座談会「土砂災害の解消を目指して―平成16年の災害を振り返って―」(4)

■市町村合併と防災
古賀対策官
 現在,市町村合併が進んでいます。市町村そのものの規模が,合併すると当然大きくなるわけで,今までのようなきめ細かい防災に関する対応とかができるかどうか懸念されるわけです。そういった動きの中で,今までどおりきめ細かい対応ができるためには,どういう方策があるのか,そのあたりご意見をいただきたいと思います。

平野大野原町長 私ども,1市2町になりまして,6万6,000人ぐらいの市になります。いざ,災害となったら,昼間であれば,役場の職員が中心になってこれに当たっておるのが現状です。消防団も昼間勤めていて,家におりませんので,中心になるのは役場であり,その組織をつくっています。しかし対応する職員の半数ぐらいが本市の観音寺市へ行くので,あとの半数しか残らない。大野原で災害がおきたらどうするか,それはすぐに帰しますというのですが,ばらけてしまうので,戻ってきたときにはどうなるのかという,そこまできちっと詰めていかないと。市を中心としてどういうふうな組織が必要であるかということは,まだできていません。早くしないと。

古賀対策官 美山町の場合は,福井市と合併されるわけで,福井市と美山町,人口から行くと大分差があると思いますが,大きいところと合併されるわけですね。

有塚美山町長 人口比は1対50です。ほかの市町村もありますが,私どもはこれは全然心配していません。消防も防犯もすでに福井市と同じ区域ですので,何ら今後変わることはないと思っています。そして,既に,この4月1日に私どもの防災担当をやっていた職員を1人,福井市へ派遣して,合併した市町村における防災対策ということで,ハザードマップを中心とした研究をやっています。もうすぐ結論が出るだろうと。もう既に合併後の新しい市の防災を検討しているところです。

尾上宮川村長 現在の宮川村は,合併しますと支所になってしまいます。ある一定の職員が本庁に行ってしまうということで,今の職員状況から多少手薄な状況になります。今も宮川村の災害対策本部の態勢表を作成して,職員個々に警戒態勢あるいは非常態勢ということで,きちんと張りつけております。ですので,今度新しく大台町という名前になりますが,そういう態勢に入ったら,即,その職員が対応できます。ですので,今のような態勢で行けると思います。
 ただ,長い間には,異動も出てきますので,現在の大台町の職員が宮川村を見たときに,地理的な不案内とか,どこに誰がいるのかとか,そういったような状況はよくわからないということが出てくると思います。それは時間経過の中で解決していくと思います。当面は,そんなに変わりなく行けると思っています。

