが言われました雨量観測所ですが,宮川村には7カ所ありますが,広範な地域ですので,メッシュを小さくしてほしいなと思います。今回,私どももこの災害以後,雨量計をそれぞれの現地対策班ごとに設置しました。土壌雨量指数を量れるものも設置します。現地班が例えそこにいたとしても,瞬時に状況がわからない。というのは,国や県あるいは気象台から来る情報が,まずは役場の本庁へ来る。ですので,なかなか現地に入っている対策班では情報がつかみにくい。そういう設備の整備というのも必要になると思います。
 判断を少しでも早くしなくてはならないということで,雨量や土壌雨量指数を把握できるもの,あるいは現地の状況,また,住民からの情報,そのようなものを,判断を早くできるような形で情報を上げることが大切だと思います。また,その関係機関からの情報提供というのがもう少し密になってくれば,より精度が上がってくると思います。

有塚美山町長 今年,梅雨が非常に遅いということで,NHK などの報道機関が,昨年の豪雨のときに似ているということで,福井県では美山町が豪雨にまた襲われる可能性があるという報道が流れたんです。それで,町民が混乱いたしまして,そういう問い合わせが非常に多くありました。だから,そういう気象の情報というのは非常に難しい。私どもも,現地の情報を最優先にしなければしようがないなと思っています。
 私は,まだ実情を把握していないのですが,昨日の新聞記事に,福井県が地域防災計画の作成に当たって,避難勧告指示のほかに避難準備情報というのを導入しようと。これは,災害時要援護者に早目に対応を促すためということで。これは大変時宜を得た施策じゃないかなと思います。災害時に高齢者や障害者ら要援護者の避難を円滑に進めるため,各市町村で発令する避難勧告,避難指示に加え,新たに避難準備情報というのを発令区分に設ける方針を決めたようです。これからの高齢化社会,特に私どものところは身体障害者の施設などもありますので,こういうものに対しては大変いい施策じゃないかということで,ご紹介いたしました。


■災害時要援護者対応
古賀対策官
 美山町長さんの方から話がありました災害時要援護者の対応の話を進めたいと思います。昨年,62名もの尊い人命が失われました。そのうち64%が災害時要援護者の方々だったわけです。
 砂防部局におきましては,今年の7月1日,土砂災害防止法の一部を改正しまして,土砂災害警戒区域内に災害時要援護者が利用される施設がある場合は,土砂災害情報等の伝達方法を市町村地域防災計画書にはっきりと定めるという改正がなされております。

馬場栃尾市長 これは私どもの栃尾市のことではなく,それも土砂災害ではないのですが,15名の犠牲者が昨年の7月13日に出ました。そのうちの約半数近くは家庭の中で溺れて亡くなりました。結局,2階に上がれなくて,自分の家で逃げられないで,寝たきりであるとか,足が不自由だとか。昼間,家庭に残っているのは,お年寄りとか子どもとか,そういう方が比較的多いと,どうしても避難するのに時間がかかる。
 長岡市と三条市が,今年の先般の雨のときに準備情報を発令して,非常に注目を浴びました。前の教訓を生かして,お年寄りはその準備情報に基づいて避難したということです。ぜひこの辺は配慮を加える必要があるのではないか。社会構造の変化の中で,どうしても施設だけではなく,一般の家庭の中にも,弱者に対する従来とは違った制度を入れていく必要があると思います。

近藤部長 避難準備情報を設置しようということになったのは,栃尾市長さんが言われたように,去年の新潟豪雨災害ではお年寄りの方の犠牲者が非常に多かった。逃げ切れない,自宅の中で亡くなられた方が非常に多かったということで,これが非常にショッキングな出来事だったわけです。従来ですと,洪水で亡くなられるというのはあまりなかったのですが,昨今の急激な出水で一気に破堤すると,それこそ避難勧告の前に,被害にあうこともあって,特に災害時要援護者の方は逃げることが困難なので,早めに避難できるように,この避難準備情報というのを設けることになったわけです。
 水位である程度予測できるところは,これはこれなりにある程度の精度でもってやれますが,土砂災害となると,目に見えないわけですし,雨量で判断せざるを得ない。土砂災害危険箇所がどこかで一固まりになっているところならいいけれども,大抵のところはばらばらとなっているところが多い。しかも中山間地に行けばかなり高齢化率が高いこともあり,早目の段階でお年寄りの方,独居老人の方を安全なところに避難誘導しなければならないわけで,それを誰がやるかということの方が非常に難しい。それをどういう形で支援していくのかというところが,土砂災害としての難しさではないかと思っています。これはぜひ市町村長さん方にも地域と一緒になって考えていただきたい。

平野大野原町長 私どもの方には老人施設があるので,寝たきりの人は普通の状態では避難できない。早目に施設に町の方から行って,施設から運んであげる。普通の車では行けないところもあるし,入っている人はいいのですが,施設に入る前の寝たきりのお年寄りというのは,家の方にだれがおるのか,早目に町に連絡するなり,その施設に言ってくれと。早目だったら施設まで迎えに行く。遅くなったら,施設自体が混乱するので,そういう人は早目の対応をしてくれと,そういう風に指導しております。

コ田宮津市長 避難マニュアルでは,避難の順序は,まず自主避難の呼びかけ,避難勧告,避難指示,こういう段階を設定しています。災害時要援護者に対しては,終始助け合いというか,コミュニティ,近所の人は大体わかるわけですから,何とかそういう人たちを助け合って早目に避難させてくれということも,日頃から言っておく。それぞれの自治会単位にも説明をしていこうと思っていますので,再度,そういう点について訴えていきたいと思います。
 それから,避難ということになると,早目,安全でやらなきゃいけないと思います。多少空振りがあっても,早目に避難勧告を出していくことで,要援護者も時間的な余裕ができてくる,その辺が一番ポイントになるのかなと思っています。早目の避難勧告までいかなくても,情報をちゃんと流すということが一番大事であると思っています。あとは,自主的な判断を期待する。そこに尽きるかなと思います。避難勧告しても,避難しない人も相当いますので,この辺は日頃の啓発もありますが,最後は自主的に考えてもらう。とにかく隣近所で助け合うということを主に訴えていきたいと思っています。


■日頃のコミュニケーション
古賀対策官
 視点を変えまして,災害時にいかに的確に住民の方々が避難されるかは,常日頃からの住民とのコミュニケーションが重要と思います。また,ハザードマップ等,日頃からの情報の提供も大事です。今回の土砂災害防止法の改正で,イエローゾーンについては,災害時要援護者に土砂災害情報の伝達方法,避難場所などをハザードマップ等により周知することになりました。日頃からの情報の提供とかコミュニケーションのあり方等について,いかがでしょうか。

コ田宮津市長 土砂災害危険箇所の分類で,Tは保全対象が5戸以上,Uは1戸から4戸,Vは現在保全対象が無くても将来家が貼りつくであろう箇所としていますが,TとUを分類するのはどうかなと,思います。というのは,避難勧告でも,1世帯だから放っておいたらいいということは,行政としてできないわけですから,1戸であろうと,5戸であろうと,同じような基準でやるべきだと思いますので,ここで世帯数でTとUと区分するのは,行政としてどうなのかなと思いますが。

近藤部長 従来は人家5戸以上のところを全国点検して,そういったところは情報提供していきましょうということで,取り組んできましたが,土砂災害防止法では,人家が5戸であろうと1戸であろうと一緒なんですね。人の命は同じであるということで,その法律ができてからは,従来の5戸未満のところも調べる,あるいはこのまま放置すれば,そこは住宅地になりますよというところまで調べるという形で調べてきているので,情報伝達においてはTもUも一緒です。