大久保理事長 協会という立場でお話をさせてもらいます。合併が進んでいくと,例えば美山町は,大福井市と合併するわけです。そのときに,大きい福井市ができた場合に,周辺地域の山間地での土砂災害対策の整備がおろそかにならないか。人口が多いところへの公共投資がされて,人口の少ない中山間地は置いていかれるようにならないかと思うわけです。
 防災という観点,例えば施設を整備して災害を防ぐというハード対策のほかに,ソフト面での対応も停滞しないかという心配を私はしています。住民の声を行政に反映させないといけない,そのときに中山間地の住民の声をどう反映していくか,合併した後の自治体の中で,それをどう行政に生かしていくかというシステムが大事かなと思います。宮川村では,既に支所があるということですから,合併特例法では地域自治区というのをつくることができるとうたってありますけれども,その支所や地域自治区で地域の住民の声は把握して行政に反映させることができると思います。しかし,これから,そういうものができて,土砂災害の観点からも,地域自治区なり支所でその地域の住民の声をちゃんと行政に反映していく仕組みがつくっていければと思っています。
 それから,合併いたしますと,今までは1つの村で少ない職員で非常に幅の広い業務をされておられたと思いますが,合併して自治体の規模が大きくなると,職員もだんだんと専門的に分化していくんではないか,もちろん扱う業務の一つ一つの量がふえてきますから,そういう意味で職員の専門分化というのが起こってくるかと思います。当然のことながら,従来にも増して,職員の政策立案能力とか,あるいはある特定分野の仕事をこなしていく能力とか力とかがだんだん必要になってくる。土砂災害防止という観点からは,砂防についての知識なり情報が市町村職員にも必要になってくると思っていまして,砂防協会でもそれを手伝える市町村職員の研修というのを新たに始めています。
 平成11年3月には市町村数が3,232であったのが,今年7月1日現在では2,352に減っていまして,880減ったわけです。来年3月31日には1,822になるということで,また500ぐらい減っていく。大体,砂防協会の会員は,全国の市町村数の85%ぐらいが会員ですが,当然のことながら市町村数の減少に伴って会員数が減っていきます。
 私は,市町村が減っていっても,砂防協会の構成はずっと市町村で構成していきたいと思っています。また,協会には賛助会員制度があり,砂防事業の推進に色々活動している組織とか,あるいは砂防協会の活動に賛助する人たちに賛助会員に入っていただいていますが,今の賛助会員は,直轄事業をやっている区域の期成同盟会だけです。例えば防災について,その地域で努力しておられる団体,一例としてNPO法人神通砂防。これは岐阜県の上宝村が合併でなくなりましたが,この地域の砂防・防災を応援していこうという団体ですが,賛助会員にお入りいただきました。それから,白山麓地域安全ネットワークという団体があります。これは,石川県の白山山麓の合併前の町村の人たちでつくっている,その地域の安全を色々考えて,それを支援していこうという組織でありますが,こういうようなものがこれからふえてくると思います。砂防協会活動に参加していただいて,地域の防災を考えていただける場にしていただきたいと思っています。
 それから,支所ができたら,例えば支所と自治体の中で,当然,行政ベースで色々な連絡が取り合われますけれども,そういう支所を横断的に結ぶネットワークのようなものをつくられて,災害の情報交換とかをやれば非常に有効かなと思います。これも砂防協会の活動に参画していただいて,一緒に行動できればいいかなということを考えていまして,市町村合併に伴って会員が減っていくという問題を抱えながら,あるいはこれを機会に地域の防災力を高める工夫,地域の防災を考えることを砂防協会はさらに充実させていきたいと思っています。
 砂防協会は設立されて70年になりますが,もともと設立のときの理念は,住民が災害を防ぐために砂防が必要だということを,市町村長を介して,それを行政に伝える役割を砂防協会が担ってきたわけです。そういう意味で,今まで市町村長さんたちと砂防協会は本当に強い連携をとってきましたが,これはぜひ維持していきたいと思っています。合併が進みますと,1つの自治体の規模が大きくなり,市町村長さんは非常に多忙になって,砂防となかなかつき合ってくれないのかなと心配しています。でも,私は,砂防行政を進めていく上には,市町村長さん本人の今日みたいな色々なお話を聞かせていただく,あるいは住民の意向を体して,色々なことを行政に伝えていただく,そういうことが大事かと思っており,市町村長さん本人との連携も砂防協会は持っていきたいと思っています。
 本部や県の各支部の総会や促進大会などにも,やはり市町村長さん本人に出席していただくことによって,私は防災対策の生の声が行政に伝えられるかなと思っています。

近藤部長 合併によって行政単位が非常に広くなることによって,土砂災害,中山間地の情報収集,あるいは緊急時の対応も含めて,そういったものがレベルダウンにならないようにしていただきたい。きめ細かくそういう情報が入って,それでこそソフト対策もできるでしょうし,あるいはハード対策に結びつけることもできるでしょう。
 冒頭,美山町長さんが,町の職員をぜひこの地区から採用してくれという話をされました。そこに一番精通している人が誰もいなくなると,村として,町としてなかなか大変だから,ぜひ採用してほしいというのはよくわかる話であり,災害という,いつ何時やってくるかわからないときに,やはり地元の地勢,地理情勢,どこにだれが住んでいるというぐらいわかっておられる人がおることによって,全然違ってくるわけでしょうから,そういったことが合併によって薄らぐとか,コミュニティの団結が薄らいでいくということのないように希望しています。

■集落の孤立対策
古賀対策官
 昨年,土砂災害によって,交通とか情報の途絶による集落の孤立が発生しました。孤立対策について,砂防行政に対する注文も含めて,ご意見をいただきたいと思います。
 また,大野原町の場合ですが,昨年,避難場所が土石流によって被災したという事例が発生しました。これについても,今後いかにあるべきか,そのあたりご意見をいただきたいと思います。

有塚美山町長 私のところでは,12集落が道路の崩壊やらライフラインの切断で一時孤立状態になった。停電になると,最近の電話は通じません。そして,残念ながら携帯電話の不感地域が多いところです。下味見地区で6集落,上味見地区で6集落,12集落が孤立したのです。また,道路も寸断されて,そこへ行くことができないので,大変困りましたが,そこに孤立している集落の人はよそがどうなっているかわからないものだから,自分のところが一番ひどいという解釈をしているんですね。役場は何しているんだって,通信が通じると怒られる。ボランティアが1人も来ないじゃないか。さあ,道路が通じて行ったら,田んぼが少し冠水していて溝に泥がある程度で,大したことはなかったんです。よその様子を聞いて,悪かったと謝りに来たのですけれども,他の地域の状況がわからないものですから,自分のところが一番ひどいという思いしかないわけです。
 防災無線はありますが,片通報なので,あっちが一生懸命情報を流しても,こちらには通じないということなどがあり,これからの対応かなと思います。しかし,幸いなことに,NTTも電力会社の方も非常に頑張っていただいて,早く復旧したのですが,橋が落ちたものですから行く方法がなく大変困りました。発電機を担いで行くとか,そういう大変な作業をして,孤立を案外早目に解消することができましたが,通信手段がないというのが非常に困りました。携帯電話の不感地域に対する対応がこれから必要だなと思っています。早速,その準備に入っておりますけれども,まだ結論は出ておりません。

尾上宮川村長 私どもの村も,東西に35kmほどあり,その間殆ど山ということで,当然土砂災害というのは起こるべくして起こるということで,覚悟しておらねばならないわけで,それ自体を食いとめることはとてもできない状況です。そのときのためにどうするかと言いますと,孤立生活に備える準備と言いますか,毛布なり飲料水なり,あるいは発電機とか通信手段の確保ということをふだんからやっておかねばならないということで,防災資材庫を集落ごとではないのですが,その地区ごと,旧村単位ぐらいに防災資材庫を置いて,そこから配布できるということで既に配置もしています。あるいは,衛星電話も,相互に通信できるような,現地の災害対策班に備えています。

平野大野原町長 避難場所に入っていたら,そこで被災したのですが,それは町が避難場所として指定した場所ではないんです。一番近い活性化センターに避難するべく,町は指定しているのですが,たまたま2軒の人がそこへ行こうと出かけたら,道が中断されている。行けないのだったら,川の向こうにある集会所の方へ避難している方が安全だから,そこへ避難したんです。河原の向こうだから心配ないと思っていたら,土石流が上から河原を超えて直撃したのです。自主防災組織の判断によって,土石流に遭わないところ,民家でもどこでも構わない,それを日頃相談して想定しておらなかった。今までは土石流が来ることが頭になかったから,自主防災組織で活性化センターへ行けないのであれば,うちの地域としては,土石流にはどこが安全だから,どこへ避難するということを前もって組織で判断しておく必要があったと思います。

近藤部長 昨年の災害で,あちこち道路が通れなくなったというだけでなくて,情報のラインまで寸断されて,全くの孤立状態になってしまったところが目立ちました。その最たるのが新潟県の地震によります山古志村かと思います。この孤立を防ぐにはどうしたらいいかというのは,代替道路を持っておくこと,あるいは情報も代替機能のものを持つというのは,答えとしては簡単ですが,そう簡単にリダンダンシーと言われるような道路を幾つもつくるわけにもいかないし,それには時間とか経費など,色々な問題があると思います。孤立を防止するには,どうしたらいいかという即効性のあるものはなかなか難しい。
 地震等による道路等の寸断で,全国で6万地区ぐらいが孤立すると想定されていますが,防災の拠点となるような役場だとか支所だとか,そういったところが孤立してしまうと,全く指揮命令系統も効かなくなってしまいますので,孤立しないようにするということが,優先度として一番高いと思います。
 それとまた,孤立してしまいますと,避難生活をしていくのに安全な避難場所というのをきちっと確保しておく必要があるでしょう。山間部の村になりますと,どうしても避難場所そのものの選定が難しい。安全で近い避難場所をどう確保していくのか。今,大野原町長さんが言われましたように,そんなにあちこち近場に避難場所はできないわけであり,現在もあるとは言えない。そういうときに,緊急時の一時避難は,地区や自主防災組織で考えて,民家も含めて,そういうところも一時の避難場所にするということが必要という感じがします。
 地域防災計画に避難場所として指定されていたところが,地震や火事を中心に考えた結果,残念ながら洪水でやられる,あるいは裏山の土砂崩れでやられるとかいう危険性を抱えていました。避難場所は洪水とか土砂災害に対しても,基本的に大丈夫であるかのチェックを,担当部局と地元と市町村と一緒になって,やっていただきたいと思います。