コ田宮津市長 ぜひそうでないと,ここで区分すると余り感じがよくないなという気がしますので。Vについては,将来の危険箇所ですからいいと思いますが。

馬場栃尾市長 従来,私どもの防災訓練では,市街地を中心とする人口密度の濃いところで行うわけです。1年に何回もできませんから。そういうところは,土砂災害の心配のない地域です。本当に土砂災害の心配なところは,急傾斜地のある山村の小さい集落。そういうところでも,ある程度日頃の訓練と,土砂災害に対する知識の徹底というものを根気よく住民と一緒になってやり,最終的には町内会長さんとかを中心として避難するとか,そういうことをやっていくことが大事だと思います。すべてに行政が命令を出したり,何をしてということまでいかない,日頃のコミュニティの中でやっていただくことが一番効果のあることではないかと私は思います。

有塚美山町長 実は,7月18日が昨年の災害から1年になるので,18日から1週間を防災週間と銘打ちまして,県知事にもおいでいただき,美山町で防災フォーラムとか体験発表とか訓練,役場の職員の招集訓練を含めて,避難訓練もという具合に計画を立てています。今,各地区に行って,その説明をしている最中で,豪雨を忘れないで,今後もそれを教訓にしていこうという計画を立てているところです。幼稚園児とか,小さな子どもに対しての防災センターの見学とかも含めて計画しているところです。そして,ボランティアの方もおいでいただいて,劇とかそんなこともやっていただいていますので,その成果を期待したいと思っています。

平野大野原町長 今までもハザードマップは作っていたのですが,今回の災害を教訓に,もう一度見直しています。全戸の住民に配っても,どこまで皆がそれを見てくれるかわからないのが一番問題だと思うので,災害が起きたような山間部は,自主防災組織が100%できたので,自主防災組織を中心としてハザードマップをつくり,今後の対応をどうするかということは,自主防災組織ごとに対応していかないとだめだと思います。自治会を通して個人個人に配ったのでは,どこまで見てくれるかわからないので。自主防災組織ごとにやっていく計画をしています。

尾上宮川村長 確かに,ハザードマップというのをつくって配布しても,住民意識としては,それを配られて見たときに,それがどうしたんやという程度だと思うんですね。ですので,そういう中で意識を高めていかなければならない部分もあると思うのですが,住民の皆さんそのものが実際に訓練などして動いてみるということが非常に大事じゃないかと思います。その際に,だれがどのような役割を果たすのか。災害時要援護者の人たちも,どのような形で早目に避難させるのかとか,色々な課題などが出てくるだろうと思います。私ども,そういうことはやっていませんけれども,ぜひともそういうことをだれかコーディネートしてくれる人に指導していただきながら,実際の訓練,練習というものをふだんから充実させていかねばならないと思っています。

近藤部長 今回,災害を受けられたところは,その災害を住民が中心になって,あるいは自主防災組織をつくったりしながら,きちっとつないでいく,伝承していくというのが非常に大事だと思います。美山町で計画されている行事は,とても大事なことですから,今後も続けていただければと思います。
 土砂災害に関することは砂防部局あるいは消防・防災部局が連携して,例えばハザードマップをつくったり,あるいは雨量情報を市町村に提供しています。
 しかし,結局それを使う側が十分理解していないことがあります。例えば,市町村役場の方でも,防災担当の方が替わると,どうしても土砂災害に対する意識は薄れる。雨が降ったときは,平地部の洪水の方が中心になり,土砂災害が起こらなければそのままになってしまう。土砂災害危険箇所がどういうところに分布しているのか,どういう現象なんだろうか,どのぐらいの雨のときに注意しなければならないのかといった基本的なところは,市町村の防災担当の方も,人が替わろうと,トレーニングしてもらいたい。
 そして,同様に,土砂災害危険箇所の住民の方々にもわかってもらう,あるいは一緒になって考えてもらっておく。ハザードマップづくりだとか,基準雨量をどうしたらいいかというのも,その地域の方々あるいは自主防災組織を通じて,一緒に考えて納得した上で運用していく,あるいはそれを伝承していくのが一番生きた形になると私も思っています。


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