■土砂災害の解消に向けて
古賀対策官
 最後に土砂災害の解消に向けての決意をお願いしたいと思います。

馬場栃尾市長 ソフト対策ももちろん大切ですが,やはりハードも大切です。昨年の補助金削減の問題で,砂防事業は削減対象に入っていました。国から地方へという総論は私も賛成です。けれども,物によりけりで,土砂災害とか洪水というものに関しては,国が責任を持って国民の生命・財産を守るために,国が今までどおりきちっとやるという,これだけは貫いて,国民に対して安心と安全を保障してほしい。そして,その中で,ソフトの部分も含めて,自治体もやるべきことはきちっとやっていく。これがお互いの関係だと思いますので,ぜひひとつよろしくお願いしたいと思います。

有塚美山町長 今度の災害で感じたことは,山林のあり方とか役割というものについて非常に不安を持っています。私どもの町は,90%が山でありまして,その中の50%以上が人工林で,しかも杉の木です。それが,今,価格破壊しており,経済林としての役割はほとんどゼロです。そうかと言って,間伐とか,そういうものもしなければだめ。間伐しても,その木を運び出す経費も出てこないということで,間伐材が山に放置されている。間伐している林業家は,まだいいんですが,間伐もしないで山が荒れ放題のところもある。保水の問題もあり,何とかして間伐材を有効利用できるような施策がないものかということについて町を挙げて研究したいと思っています。
 私,よく林野庁には言うのですが,今まで杉の木さえ植えれば,どこへ植えても補助金が出たんです。だから,減反になった田んぼまで杉の木を植えて補助金をもらうというような状況で,林業家は補助金以外の収入はないのです。そういうと行政に対する批判になるんですが,米の場合は,これ以上はつくらないでおきなさいという生産調整をしていますが,植林調整はしていません。どこでも植えさえすれば補助金が出ます。だから,田んぼをつぶしてまで杉の木を植えたというのが美山町の状況です。
 そういう杉の木だらけになった山は,土石流に対しては,広葉樹の林よりも弱いと思っています。保水の面でも弱い。しかも,イノシシとか熊が出てくるのもそのせいであります。山の生態系が変わったということは,これは我々林業家の私有地にそういうものを植えた者の責任,またそれを植えさせた農水省・林野庁の責任だと。これを変えなきゃだめだと思い,私は間伐材の利用促進を考えて,やっと先だって許可をもらったんですが,木質のバイオマスタウンというのもつくろうとしています。間伐材やら製材くずやら,そういうものを中心としたバイオマスの燃料のシンクをつくり,そのエネルギーを用いて工場とかそういうものを誘致しようと。農水省が計画している認可をちょうだいしましたので,実現に向けてこれから頑張っていこうと思っています。これが土石流を防ぐ一つの働きかなと思います。

平野大野原町長 ソフト対策は,自分の命は自分が守るという,これを基本的に考えて,行政と住民,自主防災組織が一体になって取り組んでいかなければいけないのが基本だろうと思います。
 また,国土交通省にお願いでございますが,災害を受けたら,すぐに来て,緊急的にシャベルを入れて,2次災害はそれで防げるんですが,もう一歩災害予防のために先に砂防施設を入れてくれたら災害が起きなかった。それがなかなか日本国土にできないと言えば,それだけですけれども,国の責任において,できるだけ災害が起きる前に堰堤を置いてくれたらと,これはお願いしておきたいと思います。

尾上宮川村長 行政も住民も危機意識の共有をもっと高めていかなければと思います。今も美山町長さんがおっしゃいましたように,私も森林林業のあり方というのは同感です。うちの森林組合も非常な経営危機に立ち至っている,本当に厳しい状況にあるわけで,山の管理をうまくできていない。植えっ放しという山があるんです。日が当たらず,山の地面も草も何も生えずに,雨が降ったら表土が流れて,しまいに根っこが現れて崩れてくる,極端に言えばそういう山が多いわけです。崩れた後を見ますと,根っこが小さいですね。それが人工林ではなく自然林の雑木になりますと,5mも6mも根が張り,石や土を抱えています。そういうような山に戻していく必要があるのではないかと思っています。そういうことで,林野庁さんに特段のお願いをしたいなと思っているところです。
 ほかにも災害後に色々な問題が出てきています。とりわけ本流の宮川に土砂が堆積しています。これは,宮川ダムから下流,三瀬谷ダムに至るまで,約30kmに近い距離ですけれども,平均して3mから4m,土砂が堆積していまして,以前の川の環境というのがすっかり変わってしまいました。そういうことで,川に近い人家が今後の出水によって危険度が増していると思います。それだけ断面が小さくなってきており,土砂の除去もお願いしていますが,三重県財政も厳しい状況ですので,そういうことでも何かお考えいただければ大変ありがたいと思います。

コ田宮津市長 まず,土砂災害の解消ということでございますけれども,解消ということはなくすということですから,まずはハード事業を大いにやってもらわなきゃいかんと思います。治山と治水,これは関連がありますので,山を治めるということについても,横断的に国全体としてぜひともお願いしたいと思います。
 あと,治水の問題ですが,既設砂防堰堤が,土石や倒木の流出をくい止めたということが現実にあるわけです。ただ,急傾斜地というのは,割合その効果が直にわかるんですけれども,土石流に対してはなかなかわからない。大野原町の方からもありましたが,事前に砂防堰堤ということは,当然必要性については認識があると思いますが,住民からの要望というのもなかなか出てこない。砂防堰堤というものがどういう効果を持っているのかということが,なかなかわからない。だから,進めにくいということがあると思います。市町村長がそういう認識を持って,こうした防災対策事業の促進を先頭になっていくという努力をすべきだろうと思います。
 それから,お礼申し上げたいのですが,滝馬の今回の土砂災害後の緊急砂防事業を,いち早く取りかかっていただきました。土石流発生の予備的な渓流についても,将来的に砂防堰堤を築造しようということでご配慮いただいておるようですので,改めてお礼申し上げたい。こうした事業を何とか積極的にやっていただきたいと。しかし,公共事業に対する空気というのはよくなる方向にないので,それは先ほど申し上げたように,地方自治体の市町村長あたりがこの辺はちゃんと言っていくべきと思っています。こうした防災対策事業が後退しないように,必要な部分はやっていくということを肝に銘ずるべきであろうと思います。
 それから, もう一つは, どうしても災害を100%防げるということではありませんので,災害が起きたときに被害を最小限にとどめるという努力をすべきです。そのためには,先ほどから色々お話が出ていますように,まずは住民に対する正確・迅速な情報提供というものがあるべし。それから,これに対する住民の防災意識,例えば土石流に関しても,住民自身が日常的に危険性というのを感知しているのかどうか。そういう状況にあるということは,住民自身がよくわかっているはずです。そうした啓発も含めて,住民自身の防災意識というものを高めていく。その中で自主防災組織等もつくっていくということが大切だろうと思います。
 もう一つは,行政として,避難マニュアルについて,これらを住民にちゃんと,自治会長段階までおろしていこう。それについての意見も聞いていこうと思っていますけれども,そういうことによって,住民全体に避難マニュアルの説明をし,意見を聞く。そして,防災意識の高揚をそれによって図っていきたいと思っています。こうした,まずはハード面で防災対策事業をやって,災害ができるだけ起こらないようにするということと,もう一つは,災害が起こったときに被害を最小限にとどめる。そのための対策というものを真剣に考えていきたい,このように思っています。

近藤部長 貴重なご意見をいただきました。「空振りが出てもいいではないか。早目の避難が大事。」そのためには,「情報を正確に迅速に,色々なところからいただく,あるいは集めるということが大事。」災害情報が人の命を救うことになるわけで,きちっとした災害情報を出せるように,国や県の砂防担当部局も十分勉強して,さらに調査分析しながら,よりいいものが出せるように努力していかなければならないと思っています。
 それと,受ける側にとっても,切迫感が伝わるような,わかりやすい情報にしなければならない。切迫感がないと,色々な情報があちこちから来たって,当事者も大変だから,混沌とした状況の中で,その次の判断がなかなかできない。現にそういうこともありました。だから,わかりやすい,切迫感のある情報をいかにして工夫しながら出していくかということを,我々もまた考えていかなければならないと思っています。
 そしてまた,その受け取った情報が防災の最前線である市町村長さんのところまで上がるように,そういう体制もふだんからつくっていただきたい。国も県も市町村も,あるいは住民も一緒になって,みんな努力しないと,自然災害に対してはなかなか太刀打ちできないわけであり,そういうそれぞれの役割をきちっと保ちながら,そして連携しながらやっていかなければならないと思っています。
 また,市町村合併等で色々な組織が大きく,広くなったりします。あるいは,中山間地の方がどうしてもおざなりになるのではないかという心配もあります。とりわけ人が少なくて,面積だけはたくさんあって,山の手入れもなかなかできないところがさらに遅れるのではないかという心配もあります。そういった心配がないように,みんなで役割分担をしていかなければと思っています。
 また,対策につきましても,予防が基本であることは言うまでもありません。予防の対策が計画的にできるように,また我々も頑張っていきたいと思いますので,これからもご支援をお願いしたいと思います。昨年来から補助制度のあり方が三位一体の議論の中でありました。昨年の議論を通じて,河川,砂防といった国土保全,防災事業というものは,国がきちっと役割を持って,国民の生命・財産を守るのに責任を持ってやるべきだという形で,昨年末,合意されたわけでありますが,まだまだ税源移譲の問題,地方分権のあり方,三位一体については,長期的な検討課題になっています。2期計画においても,補助事業のあり方,防災もすべて検討していくということになっているようであります。今もご意見ありましたように,生命にかかわることは,国が地域によってアンバランスが生じないように,国土全体のバランスを見て進めていくのが大きな役割ではないかと思っています。今後とも,御支援いただければと思っています。

大久保理事長 砂防協会の役割は,とにかく砂防事業の進展のお手伝いをして,土砂災害が地域からなくなっていくように色々な活動をやることであります。1つは,地域の市町村長さん,市町村の方々の声を行政に伝えるというか,もっと具体的に言えば,要望するということが大事な仕事だと思っています。そのためには,私たちは市町村の皆さんと一緒に歩んでいかなければならないと思います。土砂災害をなくしていく基本は,地域を安全にするハードの対策であると思います。だけれども,それだけでは完全を期せないから,警戒避難というソフト面をあわせてやっていく必要があるということです。
 ハード対策をやるには,起こってからの対策も必要だけれども,起こる前の未然の措置というのが大変大事です。これをやるためには,どうしても砂防事業予算を拡充しておかなければならないということで,何とか砂防関係の事業費を拡充し,ハード対策や未然の措置が十分とれるように,協会もそのための活動をやっていきたいと思っています。
 それから,ソフト対策の基本は,まさに住民と行政が一体になってやる,住民の参画がないとできない話ですから,これはまさに地域に密着した仕事でして,市町村長さんたちが日頃から色々ご苦労される問題ではないかと思っています。今日も色々な課題を皆さんからお話ししていただき,砂防協会もその課題の解決に色々お手伝いができればと思っています。
 これからも合併で会員が減ってまいりますが,少数精鋭で砂防協会,全力を出して事業の発展のために努力いたしますので,またよろしくおつき合いのほど,お願い申し上げます。

古賀対策官 どうもありがとうございました。今日は市町村長さん方から,非常に貴重なご意見をいただきました。砂防部の今後進める砂防関係事業の参考にさせていただきたいと思っていますので,また今後ともよろしくお願いいたします。


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